――納得がいく演技と、うまくできなかったと感じる演技の違いは、どこにありますか。

うまくできたと感じるのは、そのシーンに集中できたとき。お芝居が上手いとか下手だとか、そういう感覚が消えて没頭できるんです。自分の中で整理がつかないままお芝居をしてしまうと、いろんなことを考えすぎて役に集中できず、後悔につながります。

――そんなお仕事について、水谷さんは過去に「自分と向き合えることが魅力」と話していました。自分じゃない人間を演じる女優というお仕事で「自分と向き合える」とはどんな感覚なのでしょうか。

役が憑依してくれて100パーセント違う人間になれればいいんですけど、そうはいかない。どんな役をやるにしても、誰がやるにしても、絶対に“自分”を通すことになる。だから同じ役をやったとしても、それぞれ違う役が出来上がるんですよね。自分との折り合いをうまくつけながら役を作っていく工程では、役とセットで自分についても考えることになります。

――たとえば、自分にはない考えを持った役が来たときは、どのように折り合いをつけていくのでしょうか。

役にとって悲しいことが私にとって悲しくないときもある。そんなときは、自分にとって同じくらいの悲しみはどんなことだろうと置き換えて考えます。それが自分と向き合う時間になる。いろんな役を演じるたびに自分のいろんな引き出しを開けていくことがすごく楽しいです。

――いろんな役にふれることで、自分も変化していきそうです。

この仕事を始めた頃と今では、大きく変わりました。これまでは自分がどういう考えを持った人間で、どういうタイプの人間で、なんて考えたこともなかったんですけど、今は「自分にはこういういいところがあって、こういう悪いところがある」と、客観的に自分を見られるようになったと思います。

――奥深いお仕事ですね。同じ事務所には、同世代の福原遥さんや大友花恋さんもいらっしゃいます。2人の活躍に刺激を受けることはありますか。

2人が忙しくてなかなか予定が合わないときがあると、私もこの時間で何かしなきゃなと励みになりますね。外に出られなかった自粛期間中には「せっかく時間があるから、身になることをしよう」とテレビ電話をつないでギターの練習をしました。かなり前ですが、3人でお泊まり会をしたときはYouTubeを見て筋トレしたことも。真面目で素直な2人なので、一緒にいると「頑張ろう」とやる気が湧いてきます。

――仲がいいだけじゃなく、お互いを高め合える関係だというのが伝わります。「真面目で素直な2人」という表現は、“お姉さん”のような目線で2人を見ているようにも感じますが。

一応一番年上ですが、しっかり者は花恋ちゃん。遥ちゃんと私は同じくらいだと思っています(笑)。でも、会えない時間が続いて久しぶりに会えたときにふと「こんないい子に育って……!」という気持ちになることがあります。

――最後に『禍話』撮影の感想と今後の目標を教えてください。

本格的なホラードラマに参加させて頂ける機会は滅多にないので、とてもうれしかったです。役どころについても、これまではどこか冷めていたり、斜に構えていたりというキャラクターを演じることが多かったので素直な女の子「加藤よしの」を演じられて楽しかった。個性的な衣装のおかげで「ホラーが好きで自分をしっかり持っている女の子」という想像も膨らみました。

これからもいろんな役にチャレンジするのが目標です。そのたびに悩むと思うけど、自分と向き合いながら作り上げていくことがとても楽しいのでたくさん悩めるような思い切った役を演じてみたいです!

■水谷果穂
1997年11月3日生まれ。静岡県浜松市出身。2012年、祖母の応募をきっかけに芸能事務所・研音に所属し、2013年4月、学校法人大原学園のテレビCM「飛びたい気持ち」編でデビュー。その後、ドラマや映画に出演しながら2017年7月には歌手デビューも果たす。2019年11月、ファッション雑誌『Ray』(主婦の友社)の新ユニット「Raygirl」のメンバーに。主なドラマ出演に、『リアル脱出ゲーム 密室美少女』(13年 テレビ東京系)、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(16年)、『なつぞら』(19年)、『凪のお暇』(19年 TBS系)、『イチケイのカラス』(21年 フジテレビ)、映画出演に『ホラーの天使』(16年)、『honey』(18年)、『さくら』(20年)、『ブレイブ -群青戦記-』(21年)など。