●カップリング曲の聞きどころ
──カップリング曲についてもお伺いします。まずはアーティスト盤に収録されている「閃光のあとに」。こちらはyuxukiさんが作曲を担当されています。
yuxuki カップリング曲を作るとなったとき、サウンド面でまず佐藤さんと相談しました。それで、2021年のfhánaの気分で曲を作ろう、という話になったんです。
佐藤 加えて、パッドのシンセが入って、オシャレなカッティングギターが入って、なおかつ踊れる曲がいいという話をしました。
yuxuki そうそう(笑)。そういう曲が好きなので僕としては難なく作曲に取り組めました。今回、作曲に関しては基本的に僕の家で録音・アレンジまで進めたんです。逆に言えばスタジオではやりにくいことをやろうと思い、音選びから配置までぜんぶ家で緻密に作りこみました。曲のテーマとしては「夏の終わり」。花火大会を見に行ったあと、ちょっと切なくなる感じをイメージしました。
──聞いていて、花火大会を見に行ったあとのセンチな気持ちを思い出しました。
yuxuki まさにそんな感じです。うまく表現できたらいいなと思っていたので、伝わって嬉しいですね。
──レコーディングはいかがでしたか?
yuxuki 今回の曲はふだん作る曲よりも若干キーを低くしているんです。というのも、僕はtowanaの低い声が好きなので。それを上手く取り入れたいと思ったんです。今までにはない取り組みでしたが、特別時間がかかったということはありませんでした。今回もいい感じでしたね。
towana 佐藤さんの曲は基本的に難しいのですが、yuxukiさんの曲は歌いやすくって。テイクも少なく終わるんです。今回は夏の終わりということもあって、ちょっと空気の成分を多くして、切なさを表現しました。低いよりは高いほうが得意なのですが、この曲で自分の低いキーだとこういう響かせ方ができるということを知れてよかったです。楽しかったですね。
──一方、アニメ盤には『小林さんちのメイドラゴンS』キャラクターソングのセルフカバー曲「GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.)」が収録されます。
佐藤 元々は、『小林さんちのメイドラゴンS』でドラゴンを演じる女性キャストたちによるユニット「スーパーちょろゴンず」のための楽曲として作ったのですが、都会的ですごくカッコいい曲が出来たのでfhánaでもやりたい!と。それに「青空のラプソディ」と「愛のシュプリーム!」を「スーパーちょろゴンず」がカバーするという企画があったんです。それなら逆にfhánaが彼女たちのキャラクターソングをカバーする企画をすれば面白いかもという話になり、セルフカバーが実現しました。
kevin ただ、それぞれのバージョンで歌詞が違うんです。キャラクターソングの方は林さんが作詞をされていて、fhánaバージョンはtowanaさんが歌の部分、僕がラップ部分の詞を書きました。
佐藤 キャラクターソングの詞に関しては、異種族同士の断絶や相互理解をテーマにしていて。一方のfhánaバージョンでは、人間同士なのに分かり合えないことを膨らまして欲しいとふたりに話しました。それから、towanaに関してはらしさを発揮してもらって、儚い感じの言葉を入れて欲しいとお願いだけして、わりとお任せしていました。一方のkevinくんとは……二人三脚で作っていきましたね。もうマンガ家とその編集担当みたいな感じでした。
kevin めちゃくちゃやり取りしましたよね。
佐藤 ずっと電話していたよね(笑)。実はレコーディング直前までやり取りしていたんです。送ってきた詞に対してフィードバックをするんですが、こっちが戻しを考えてる間にケビンが寝ちゃうと完成しないので、監視するために電話を繫いでいました(笑)。
kevin ただ、徹夜はよくなかった。頑張って歌詞を書いて、やる気十分でいざレコーディングに臨んだにも関わらず、声の出方が途中からバグってしまって。終いにはレコーディングが中止になって、別日に録り直すこととなりました。
towana 寝不足は、喉にいちばんよくないんだよ。
kevin ……ということも今回のレコーディングで教えてもらいまして。喉って繊細なものだと、身をもって理解しました。
佐藤 声がひずんでいて、ガラガラ声になって音量も小さくなっちゃったんです。クリエイターは徹夜上等でぶっ倒れるまで作業して良いですが、パフォーマーはちゃんと寝て体調管理までが仕事ですね。
towana パフォーマーは体調管理が第一ですよ!
――同時に、towanaさんがパフォーマーとして力を発揮できている凄さも感じられる機会になった。
kevin 本当に! 「愛のシュプリーム!」のMVでは、僕もフロントで歌っているひとりとして、いつもより多めに映るんです。そのプレッシャーが半端なかった。towanaさんはこれをいつも受けてやり切っている。うちのフロントマンの偉大さがよく分かりました。
towana 今回色々と思ったのであれば、労わってくださいね(笑)。
kevin は、はい(笑)。
towana (笑)。それは冗談ですけど、パフォーマーとしていちばん大事なのは体調管理、そして睡眠です。だから、寝不足にならないように気を付けていますね。
●fhánaにとってのエンタメとは
──「GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.)」のレコーディングはどうでしたか?
