「病気を治す」って、どんな意味だと思いますか? 例えば内臓脂肪が増えて肥満になった場合、単に体重を落とすことだけで良いでしょうか。あるいは血圧が高くなったら、ただ薬を飲んで正常値にすれば良いのでしょうか。
「病気を治す」とは「原因を取り除く」ことが最も大切で、その結果として症状が治まることが肝要です。ですから内臓脂肪が増えた原因が食べ過ぎの人は食事の見直し、運動不足の人は生活習慣の見直しが必要なのです。その人の状態に合わせた対応が大切です。
実は、虫歯も歯周病も完治しない病気です。だから現代は「痛くなくても歯医者に行く」ことが新常識。頭に「?」が浮かんだ人も少なくないのでは。今回は、最新の歯科医療との関わり方の"裏ワザ"について解説します。
虫歯と歯周病の原因はなくならない
虫歯の原因は虫歯菌で、歯周病は歯周病菌。どちらも口の中に住み着いている常在菌で、居なくなることはありません。医療で病原体を全て死滅させる方法は、いわば人間を圧力鍋に入れるようなもの。つまり、そんなことをすれば菌の前に人間がやられるので不可能です。仮に99%除菌しても、24時間後には元の菌の数に戻ります。
ですから、常に虫歯菌と歯周病菌にさらされるしかないので、症状がない場合(寛解)でもすぐに発症する危険性があり、治療をしても完治とは言いません。
さらに厄介なことに、虫歯菌も歯周病菌も、本当に悪い菌は歯の周りに強靭な薄い膜をはり、自分で行う歯磨きでは除去できません。また免疫や薬も効果がなく、現在医学の力では、歯科医院で除去するしか方法がないのです。「虫歯で歯に空いた穴を治療して埋めたから虫歯は治った」と、勘違いしないで下さい。単に穴を埋めただけで、原因である虫歯菌は相変わらず同居していて危険リスクは変わっていません。
「口は万病の元」顕著に増えている歯周病
歯周病は、歯にこびり付いている菌膜から飛び出した歯周病菌が歯ぐきに侵入し、歯ぐきや骨を破壊し、最終的には歯を失う感染性の病気です。歯周病菌は"最恐の細菌"と言われていて、悪性の歯周病菌を注射されたマウスはその毒性のために、全身の臓器が侵されて死に至るほどです。
歯周病菌は歯ぐきの血管から血液に混ざり、全身の血管と臓器を攻撃して回ります。血液を得ることによって病原性が高くなり、体のいたるところの病気の発症と進行を助長し、認知症やリウマチ、がん、糖尿病など全身の100種類以上の病気に関わっていることがわかっています。また歯周病の全身に影響を与える炎症が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の合併症リスクを上げるメカニズムも解明されてきました。
嚙み締め癖がある人は歯周病進行リスクが4.9倍
歯周病の進行には、噛み合わせの状態や歯の本数などさまざまな要因が関わっています。その中でも、噛み締め癖がある人は、ない人に比べて歯周病の進行リスクが4.9倍です。
この研究は岡山大学大学院医歯薬学総合研究科が日本人を対象に4年の長い観察期間をかけていますから、とても参考になります。理論では「噛み締めない生活をすれば、歯周病の進行を食い止められる」のですが、癖は無意識で行うものなので、実際にしなくすることは難しく、歯周病菌をコントロールすることが何よりも現実的です。
かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所とは
口腔の環境は全身の健康に影響を与え、かかりつけ歯科医に定期的に通うと寿命がのび、医療費の削減にもなるので、厚生労働省は2016年から「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(略:か強診)」認定歯科医院を設定しました。
これまで保険治療には「予防」は適応されませんでしたが、認定された歯科医院だけは一部を拡大し、虫歯や歯周病の症状がない状態でも「重症化予防治療」として保険治療に適応するのです。ただし該当するための条件は難しく、虫歯・歯周病の発症防止治療の実績や、他の医療施設との連携、設備・環境の充実など、多くの条件を満たさないと適応されません。
厚生労働省は、新しい医療体系として2025年までに「地域包括ケアシステム」の構築を目指しています。これは患者さんを中心として、患者さんの地域にある医療機関が連携することで、まるで1つの総合病院のように機能し、自宅にいる患者さんが生活を続けながら医療を受けられるシステムのことです。この地域とは「中学校下」のエリアサイズで、その中に1つのか強診認定歯科医院の設置を想定しています。歯科医院数にすると全体の20%程度になりますが、実際に認定を受けた歯科医院は約10%(H30厚労省発表)です。
か強診を知ることで、選択する際の基準が増えるでしょう。またいわゆる「メンテナンス(予防)」は、か強診以外の歯科医院では保険適用されていないことからも、個人的にはか強診を基準に選んだ方が、予防歯科の歯科医院を選択しやすくなると思います。
もし、現在通院している歯科医院が認定歯科医院でなくても、予防歯科の治療を行なってもらっているのであれば、そのまま通院を続けてください。今後、か強診の認定になる可能性もあります。(但し、先述したようにメンテナンス(予防)の保険適用はありません)。
「予防歯科」それぞれのペースで定期的な通院を
かつて昭和の歯科医院は「痛くなったら行くところ」でした。しかし令和は「定期的に通うところ」です。歯科医院は、あなたの健康パートナーのいるところなのです。
虫歯と歯周病の発症を予防し、全身の健康に大きな影響を及ぼす口腔内の環境を良くする予防歯科とは、自分で日常的に行う「セルケア」と、定期的にかかりつけ歯科医で行う「プロケア」の協働作業なのです。これは自転車の車輪のように、どちらもスムーズにいくことが大切です。つまり「患者も主治医」としての自覚が必要なのです。
プロケアとは、前述した細菌の薄い膜(バイオフィルム)を剥ぎ取る治療(バイオフィルム治療)で、歯科衛生士が行います。そのため、歯科衛生士の有無や人数で予防歯科の規模が変わります。
バイオフィルム治療は歯へのダメージが強く、痛みを伴うように聞こえるかもしれませんが、実は歯の表面を磨く治療なので、歯がツルツルになりむしろ気持ち良い、これまでにない新感覚の治療です。
通う間隔ですが、これは患者さんのリスクや口の中の状況、セルフケアの状態で変わります。毎月通う人もいれば、3カ月あるいは6カ月に一度の人もいます。唾液検査を積極的に行っている歯科医院では、リスクが科学的に分析できるので納得して通院できるのではないでしょうか。 これから歯科医院のホームページを見る時は、アピールポイントを見るだけでなく、「か強診」「歯科衛生士」「唾液検査」の項目にも注目しましょう。