いよいよ目前に迫った東京2020五輪。どの種目でも熱戦が繰り広げられることは必至だが、そんななかでも特にメダルの期待がかかる注目競技について改めておさらいしたい。
本稿ではサッカー、競泳、体操、バレーボール、野球、陸上競技の見どころを、スポーツ報道を中心に活躍する、ノンフィクションライターの藤江直人氏が解説する。
サッカー
開会式前にグループリーグが始まる男女のサッカーでは、これまでに唯一手にした1968年メキシコ五輪の銅メダル越えを目指す、男子のU-24代表に期待が集まる。
欧州でプレーする20歳のMF久保建英(レアル・マドリード)ら、出場資格を持つ24歳以下の精鋭たちに、ワールドカップを目指すA代表でも主力のDF吉田麻也(サンプドリア)ら3人が、年齢制限の対象にならないオーバーエイジで加わった。
万全に映る陣容に、久保は「出るからには勝つつもりでいくのはどの大会でも変わらない。いい意味で世界を驚かせるような大会になれば」と腕をぶす。順調に勝ち上がれば8月3日の準決勝、同7日の決勝で歴史を変える戦いが待つ。
競泳
夏季五輪の歴史上で競技別で4位となる22個の金メダルを獲得してきた競泳からは、今大会も表彰台の真ん中を狙うトビウオジャパンたちが出陣する。
代表選考会だった4月の日本選手権の男子200m自由形を、1分44秒65の日本新記録で制した松元克央(セントラルスポーツ)には戦後初の期待がかかる。
松元の記録は前回リオデジャネイロ五輪の金メダル記録に並び、2019年世界水泳のそれを上回る。体格やパワーの差が出やすく、日本人にとって不利とされてきた自由形を制すれば、男子では4人目にして戦後の夏季五輪では初の偉業となる。競泳界の悲願もかかってくる男子200m決勝は7月27日午前に行われる。
日本選手権の男子200m平泳ぎを、世界歴代2位の2分6秒40で制した佐藤翔馬(東京SC)も同29日午前の決勝で金メダルを射程距離にとらえている。
一方で白血病を克服して感動的な復活を遂げ、一時はあきらめていた東京五輪代表に名を連ねた池江璃花子(ルネサンス)にも注目したい。リレー種目に専念する今大会は、開会式翌日の24日夜に女子4×100mフリーリレー予選にまず出場する予定だ。
体操
競技別で3位となる31個の金メダルを獲得してきた体操では、そのうち3つを手にした32歳のレジェンド、内村航平(ジョイカル)が鉄棒に絞って4度目の五輪に挑む。
個人総合で2012年ロンドン、前回リオデジャネイロ五輪を連覇。後者では団体総合との二冠も達成したオールラウンダーは、両肩の慢性的な痛みとも闘いながら、患部に負担のかからない鉄棒への専念を決意。葛藤やこだわりを乗り越え、いまでは「鉄棒でなら輝ける」と自信を膨らませ、8月3日の種目別決勝を静かに待つ。
バレーボール
57年前の前回東京五輪を制し、日本中を感動させるとともに「東洋の魔女」と呼ばれた女子バレーボールは、現役時代に天才セッターとして活躍した中田久美監督が大きな期待をかける23歳の若きエース、黒後愛(東レ)や4大会連続で出場を決めた荒木絵里香(トヨタ)、久光時代に中田監督と同じチームだった石井優希(久光スプリングス)を中心に歴史の再現を狙う。
5月下旬から約1ケ月間に渡ってイタリアで開催された前哨戦、ネーションズリーグでアメリカ、ブラジル、トルコに次ぐ4位に食い込んだ。中田監督は東京五輪に臨むメンバーの発表会見で、12人の名前を読み上げながら思わず涙している。
こう語った視線の先には8月8日の閉会式直前に行われる、決勝の光景がすえられていたはずだ。
「伝説に残るチームを作るために、本気と覚悟をかけて挑みたい」
野球
3大会ぶりに五輪への復帰を果たした野球では、稲葉篤紀監督に率いられる日本代表侍ジャパンが、正式競技になってからは初めてとなる金メダルを狙う。
プロ野球(NPB)が公式戦を中断させる協力体制を取り、NPBを代表するスター選手たちが集結した。投手陣には前回に出場した2008年北京五輪を知る田中将大(楽天)、球界の代表する右腕に成長した山本由伸(オリックス)、そして39試合連続無失点のNPB記録を樹立した守護神候補の平良海馬(西武)らが名を連ねた。
打者でもホームラン王争いでセ、パ両リーグのトップに立つ村上宗隆(ヤクルト)と柳田悠岐(ソフトバンク)に加えて、2年連続のパ首位打者へばく進中の吉田正尚(オリックス)、守備の名手・菊池涼介内野手(広島)や甲斐拓也捕手(ソフトバンク)らがそろう。横浜スタジアムで8月7日に行われる決勝がいまから待ち遠しい。
陸上競技
そして、閉会式当日に号砲が鳴る男子マラソンが五輪の華として長く位置づけられてきた陸上では、今大会においては男子4×100mリレーに大きな期待をかけたい。
前回リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得して日本中を興奮させ、2017年、2019年の世界陸上でも続けて銅メダルを獲得。個人種目の100mに目を移せば、長く悲願とされてきた9秒台のスプリンターがこの4年間で一気に4人も誕生した。
代表選考会だった6月の日本選手権の男子100mを制したのは、10秒01が自己ベストの多田修平(住友電工)だった。男子4×100mリレーのオーダは現時点で未定だが、群雄割拠の状況でレベル全体が急上昇した精鋭たちに、得意とする日本伝統のバトンパスも加われば、おのずと期待は8月7日夜に国立競技場で行われる決勝へ膨らんでいく。