kevin 過去にfhánaがリリースしたどのラップ曲よりもヒップホップで、歌の収録もすごく大変でした。
佐藤 ラップ部分の収録は本当に大変でしたね。
towana ラップのディレクションが細かすぎて苦戦しました。メロディなら正解があるのですが、ラップはこの文字で上がってくれ、この文字は下がってとニュアンスのディレクションが多く、大変で。「もうそんなに言うんだったらあなたがやってくださいよ!」という無意味な怒りが、レコーディング中に湧いていました(笑)。実はその怒りが声に乗っている部分があります。自分で聞けば分かる程度の表現なのですが、それがラップとマッチして、結果的に仕上がりはよくなったんじゃないかな。
──佐藤さんはその怒りを何となく感じていた。
佐藤 まだやらせるんですか、という空気を感じ取ってはいました(笑)。
kevin ただ、妥協したものを作っても意味はないので。やっぱり最高を出すための努力はしないと。そういう苦労をして完成した一曲なので、ぜひ多くの方に聞いて欲しいですね。
──最後に、皆さんにとってエンタメとはどういう存在なのか教えてください。
kevin ビタミンですね。
towana なんか、TV番組みたいな質問と回答ですね(笑)。
佐藤 ビタミンはCですか、Dですか?
yuxuki 細かい(笑)。
kevin そこまでは考えていなかったけど(笑)。ビタミンって、一日でも接種を欠かせば死ぬというものではないと思うんです。毎日は接種しなくても、生きてはいける。ただ、接種しなければ体が壊れてしまいますよね。エンタメも同じようなものだと思っています。人間が生きていくうえでの必須項目は衣食住ですが、エンタメがないと人間って壊れていっちゃうんじゃないかなって。自分を自分らしく保つために必要なものだと思います。
towana この一年、ライブが今まで通りにできなくなり、自分の歌う場所がなくなっちゃうかもしれないと感じたんです。その時、今までやってきたことは必要なかったことなのかなと落ち込みました。でも、だからこそ私にとって必要不可欠なものだったことを再認識したんです。私が摂取するうえでも欠かせないですし、自分が活きるためにやる、自分が自分であるために歌う。エンタメはそういう存在だと思います。
yuxuki 僕は家で家族と過ごすことが全然苦じゃないタイプなんです。とはいえ、そこにエンタメがなかったら何をすればいいのか、正直困る気がします。エンタメって要は文化だと思うんですよ。今まで通りにエンタメを受け取れなくなったとき、自分にとって、人間にとってこの文化は大切なものだと改めて感じました。エッセンシャルなものですよね。自分たちはそれを提供しています。今回の曲はもちろん、fhánaの活動がエッセンシャルなものになればいいなと思っています。
佐藤 人間と他の生物を分けるものが何なのかと言ったら、やっぱり文化があるかどうかだと思うんです。衣食住が確保できて、インフラが整っていれば生存することはできるでしょう。ただ、生き延びるだけだったら、他の動物や生き物と変わらない。人間が人間であるのは、子孫を残すとは関係のないところで、文化を作って育み、それを継承していくことだと僕は思います。自分が死んだり、血のつながった共同体が滅んだりしたとしても文化を伝えることで、何かを残す。こういうことをやっているのは、人間だけなんじゃないかな。
──なるほど。
佐藤 そういう根源的な部分とは別の話として、産業としてのエンタメを守っていかなければならないという気持ちもあります。ただ、世の中が変わったら衰退していく産業があって、代わりに盛り上がったり新しい産業が生まれたりすることもあります。綺麗事だけじゃ続けられない、文化の継続はそれほど単純な話ではありません。とはいえ、やっぱり本質的にエンタメは文化の一形態であり、人が人らしく生きるためには絶対に必要なもの。そう信じて、これからも僕たちは音楽を作り続けたいと思います。
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fhána。2011年、佐藤純一を中心に、yuxuki waga(ユウキ ワガ)、kevin mitsunaga(ケビン ミツナガ)という3名のサウンド・プロデューサーにて結成。2012年秋、ボーカリストのtowana(トワナ)が加入。2017年にリリースした「青空のラプソディ」(TVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』OP主題歌)はMV総再生数3,800万回を突破。また日本国内だけでなく海外でのライブも積極的に行っており、また昨夏よりオンラインライブも定期的に開催。アニソン界を軸としながらも、ROCK IN JAPAN FESTIVALやCOUNTDOWN JAPANへの出演を続けるなど、ジャンルの壁や国境を越え、軽やかなスタンスで音楽への挑戦を続けている
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●「愛のシュプリーム!」リリース情報
【アーティスト盤】1,320円(税込)
1. 愛のシュプリーム!
作詞:林 英樹 作曲・編曲:佐藤純一
2. 閃光のあとに
作詞:林 英樹 作曲・編曲:yuxuki waga
3. 愛のシュプリーム!-instrumental-
4. 閃光のあとに -instrumental-
【アニメ盤】1,320円(税込)
1. 愛のシュプリーム!
作詞:林 英樹 作曲・編曲:佐藤純一
2. GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.)
作詞:towana, kevin mitsunaga 作曲・編曲:佐藤純一
3. 愛のシュプリーム!-instrumental-
4. GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.) -instrumental-
<ライブ情報>
fhána
Love Supreme! Tour 2021
TOKYO – OSAKA
主催:ORB
9月12日 Billboard Live TOKYO
9月17日 Billboard Live OSAKA