SNS上で密かに急増している「#精子提供」の実態を追ったフジテレビのドキュメンタリー番組『#精子提供 ~妊娠へ それぞれの選択~』が、10日(26:00~)に放送される。

  • 海外精子バンクを利用した佐藤夫妻=フジテレビ提供

妊娠を目的に精子の提供を求めるというハッシュタグ「#精子提供」。番組が取材を進めると、SNSで精子提供者を募る1人の女性と知り会った。彼女が人知れず行う“孤独な妊活”…そして精子提供者の男性の意図は。街角でひっそりと行われる“精子提供”の実態に迫い、さらに、海外の精子バンクを利用し妊娠した夫婦に取材すると、“夫婦の葛藤と覚悟が見えてきた。

「母になりたい!」とSNSの片隅でつぶやかれたその声の主は、どこにでもいそうな普通の女性・瞳さん(仮名・42歳)。結婚するも子供を授からず離婚、今は一人暮らし。彼女には「このまま何十年も1人で暮らしていくの?」という恐れがあった。

パートナーを見つけるべきことは分かっているし、出会いも探している。しかし、子供を望むために残された時間は多くないと彼女は言う。パートナーを見つけてからでは間に合わない。そうして彼女はSNSでの精子提供に頼ることを決めた。

日本には、精子提供をする医療機関も存在する。しかし、日本産科婦人科学会のガイドラインにより、精子提供の対象となるのは法的に認められた夫婦に限られている。瞳さんは独身のため、医療機関には頼れなかった。精子提供者を募るとすぐさま十数人の男性たちから返信が殺到。条件に合致した男性たちから実際に精子を提供してもらうことになった。

初めての精子提供、待ち合わせは駅だった。男性と直接会うのは、その日が初めて。オンライン上で話したことしかないという。本名すら知らないまま男性から精子を受け取った彼女は足早に自宅へと戻り、その手で精液を体内へ入れた。そして数日後、彼女が会ったのは別の精子提供者だった。その男性から要求されたのは誓約書に署名をすること。その誓約書にはたとえ出産したとしても一切の養育費などは請求しない、つまり一切の関係を断つことなどが記されていた。彼女はその契約書に迷わず署名し、精液を受け取ると家路に急いだ。

一方で、「精子提供ボランティア」と名乗る男性が取材に応じた。待ち合わせに現れたのは和人さん(仮名・28歳)。2015年から精子提供者として活動している。すでに50を超える新たな命が和人さんの精子から生まれているという。妻子がいながら精子提供をする目的とは? 生まれた子供に何を思うのか?――精子提供者として、カメラの前で赤裸々に語った。そして精子提供の現場にも密着。街角で確かに行われる、精子のやり取りを追った。

  • 精子提供に向かう和人さん=同

精子提供を検討するのは独身女性だけではない。取材に答えてくれたのは佐藤耕輔さん(仮名・41歳)と優子さん(仮名・36歳)の夫妻。夫は無精子症と診断されたものの、妻の遺伝子だけでも受け継いだ子供が欲しい。そんな夫婦は、第三者からの精子提供を検討した。

日本には無精子症の夫婦などを対象に、精子提供を行う医療機関がある。1948年から行われている医療機関での精子提供……しかし、そこには夫婦を悩ます理由があった。それは血液型以外、精子ドナーの情報が明かされないということ。いわゆる“出自を知る権利”が認められていないのだ。

だが、佐藤さん夫婦は生まれてくる子供にはどのような方法でその子が生まれ、誰の遺伝子を受け継いでいるのかを隠さず伝えたいと考えていた。そして彼らは海外の精子バンクを利用することを決めた。選んだのはデンマークに本拠を持つ世界最大級の精子バンク。そこでは多くのドナーが身元を明かしており、生まれる子供にとっての「出自を知る権利」が担保されていた。

だが、日本人夫婦の間で育つ子供が外国人の遺伝子を持っているということに葛藤も…。出産を間近に控える夫婦に密着すると、いまだ見ぬ子を思う、親としての覚悟がそこにあった。

ナレーションは安達祐実が担当。フジテレビの大内由之ディレクターは「少子化の時代に私たちは生きています。コロナ禍による経済不安から、より一層、その傾向は強くなっているといいます。必ずしも、子供を育てずとも幸せに生きられるのではないか…私も、そう考えたことのある1人です。そんな私にとって、瞳さんや佐藤夫妻…その他多くの当事者の皆さんを取材する日々は、まさに発見の連続でした。子供を持つことを、より本質的に捉え、具体的に手段を模索する姿は、これからの生き方を模索する姿のように、鮮烈に私の目に映りました。そして同時に、今の環境が子供を望む全ての人にとって、安心して身を委ねうるものではないことを知りました。親になるために手探りで前に進む日々…正解も、進むべき道もありません。精子提供を親のエゴと片付けるのは簡単かも知れません。しかし、誰よりも親になることを真剣に考えているのは彼らかもしれません。取材に応じた彼らの今の姿が、今後、誰かの道標となることを祈っています」と話している。

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