体操・内村航平が、まさかの鉄棒落下。競泳・400m個人メドレーでは瀬戸大也が想定外の予選落ち。波乱の幕開けとなった無観客開催での『TOKYO2020』。やはりオリンピックには魔物が棲んでいるのか─。

そんな中、柔道・男子60kg級の高藤直寿が苦闘の末に優勝を果たし男泣き、今大会最初の日本人金メダリストとなった。ここでは、過去に夏季オリンピックを盛り上げた「日本人第1号金メダリスト」を振り返ってみたい。

■「これが僕の柔道です」

「みんなに支えてもらったおかげで勝てました。古根川(実)コーチ、井上(康生)監督には迷惑をかけてばかりだったので結果を残せて本当に良かった。豪快に勝つことはできなかったけど、これが僕の柔道です。ありがとうございました」
歓喜と疲労で顔をクシャクシャにし、涙を流しながら試合直後に高藤はそう話した。

苦しい闘いの連続だった。
準々決勝から決勝までの3試合は、すべてゴールデンスコア方式の延長戦に持ち込まれる。準決勝のエルドス・スメトフ(カザフスタン)戦は11分を超す消耗戦、決勝も粘り強く闘った末に対戦相手・楊勇緯(台湾)を指導3に追い込んでの反則勝ち。

「堅実で泥臭い柔道」
吉田秀彦(1992バルセロナ五輪・柔道男子78kg級金メダリスト)が、そう評した通り決して綺麗な勝ち方ではなかった。
「でもよくやった。リオ(・デ・ジャネイロ大会/2016年)での悔しさが活きた。『絶対に勝つ』との強い思いが伝わってきた」(吉田)。
同感だ。
オリンピックでの闘いの怖さを知っているからこそ、容易には技を仕掛けられない。それでも「絶対に負けない」粘り強い闘いをやってみせた。体力を消耗しても気持ちを切らすこともなかった。
内容重視ではなく、結果重視。その信念を貫き高藤は目標を達成した。だから胸を張って言ったのだ。
「これが僕の柔道です」と。

■過去の「日本人第1号金」

さて、高藤は自国開催の五輪で記念すべき「日本人第1号金メダリスト」となった。これで日本は84年のロサンゼルス大会以降、10大会連続して金メダルを獲得したことになる。

あなたは憶えているだろうか? 
これまでの夏季五輪で最初に金メダルを獲得した日本人選手を。過去10大会における「日本人第1号金メダリスト」を遡って振り返ってみたい。

▶2016リオ・デ・ジャネイロ大会
萩野公介(競泳・男子400m個人メドレー)/競技初日
▶2012ロンドン大会
松本薫(柔道・女子57kg級)/競技3日目
▶2008北京大会
内柴正人(柔道・男子66kg級)/競技2日目
▶2004アテネ大会
谷亮子(柔道・女子48kg級)/競技初日
▶2000シドニー大会
田村亮子(柔道・女子48kg級)/競技初日
▶1996アトランタ大会
恵本裕子(柔道・女子61kg級)/競技4日目
▶1992バルセロナ大会
岩崎恭子(競泳・女子200m平泳ぎ)/競技2日目
▶1988ソウル大会
鈴木大地(競泳・男子100m背泳ぎ)/競技7日目
▶1984ロサンゼルス大会
蒲池猛夫(射撃・男子ラビッドファイアピストル)/競技5日目
▶1980モスクワ
(不参加)

■三宅義信、体操ニッポン

懐かしい名前が並ぶが、やはり柔道選手が多い。
柔道が日本の「お家芸」であることも確かだが、それ以外にも理由がある。1992年バルセロナ大会以降、柔道は開会式の翌日から行われているからだ。競泳が柔道に次いで多いのも日程によるところが大きい。

目を引くのは、田村(谷)亮子が2大会連続して「日本人第1号金メダリスト」に輝いていること。実は、シドニー、アテネ両大会では同じ日に野村忠宏(柔道・男子60kg級)も金メダルを獲得している。しかし、同日に行われる柔道決勝は必ず女子が先、そのため「第1号」にはなっていない。

「日本人第1号金メダリスト」に2度なっているのは田村(谷)だけではない。
遡ると、ひとりのレジェンド・アスリートの名が刻まれている。重量挙げの三宅義信だ。
今大会にも出場した三宅宏美(重量挙げ・女子49kg級)の伯父で1960年代に活躍。64年東京大会、68年メキシコシティ大会を連覇、いずれも「日本人第1号金メダリスト」となっている。研究熱心さで知られ、日本にウェイトリフティングの技術を導入した三宅は、81歳になったいまも指導者として活躍中だ。

さらに「日本人第1号金メダル」に3度輝いたチームもある。
60年代から70年代にかけて他国を寄せつけぬ無敵の強さを誇った体操男子団体は、60年ローマ大会から76年モントリオール大会まで五輪5連覇。その間に、60年ローマ大会、72年ミュンヘン大会、76年モントリオール大会で日本勢最初の金メダル獲得を果たしている。
小野喬、相原信行、遠藤幸雄、加藤沢男、中山彰規、「月面宙返り(ムーンサルト)」の塚原光男らが活躍、“体操ニッポン”の高度な演技は世界を震撼させ続けた。メンバーこそ同じではないが、ファースト金メダルの数は、体操男子団体が最多となる。

異例の無観客で始まった『TOKYO2020』。開催については賛否両論があろう。オリンピックの在り方についても考えさせられる。そんな中、複雑な想いを抱きながらも選手たちは必至で闘おうとしている。ならばテレビの前で応援しようではないか。
そして、過去の大会を思い起こすことでオリンピックを観るの楽しみは、さらに膨れ上がる。

文/近藤隆夫