●攻めのラップ

──fhánaの活動のなかで『小林さんちのメイドラゴン』のOP主題歌でもあった「青空のラプソディ」は、YouTubeのMV再生回数が3,800万回以上再生されている代表曲のひとつとなりました。そして、ニューシングル「愛のシュプリーム!」で『小林さんちのメイドラゴン』2期のOP主題歌を再び担当することとなります。

佐藤 『小林さんちのメイドラゴン』って、fhánaが反復しているテーマと通ずるところがあるんです。作品ではドラゴンと人間の相互理解や断絶を描いていますが、fhánaも2ndアルバムくらいから「人と人は分かり合うことはできるのか」というようなことをテーマの作品を作ってきました。だから、親和性があったんですよ。いつか終わってしまうかもしれないけども、今を大事にしようという「刹那」が、自分たちの方向性と合っていたのかなと。一方で、『小林さんちのメイドラゴン』は海外でも人気のある作品で、僕たちも海外イベントに呼ばれることが増えました。その結果、fhánaが一段階世の中に認知されるようになったんです。バンドにとってターニングポイントのひとつになった作品なので、2期で再びオファーをいただけたときは嬉しかったですね。同時にプレッシャーも感じました。

──プレッシャー。

佐藤 「青空のラプソディ」は音楽性の面でわりと挑戦した曲なんです。リリースされた2017年の段階では、ああいうディスコソウルっぽいアニソンはあまりなかったので、ちょっと一石を投じるつもりでいたんですよ。それを受け入れていただけた。それなら、2期ではどういう曲にすればいいのかという悩みがありました。

──前作の反響を受けてのプレッシャーを感じていた。

佐藤 そうですね。実は最初はふつうの歌ものポップスを提出していたんです。それがボツとなりまして。今思えばちょっと守りに入っていた気がします。もっと攻めた曲にしないといけない、ということで思いついたのがラップ。以前のツアーでkevinとtowanaがラップを披露したことがあったんです。加えて、「僕を見つけて」というシングルに収録されていたカップリング曲「Unplugged」でもkevinがラップをやっていたんです。kevinのラッパー化計画がバンドのなかで進行していたこともあり、今回はラップでいってみようと曲を作り直し、OKをいただきました。

●その一瞬が永遠

──改めて、「愛のシュプリーム!」はどのような楽曲に仕上がっているのか教えてください。

佐藤 『小林さんちのメイドラゴン』は、異文化コミュニケーション、そして愛と孤独の物語だと思っています。だから、今回は愛と祈りの曲にしようと思いました。ただ、実は『小林さんちのメイドラゴンS』のOP主題歌を書いて欲しいというオファーをいただいたのは、だいぶ前だったんです。

──そうだったんですね。

佐藤 最初にデモを作ったのは2019年。その段階でTVサイズのワンコーラスを作っていて、歌詞も書いて京都アニメーションさんからOKをもらっていました。2019年の段階で、1番の歌詞は完成していたんです。ただ、世間的な情勢も色々と変化して、2期の放送が決定してから改めて2番以降を作ることとなりました。だから、1番と2番以降では、書いているときの状況が違い、ムードもだいぶ変わっています。特にDメロ。サビの後は讃美歌のようになっています。この部分にはアニメの物語や主人公たちの気持ちだけでなく、世の中の状況を踏まえていろいろな想いが詰め込まれています。

yuxuki ラップは音階がないということもあって、歌詞が付いていない状態ではどういう曲になるのだろうと思っていました。ただ、完成した曲を改めて聴いてみると、すごくいい曲に仕上がったなと感じたんです。特に歌詞。フレーズのひとつ、ひとつはキャッチーで明るいのに、沁みる言葉が多いんですよ。ぼくは共感できる歌が好みなのですが、この曲はまさに色々な方に引っかかる言葉があると感じています。

佐藤 歌詞のテーマとして「愛」っていうのは古今東西定番のもので、特に珍しくもないと思います。僕自身も以前はよくあるテーマのひとつで、特別なものとは感じていませんでした。ただ、「僕を見つけて」をリリースして、ツアーを回っているときくらいから「愛って恋愛だけじゃなくて、もっと大きくて深い概念」だと感じるようになりました。愛への気持ちが強くなったんです。それが、今回の曲の世界観にも大きく反映されています。

──「愛」についてはまさに『小林さんちのメイドラゴン』に通ずるところがあると思います。トールの愛はコミカルに重さを描いている部分もありますが、よくよく考えたらすごく切ないなと思っていて。例えば、ドラゴンと人間ではどうしても人間のほうが先に年老いてしまう点。でも、トールは小林さんといることを選ぶんですよね。

佐藤 瞬間と永遠について、考えさせられますよね。トールの人生からしたら、小林さんと一緒にいられる時間って一瞬だと思うんです。でも、その一瞬が永遠なんだよ、みたいな。そういうトールの気持ちも考えながら曲を作りました。

──続いてレコーディングについて教えてください。

kevin これまでアルバムやシングルのカップリング曲でラップをやったことはありましたが、表題曲では初めてだったので、ちょっと恐れ多くて。ただ、「kevinのラップでいこうか」と思ってもらえたことが嬉しかったので、「信頼してもらったからにはかましてやるぞ!」と気合いが入っていたんです。レコーディングしたのは2020年の4月頃で当時を思い返すと、苦戦したなという記憶が残っていますが、自分の精一杯を出し切りました。今聞くと「1年前の俺はこうやって歌っていたんだ」という面白さを感じます。同時に、無事にリリースされるという感慨と、大好きなアニメのオープニングになるということが単純に嬉しいという気持ちもあります。まとめると「超嬉しい」ですね(笑)。

towana レコーディングしていた当時は人が集まるイベントは開催できなくて、エンタメ業界は全然先が見えない状態でした。これから先、私は歌っていけるのかなという不安があるなかでのレコーディングだったことを覚えています。そういえば「青空のラプソディ」のレコーディングをする少し前に、喉の手術をしたんです。当時はすごく気持ちが沈んでいました。そんなとき「青空のラプソディ」が私に希望をくれたんです。そして、今回も不安な気持ちや悲しみが募っているときに、この曲が希望の光を与えてくれた。偶然かもしれませんが、『小林さんちのメイドラゴン』の曲が、私を照らしてくれるんです。

──なるほど。

towana そういう気持ちもあるからなのか、この曲は明るいのに、聞いていると泣きそうになるんですよね。色々な想いがこの曲にはこもっています。これから聞いてくれる人がどういう感想を持ってくれるのか、楽しみですね。