お笑い芸人として、俳優として、そして漫画家としてマルチに活躍する「カラテカ」の矢部太郎さん。先だっては新刊『ぼくのお父さん』を刊行し、再び大きな話題となっています。

インタビュー前編では、漫画家・矢部太郎のルーツに迫りましたが、後編となる今回は、芸人としてのキャリアを改めて振り返りつつ、"好き"を仕事にすることの喜びや難しさについて話を伺いました。

■矢部氏の今の仕事につながる「幼少期の原体験」とは?前編はこちら

志村けんが育んだ「お笑い好き」の下地

―― 漫画家だけでなく、芸人という仕事も好きでやられているんですよね? なぜ芸人の道へと進んだのか、改めて教えてください。

もちろん、好きでやっています。もともとお笑いを観るのがすごい好きだし、僕の出身地の東村山市は、志村けんさんの地元なんです。そんなこともあって、常にお笑いを身近に感じていました。でも、本格的に自分事として意識し出したのは、高校生のときに入江(慎也)くんに誘われてからですね。

―― お笑いコンビ「カラテカ」は、どんな形でスタートを切ったんですか? 高校の文化祭でネタをやったことが始まりです。「ステージで何をやっていいよ」みたいな時間があって、そこでみんなコピーバンドをやったりしていたんですけど、僕たちはコントをやったんです。

―― ネタは矢部さんが書いたんですか?

いえ、そこでやったのは、さま〜ず……当時のバカルディさんのネタの丸コピでした(笑)。僕は三村さんの真似をして「タバコ屋かよ!」なんてツッコんでいたのですが、まぁウケましたね。やるだけでウケるんです。みんなテレビで見たことあるはずなのに、それでもウケるから「バカルディさんってすごい!」と思いました。気持ちよかったし、楽しかったです。

―― その後、オリジナルのネタを作っていくんですね。ネタ作りは矢部さんがご担当されているんですよね?

そうですね。でも大体は作家の後輩とかも一緒に考えてくれたりしています。

―― そこでも、お父さんがやってきた「ものづくり」の影響はありますか?

そうですねぇ。うーん。ネタを考えたりするのを「嫌だなぁ」って思ったことはないので、そこでも父の影響はあるかもしれないですね。もちろん、「あー、ネタ作んなきゃな」と思うこともありますが、やっぱりネタや小道具のことを考えるのは楽しいです。

"好き"を仕事にするのは、本当に楽しいことなのか

―― マルチな活躍をされている矢部さんですが、矢部さんにとって"芸人"とはどんなものなのでしょう?

芸人という仕事は結構、幅が広いので、いろんな仕事がくるんです。「このVTRのロケに行ってくれ」「ドラマに出てください」「ここでエピソードを話してください」とか。そのなかで自分の得意なことが活かせれば、その仕事がもっとどんどんくるんだろうなって思います。実際、漫画を描いてみたらこうして呼んでもらえて、今は漫画に関する仕事がきている、という感じですね。

―― 矢部さんからは、あまり"気負い"のようなものを感じません。

もともと芸人なので、「漫画家に絶対になりたい!」って思っていたわけじゃないからでしょうか。「俳優になりたい」と強く思っていたわけでもないし。だから、いろんな仕事に対してそれくらいの気持ちなのかもしれません。もちろん、どの仕事のどの分野にも専業の人がいて、そういう方へのリスペクトは持っています。そのなかで「僕ならこういうことができるんじゃないか」と考えながら、新しいジャンル、新しい分野の仕事に挑戦しています。

―― どんなことをしていても、ベースには"芸人・矢部太郎"があるんですね。

そうですね。自分からすれば……というか、周りからしてみても、どこまでも芸人だろうなって思うので。**

**―― 芸人も漫画家も、やはり"好き"を仕事にするのは楽しいことですか?

ああ〜、うーん。どうなんだろう……。**

―― というのも、好きなことを仕事にできない人も多いと思うんです。むしろ、仕事は仕事、趣味は趣味と割り切っている人がほとんどかもしれません。

そうですねぇ……うーん、どうなんですかねぇ……。好きなことを仕事にする……かぁ。

―― はい。

……わからないですね。仕事じゃなければ、もっと好きになるかもしれないですね。

―― ……というと?

そんな簡単な話ではないような気がして。芸人の仕事も、好きな部分もあるけど、好きじゃないこともやっぱりありますよね。楽屋で先輩の長話しを聞かないといけないこととか……今にも実名を言ってしまいそうですが(笑)。逆に、好きじゃない仕事の中にも、好きなところもあるだろうし。漫画だって、話を考えるのは大変だったりもします。でも、漫画を読んだり、お笑いを観るのは大好きです。そういう違いがあるのかも……。

―― なるほど。

例えば、何かを作っている人がいるとして、出来上がった作品自体は好きでも、作品を作るという作業は好きじゃないかもしれませんよね。でも、僕は作ること自体が好きだからいいかもしれないですね。それでも、漫画を描いたらたくさん宣伝しなければいけないし、自分で「この本、面白いんです!」って言うのは恥ずかしいですよ(笑)。

―― あっ、やはりそういう思いもありますか?

もちろんです。「本の見どころは?」と聞かれて、自分で説明するなんて恥ずかしいです(笑)。そういうことは好きではないかもしれませんが、やらないといけないということもわかっています。ただ、そういうのも全部含めて、幸せな仕事ができていると思います。それは、いろんな人たちが支えてくれて、力を貸してくれているからですね。

仕事を"好き"でいるために心掛けていること

―― 逆に、好きなことを仕事にすることで、大変なことなどはありますか?

失敗しちゃった仕事とかは、もう「ちょっと近づきたくない」ってなりますね。上手く振る舞えなかった番組とかがあると、毎週録画していても観られないので、溜まっちゃってます(笑)。

―― 好きだからこそ、余計に失敗が辛いんですかね?

うーん。そうですね。でも、誰だって失敗したら見たくないですよね(笑)。単純に逃げているだけです。でも、好きじゃないと、もともとお笑い番組も観ていませんからね。そういう意味では、もともと好きで見ていた番組が、失敗したせいで観られなくなるのは辛いかも(笑)。

―― 何か、仕事をするうえで大切にしていることなどはありますか?

仕事を楽しむために、「やったことがないことに挑戦する」ということは意識しています。そうすることで、いつも鮮度を保って仕事ができると思うので。例えば、漫画も今までの本では白黒だったのですが、今回はカラーにしてみたり。おかげで、すごくいろんなことを考えることができました。

―― 常に"変化"を意識しているんですね。

舞台でネタをしていたときもそうです。いつも座付きでやっていた作家の後輩がいたのですが、毎回、ちょっとずつ新ネタを入れるよう提案してくれていました。確かに、同じネタだけを繰り返していれば、怪我なく舞台を終えられるかもしれません。でも、新ボケ、新ネタを少し入れると、成長できるかもしれませんよね。面倒くさいことかもしれませんし、リスクもありますが、少しずつでも挑戦するようにしています。それは芸人としても、漫画家としても同じですね。

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