フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』の前チーフプロデューサーで、映像制作会社・Hariver代表の張江泰之氏が、「美容整形」にフォーカスしたYouTubeチャンネル『整形GoodDoctor』を、1日に立ち上げた。

『ザ・ノンフィクション』で、「整形シンデレラオーディション」の密着シリーズや、有村藍里が美容整形手術を告白した「あなたの顔、治します。」(19年3月3日放送)などを手がけてきた同氏がプロデュースする新たな美容整形コンテンツだが、どんな狙いを込めているのか――。

  • 『整形GoodDoctor』初回配信より

    『整形GoodDoctor』初回配信より

■バラエティに富んだ美容外科医にフォーカス

『整形GoodDoctor』は、美容外科医にフォーカスを当てた1回約30分のドキュメンタリーチャンネル。近年、美容医療の需要が高まり、患者も医師も増えているが、「いろいろ取材していくと、お金をいかに取るかしか考えていない医師や、雑な技術で施術するような医者も見受けられたんです。それであれば、患者さんが『こういうドクターなら安心して身を任せてみたい』という判断基準を立ててもらえるように、1人1人のドクターのドキュメンタリーを作ろうと思いました」(張江氏、以下同)と話す。

今回のドキュメンタリーチャンネルには、約10のクリニックが取材に応じている中で、施術のスピードが格段に速い医師、「骨切り」「脂肪吸引」といった各部位に優れた腕を持つ医師、必要以上の部位の整形を断る哲学を持つ医師、患者が納得するまでとことん話を聞いてくれる医師、子育てママさん医師など、密着対象は実にバラエティに富んでいる。中には、緊張から自分の言葉で話せなくなってしまう患者に対し、冗談を交えて気持ちを安らげるというカウンセラーのような医師も。

「『風邪だからこの薬』と診断をするわけではないので、コミュニケーションも大事だし、もちろん腕も大事だという意味においては大変な仕事だと思いますね」というが、その分様々な切り口でドクターを紹介できる企画に。かつて、テレビ番組発で「カリスマ」と呼ばれる料理人や美容師などがスターになっていく現象があったが、美容外科医にもそのポテンシャルがあると言え、それによって美容医療業界の一層のオープン化につなげたい考えもあるようだ。

一方で難しいのは、患者側の取材交渉。「メインはドクターなのですが、やはり整形によって変わる女性も紹介したい。そうすると、自分を変えたいという決心を全部さらけ出してくれる人を見つけるのが難しいんです。整形なので顔にモザイクをかけるわけにいきませんから」といい、繊細な彼女たちの取材にあたるディレクターは『ザ・ノンフィクション』時代からともに仕事をしてきた信頼あるスタッフが担当している。

■テレビでは映せないリアルな施術シーンも

テレビに比べ、施術シーンをリアルに映し出すことができるのも配信の強み。

「やっぱりドクターの手さばき、メスさばきを見せたい。初回に登場する東京イセアクリニック銀座院のドクターは、還暦を過ぎているのに、通常7時間かかる施術を3~4時間くらいでやってしまうのですが、具体的にどこがすごいのかというのを描くには、やはり手元の映像が必要になってくるんです」

また、“大義”がなくても描くことができるというのも、YouTubeならではだという。

「テレビだと企画を成立させるために、『なぜこれをやる必要があるのか』『なぜこの女性を追っていくのか』という理屈が求められるのですが、今の美容医療にやってくる女性たちには、整形に対して大きな動機があるわけではなく、軽い気持ちの人がどんどん増えてきているんです。そういう実態があるということも、YouTubeであれば描くことができると思っています」

■テレビ制作者がYouTubeに続々参入

張江氏が昨年プロデュースしたフジテレビ系特番『あなたを美しくします! 美容(ビューティ)ゴッドハンド』(20年9月13日放送)も美容外科医をメインに取り上げる内容だったが、こちらが千原ジュニアのMCでスタジオ展開もあったバラエティであったのに対し、今回の『整形GoodDoctor』は真面目なトーンでナレーションも入れた、テレビドキュメンタリーのパッケージに転換した。

その背景について、「以前のYouTubeは短いコンテンツが好まれていましたが、今はテレビの制作者がどんどん参入して、テレビのパッケージのコンテンツが増えているので、ユーザーが30分程度の長さも受け入れるようになったんです」と説明。

さらに、「私も出演したのですが、今『街録ch』というチャンネルがすごく見られている現状から、生身の人間を描くコンテンツに可能性があるのかもしれない。私のところにも、『ドキュメント系がやりたいんです』と相談に来る人がいますし、人々がリアルな人間模様を求めているような気がしています」とYouTubeの潮流変化も感じながら、そのニーズに応える今回のチャンネルに意気込んでいる。

●張江泰之
1967年生まれ、北海道出身。中央大学卒業後、90年NHKに入局し、『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などを担当。05年フジテレビジョンに入社し、『とくダネ!』やゴールデン帯の特番などを制作、15年からは『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーを務めた。19年6月末で同局を退社し、動画制作会社「Hariver」を設立。北九州連続監禁殺人事件の犯人の息子による『松永太の息子』チャンネル、“ゴーストライター騒動”で世間の注目を集めた作曲家・佐村河内守氏の『MALLEVS MALEFICARVM』チャンネルなどYouTubeチャンネルのプロデュースや、企業動画の制作、BSテレ東『THE名門校 日本全国すごい学校名鑑』のプロデューサーなどを務める。