「日本人は休み方が下手だ」。メディアを通じてよく指摘されることのひとつです。働き方改革が進むなかでも、仕事に追われる多忙な平日を送るあまり、休日にはただだらだらと過ごしてしまうという人も多いのではないでしょうか。

  • 「働き方改革」ではなく「休み方改革」こそが必要だ。人生向上の鍵は、「休み方」にあり /リーマントラベラー・東松寛文

そんなだらだらした休日の使い方ではなく、自分が本当にやりたいことのために休日を使う「休み方改革」を提唱するのが、大手広告代理店に勤めながら週末を使って世界中を旅してきた「リーマントラベラー」の東松寛文さん。その休み方改革とは、どんなものなのでしょうか。

■人生の中心を仕事から自分に変える「休み方改革」

著書やメディア出演などを通じてわたしがつねに提言しているのが、「働き方より休み方を見直すべき」、すなわち「休み方改革」を進めようということです。

休み方改革とは、ひとことでいうと「人生の中心を仕事から自分に変える」ということ。休日を、仕事のための休息にあてるのではなく、自分が本当にやりたいことのために使うのです。

休み方改革を進めるべき理由は、自分の力で人生を充実させることができるからです。働き方改革は国の施策や勤務先の企業の方針がありますから、個人の力でどうこうできるものではありません。コロナ禍で急速に広まったテレワークだって、「それはいい」と個人で思ったところで、勤務先のトップの判断で導入できないこともあるでしょう。対して、休み方の場合は、仕事によってある程度の制約はありつつも、自分の力で変えることができます。

そうして休み方を見直すことは、いくつものメリットをもたらしてくれます。

【「休み方改革」によるメリット】

1.人生の幸福度が上がる
2.未来が充実する
3.仕事の効率や評価が上がる

ひとつ目のメリットは、「人生の幸福度が上がる」ということ。幸福度は、「どれだけ主体的に自分の行動を決定したか」に大きく左右されます。レストランに行って自分が食べたいものではなく誰かが勝手に決めたものを食べさせられても、楽しくありませんよね? もちろん、美味しくも感じられないでしょう。

会社に与えられた仕事をこなすために貴重な休日をただの休息にあてることは、まさにそれと同じことです。そうではなく、「今日はこれをやるんだ!」と自ら主体的に決めたことを行うことで、幸福度は確実に上がります。

■休み方改革で仕事の評価が上がり、未来が充実する

休み方改革によるふたつ目のメリットは、「未来が充実する」です。子どもの頃には1週間をとても長く感じていたのに、大人になるとあっという間に感じます。あらゆる経験が少ない子どもにとってはすべての出来事が新鮮に感じられるのに対し、多くの経験を積んできた大人にとっては日常の出来事があたりまえのものでしかないことがその理由だといわれます。

すると、子どもの頃には持っていた、「1週間後のテレビアニメの放送日が待ち遠しい」といった感覚も、大人になると失ってしまいます。充実した未来が待っているのは、子どもと大人のどちらでしょう? もちろん、1週間後の未来を楽しみにしている子どもですよね。

休み方改革は、子どもの頃には持っていた「未来が待ち遠しい」という感覚を取り戻させてくれます。ただ仕事のために休息するのではなく自分が本当にやりたいことをやるので、その出来事は記憶に鮮明に刻まれることになる。まさに、あらゆる出来事を新鮮に感じられていた子どもの頃と同じ状態になるというわけです。

そして、「今度の休みはこう過ごそう!」というふうに決めますから、テレビアニメの放送日を楽しみに待つ子どもと同じように、「未来が待ち遠しい」と感じられ、未来を充実させることができます。

休み方改革の3つ目のメリットは、「仕事の効率や評価が上がる」です。自分がやりたいことを休日に行うためには、仕事を休日に持ち越すことはできません。そのため、「どこかに無駄がないか?」と仕事の進め方を見直すことになるので、仕事の効率が上がります。さらに、そうやって効率よくスピーディーに仕事を進められれば、もちろん周囲の評価も上がるでしょう。

あるいは、自分のやりたいことをすることが、仕事上のアイデアにつながることもあると思います。仕事ではないことで得たインプットを仕事にフィードバックできるのですから、仕事のことだけを考えている人と比べて、仕事の幅も広がるといえます。

■「休んだほうがいい」というマインドが生むさらなるメリット

そのように休み方改革のメリットを知ると、「休んでいい」ではなく「休んだほうがいい」と感じられるマインドシフトが起こります。このことが、さらなるメリットを生んでくれるのです。

働き方改革が進むなかでも、多忙な日本のビジネスパーソンには、「休みにくい」とか「休むことはよくないこと」といった感覚はどうしても根強く残っているものです。ですから、せっかく休めるときであっても、「休んだほうがいい」ではなく「休んでいい」というふうに感じてしまいがちです。

このことは、コロナ禍によってテレワークをしている人でも、多くは変わらないと見ています。以前の働き方には必要だった移動時間などがなくなったことで、これまでより自由に使える時間は増えました。でも、自分のためではなく仕事だけに時間を使ってきた人だと、その時間でさえも「本当に休んでいていいのかな…」と不安に感じてしまうのです。

その不安は、テレワークによってむしろ増えたという見方もできるでしょう。オフィスでは同僚の姿を見ることができました。遅くまで残業していても、「みんなと一緒に頑張っている!」という感覚があり、仕事に集中することで不安を感じることなどなかったはずです。ところが、テレワークの場合には同僚の姿が見えませんから、それこそ「休んでいていいのかな…」という不安をひとりで抱えてしまうのです。

でも、自分のやりたいことのために休日を使うことのメリットを知れば、「休んだほうがいい」と感じられ、不要な不安を抱えることがなくなります。そうして精神的な安定を得られることもまた大きなメリットでしょう。メンタルが安定している人とそうでない人のどちらが仕事で成果を挙げられるかといったら、その答えは明白です。

休日を仕事のための休息にあてるのではなく、自分が本当にやりたいことのために使うだけで数多くのメリットが得られるのですから、こんなに気軽でお得なことはありません。みなさんが休日の使い方を見直し、人生の中心に自分を据えて、充実した毎日を送れることを願っています。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人