2001年に初演されて以降、世界中で繰り返し上演され、2014年には映画化もされた『The Last 5 Years』は、異なる時間軸で展開される男女のすれ違いを題材にした傑作ミュージカルだ。熱狂的なファンを持つ同作が、新鋭の演出家・小林香を迎えた新演出バージョンとして再構成され、6月に上演される。今回、3組のキャストがカップルを演じ、ジェイミーを演じる一人として俳優の水田航生が出演する。

  • 水田航生 撮影:蔦野裕

水田は「オファーいただいて光栄な気持ちもありますが、プレッシャーのほうが大きい」と心境を告白。その理由は、山本耕史にある。山本は2005年・07年・10年と過去3度ジェイミーを好演し、高い評価を得た。尊敬する存在で、プライベートでも仲がいい山本からジェイミーを継ぐことになった水田が、役への想いや山本との忘れられないエピソードを明かしてくれた。

山本から「こういう作品があって、昔ジェイミーを演じたんだ」「曲がかっこいいんだよ」などと、『The Last 5 Years』について間接的に聞いていた水田。そのときは将来、自分がジェイミーを演じるとは夢にも思わなかった。

『The Last 5 Years』は小説家のジェイミーと駆け出しの女優のキャシーの5年間の物語。ジェイミー目線では恋に落ちるところから決別まで、キャシー目線では愛の終わりから幸福な恋人時代までを逆行する形で描く。2人の時間軸が合うのは幸せの絶頂期となる結婚式のシーンのみ。全編“ほぼ歌”で構成され、ジェイミーとキャシー以外の登場人物はなし。たった2人だけのミュージカルで、それゆえ山本も「本当に難しい作品」と話していたという。

「耕史さんにジェイミーを演じますと報告したとき、『マジで難しいよ。できるのか、お前』というのが最初のリアクション。愛のあるプレッシャーをかけられましたね」と振り返る水田。細かな役作りの話はしていないが、「耕史さんは『この作品はミュージカルだけど“芝居”だから』と繰り返し言われました。僕が歌のスキルを伸ばしたいと言ったら『ある意味で歌になりすぎないようにしなよ。やっぱり歌も芝居だ』と。そう教えてくれました」と明かす。

山本との出会いは2014年に上演されたミュージカル『オーシャンズ11』。作品が終わっても交流は続き、毎日飲みに行っていた時期もあった。「俺の青春時代は耕史さんとの飲みの思い出ばかり。耕史さんがご結婚される前は朝まで飲んで、耕史さん家に行って、Hulu見ながら寝落ちする…というループをずっとしていました。どれだけ奢ってもらったか(笑)」。

2人でいるときの会話は「記憶に残らないような話ばかり」と笑う水田だが、「20回に1回は役者として悩んでいることを口にすると、親身になって相談に乗ってくれる。本当に兄貴肌なんです」という。

「正直に言うと、役者を辞めようと思ったことがあった。若気の至りで色んなことを人のせいにしてしまっている時期で、もう全部1回投げ出したくなった。そのとき耕史さんに『辞めようと思う』と言ったことが、実は1回だけあるんです」。そのとき返ってきた反応は、水田の予想を反するものだった。

「当時の耕史さんなら『辞めたければ辞めろ、やりたいことやれ』と言うだろうと思っていたんです。でも、耕史さんは『辞めるな』と。『続けることに意味があるから、お前は続けろ』と言われて、意外でした。俺は本気で相談しているわけではなく、軽い感じだったけど耕史さんはガチで返してくれた。その言葉が意外だったからこそ記憶に残っていますし、忘れられないです」と感慨深い。「いま役者を続けてきてよかったと思うので本当に感謝ですね。『辞めろ』と言われていたら今ここにいないかもしれない」と山本に頭があがらない。