厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センターが主催する「第1回 自殺報道のあり方を考える勉強会~報道の自由と自殺リスクの狭間で~」が20日、オンラインで開催され、100人超えるメディア関係者が参加した。

  • いのち支える自殺対策推進センターの清水康之代表理事=同センター提供

■報道が後押しになってしまった

同センターの清水康之代表理事は、昨年7月の有名俳優、同9月の有名女優の自殺報道後に自殺者数が急増したという状況を報告。それに加え、相談窓口に寄せられた「有名人の自殺に関する記事が気になってネットで読み続けているうちに、死にたい気持ちが再燃してしまった」といった実際の声を踏まえ、「新型コロナの影響によって、仕事や生活、人間関係等に関する悩みや不安を抱えていた人たちが、相次ぐ有名人の自殺報道に触れて、自殺の方向に後押しされてしまった。それで実際に亡くなる人が増加したのではないかと、私たちは捉えています」と、分析データに基づいて説明した。

昨年は有名人の自殺が相次ぎ、同センターではそのたびに、WHOが定める「自殺報道ガイドライン」を踏まえた報道の徹底を要請する注意喚起の文書をメディア各社(82社242媒体)に向けて送付したが、その回数は昨年だけで9回にも及んだ。

そうした取り組みもあり、最近では自殺報道のニュースや記事の最後に、悩んでいる人に向けた相談窓口を周知するメディアが増加。この結果、報道後に窓口への相談が殺到するようになったそうで、「相談を受けた中には、まさに死のうと思っていた方もいらっしゃいました」(清水氏)と、具体的に抑止につながった事例もあったそうだ。

■死にたい気持ちに前向きに対処した体験を伝える…NHKの取り組み

この勉強会では、NHKでの自殺抑止への取り組みについても紹介された。同局では、死にたい気持ちに前向きに対処した物語を伝えるなど、自殺報道の仕方によって自殺を抑止するという「パパゲーノ効果」に着目。放送番組やウェブで、死ぬこと以外の道を選んだ人の体験談を伝えることで、自殺抑止を目指すプロジェクトを展開している。

番組は、中川翔子、大森靖子ら有名人を含む5人のパパゲーノ(=死にたい気持ちに前向きに対処した人)へのインタビューで構成し、放送後に動画を特設サイトで公開。中川は、18歳のときに本気で「死のう」と思ったとき、目の前に通りかかった猫をふと触ったことがきっかけで気が紛れ、「今日は1回やめようかな」と思い立ち、そこから気持ちが変わったという体験を話している。

こうした動画に対し、SNSでの反響は「否定的なものは少なかったと感じています。特に多かったのは『自分もそういう気持ちである』と共感したり、つらい気持ちを吐露するものや、『自分の場合はつらいときにこうしてる』という知恵の共有といったリアクションが見られました」(NHK大型企画開発センター 渡辺由裕チーフ・プロデューサー)という。

また、これによる抑止効果を測定するため、それぞれのインタビュー動画を視聴した人へのアンケート調査を実施。対象者の「死にたいと思ったことがある」程度によって差はあるものの、4割以上が「ポジティブになった」、5割以上が「死にたい気持ちがやわらぐ」、約6割以上が「共感できる」と回答しており、一定の効果が見られた。

今後は、引き続きコンテンツを増やし、取り組みをブラッシュアップすることや、放送時間やメディアの検討を進める方針。また、「1週間以内に死にたいと思ったことがある」という人への効果が低い傾向が見られたため、その対応策を検討するとしている。

  • NHK大型企画開発センター 渡辺由裕チーフ・プロデューサー=同

悩んでいる方の相談窓口があります。下記をご覧ください。
電話:よりそいホットライン
SNS:生きづらびっと
いのちと暮らしの相談ナビ(相談窓口検索サイト)