起業を夢見てきた人にとって、店舗を持つことはひとつのゴールだと思います。しかし、本当に重要で難しいのは、ここから事業を継続させていくこと。個人事業主として、新たな戦いの始まりです。

  • 開店しても「お客さんゼロ」は当たり前! それでも私が開業をすすめるワケ /えらいてんちょう

    矢内さんが店長を務めていた池袋の「イベントバーエデン」。現在では全国に6店舗ある。

これまで資金調達も事業計画書も経営経験も必要ない“しょぼい起業”でいくつもの事業を成功させてきた経営コンサルタント「えらいてんちょう」こと矢内東紀さんに、事業継続のポイントについて話をうかがいました。

■見知らぬ人が集い、「縁」が生まれる「店」の魔力

憧れの店舗を持ったとしても、そのままでは、お客さんはまず来ません。私が起業したバーも、当初は1カ月の売上が3000円でした。知り合い以外、1人も来なくて当たり前と覚悟しておくべきです。

そこで「自分は普段どんな店に行っているのか、どうしてそこに行こうと思ったのか、どれくらいお金を落としているのか」を分析し、Twitterなども活用しながら集客を図ります。たまたま来店してくださったお客様には、どうやってご満足いただくかを徹底的に考え、リピーターを増やす努力をします。

有難いことに、コロナ禍でも今のところ私は店を守れています。こんな状況でも、人は人と出会いたがっているからなのでしょう。それも、未知の人との出会いを求めている。個人の家で集まっても、「誰なのか知らない人」が入ってくることはまずありません。

でも、お金を払えば誰でも入れる「店」という場所なら、思いがけない出会いが期待できます。店には、そんな人生そのもののようなすごい魔力があると感じます。だから、「お客さんはまず来ないし、起業は慎重にした方がいい」と思いながらも、店を開くことを私はおすすめしてしまうのです。

  • 「店を開くことは絶対に人生の大きな1ページになります」(矢内さん)

■「大きな儲け」を目指さないと「小さな儲け」もない

実際に店を開いた方や私自身の経験を通してわかってきたのは、「最初から小さい儲けでいいと思って起業すると、小さい儲けさえ出なくなって事業が続かなくなる」ということです。結果的に大きな儲けにならなくても構わないのですが、事業を継続していくには、発展性のある商売を考えることが大切です。

例えば、知り合いのカレー店オーナーは、通販できるオリジナルの「カレー粉」を開発しました。店舗で出せるカレーは1日50~100食程度が限界ですが、カレー粉を通販できれば、店頭ほどの労力をかけずに売上増が期待できます。爆発的にヒットした日には、何億円という売上も夢じゃないかもしれません。

大儲けを目指すには、昨今インターネットははずせません。このカレー店のように通販用の商品を作ってネットショップで販売する。少々制作のハードルが高いですが、YouTubeを配信する。いずれも一度仕組みを作ってしまえば、後はあまり労力をかけなくてもお金を稼いでくれる可能性があります。

このように事業が自走し、「スケールする」仕組みを構築することが、永く事業を継続させる鍵になります。

もちろん、そう簡単に大儲けなんてできないのが商売ですが、「え、こんなアイデアが?」という商品が超人気になって、突然大儲けできるのも商売です。私の場合、開業したバーでインターネット有名人に日替わりバーテンダーを務めてもらったり、「大卒無職バー」のようなニッチなイベントを開催したりしたことが、予想外にお客さんの支持を得て、今ではフランチャイズ化するまでになりました。

  • 「バーのお客さんが増えた理由のひとつに、Twitterでの告知もあります。今やSNSは、売上アップのために欠かせない宣伝ツール。SNSで人気が出たことで、実店舗も人気になった例は少なくありません」(矢内さん)

■起業の最大のごほうびは「人生のきらめき」

個人事業主になる時は「誰にも頼らない、全部自分でやる」という覚悟が必要です。しかし、起業後に事業を継続させていくためには、「自分がいなくなっても仕事がまわる環境づくり」が不可欠です。20代で起業して、始めは1日16時間働けたとしても、30代、40代、50代と、年齢を重ねるごとに人は無理がきかなくなります。

給与を払って人を雇い、仕事を任せられるようにしておかないと、やがて経営者一人ではまわせなくなり、事業はしりすぼみになってしまいます。まずは一度、起業後の自分の時給を算出してみる。それが自治体の最低時給以下だったら、人を雇うことなんてできません。

そこから他人に時給を払えるだけの売上にすることが事業継続の第一目標といえます。大儲けの可能性がある商売の開発が、ここでも重要になってきます。

私自身の経験で言えば、店を開くことで得られる一番大きなものは「人生のきらめき」です。もしかすると大儲けして大金を手にできるかもしれませんが、それはもうオマケです。人は亡くなる瞬間に、結婚した時のことや子どもが生まれた時のことなど人生のさまざまなシーンを思い浮かべるといいます。

私の場合、店をオープンした時や店を閉めた時の思い出が確実に浮かんでくると思います。こればかりは、店を持ったことがないとわからない心境かもしれません。本気で起業に興味がある人、どうしても会社員が無理な人は「失敗もひとつの経験」くらいの気持ちで、ぜひ店を開くことに挑戦してみてください。

  • 「経営者として新商品を開発したり、事業拡大の策を練ったりするためにも、人を雇って店を任せることは大事です」(矢内さん)