スーパー戦隊シリーズの新作がスタートし、前作のキャストたちがそれぞれ新たな道に進みだす季節。例年であればドラマや映画出演決定の報がメディアに寄せられるこの時期に、一通の意外なメールが届いた。

  • 水石亜飛夢(みずいし・あとむ)。1996年生まれ、神奈川県出身。2012年、舞台『ミュージカルテニスの王子様2ndシーズン』で俳優デビューを果たし、特撮ドラマ『牙狼<GARO>-魔戒の花-』(2014年)でクロウを演じて特撮ファンから注目された。映画『いぬやしき』(2018年)『センセイ君主』(2018年)、『笑いの枝折り』(2019年/主演)や、テレビドラマ『相棒 season17』(2018年/第4話)、『あなたの番です』(2019年)などに出演。そして『魔進戦隊キラメイジャー』で押切時雨(キラメイブルー)を演じて高い支持を得た。撮影:大塚素久(SYASYA)

差出人は、今年2月に最終回を迎えた『魔進戦隊キラメイジャー』で押切時雨(キラメイブルー)を演じた水石亜飛夢の担当マネージャー。内容は、水石がひとり親家庭へ向けた食糧支援のクラウドファンディング「Be A HEROプロジェクト」を立ち上げたため、情報の拡散に協力してほしいという呼びかけだった。メールには水石のコメントとともに、取り組みに対する熱い思いがびっしりと綴られていた。

水石は今回のクラウドファンディングのリターンで、法人・個人向けに稼働するメニューなど、自らが汗をかくことを選んだ。もちろん事務所の協力なしにはできないことだが、「旗振り役になる以上、責任を伴う」という水石自身の強い思いも反映されている。さらに実際に食糧を各家庭に送る「認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン」の事務所で一緒に作業する様子も生配信し、資金の使い道を支援者にわかりやすく伝える活動も行っている。

SNSを通じた水石の呼びかけを中心に、各メディアも取り組みを次々に取り上げ、クラウドファンディングは終了を待たずに当初目標額の300万円を達成。最終的には3倍を超える986万円を集めた。

水石が橋渡し役となったことで、グッドネーバーズ・ジャパンによるひとり親家庭を対象としたフードバンク「グッドごはん」の存在や、物品寄付などお金以外の支援方法を知ることができた人も少なくないだろう。そうした面からも、「Be A HEROプロジェクト」の意義は大きい。あらためて、水石に今回の取り組みについて訊いた。

――これだけ多くの支援が集まることは予想されていましたか?

想像以上でした。こうした活動はまだ少ない気がするので、僕自身も最初のボールを投げる時は怖かったんです。どういう反応が返ってくるんだろうと。でも、いまのところは誹謗中傷というかアンチというのを僕はまだ目にしていないので、安心していました。

――確かに、海外では著名人が表に立った支援はもっと多い印象がありますね。

僕なんかは、まだまだ名前を知ってくださっている方も多くありませんから、いわゆるインフルエンサーの方がこういう活動をされたらもっと大きな力になるはずだと思うんです。みなさんがもっとやったらいいなと思うし、今回の取り組みがちょっとでもそのきっかけになったらうれしいです。

――でも、少なくとも水石さんの取り組みをメディアが取り上げたのは水石さんの人柄だと思います。『キラメイジャー』制作が決まった際にもインタビューをさせていただいたのですが、水石さんはこちらからのお願いに本当に誠実に応えてくださって、真面目すぎるくらい真面目という印象が強くありました。まわりのスタッフさんからもいい評判を聞いていたので、水石さんが旗振り役になるのなら……と思って記事にさせていただきました。

ありがとうございます。いろんな方たちの支えがあって僕も踏ん切りがついたところはあります。事務所も社会貢献に対して積極的だったので、いろんな相談に乗っていただいたことで、今回のプロジェクトにたどり着くことができました。

――クラウドファンディングのきっかけは、『キラメイジャー』ファンでもあるひとり親の方からのお手紙だったんですよね。本当に苦しい状況で、命を絶とうとする寸前まで思い詰めたけれど、『キラメイジャー』を見て思いとどまることができたと。私自身、すごく衝撃を受けました。こうしたお手紙は多かったのでしょうか。

正直、あそこまでご自身の内情、苦しさが綴られたお手紙はあの一通だけでした。大変な時期ですから、「コロナ禍で本当に大変だけど、キラメイジャーのおかげで元気をもらった」というお手紙はたくさんいただきました。でも、辛い状況と命を天秤にかけるようなお手紙は一通だけでした。もちろん、それが僕の元に届いているか届いていないかの違いであって、同じ思いをされている方はほかにもたくさんいらっしゃると思います。

――そこから、水石さんは事務所を通じてグッドネーバーズ・ジャパンさんに連絡を取って「Be A HEROプロジェクト」を立ち上げられました。驚いたのは、リターンの内容です。普通なら販売されるようなグッズや俳優自身の稼働がリターンになっています。

事務所の方と知恵を絞って、考えうる限りのリターンでした。それぞれのご家庭への支援ではありますが、旗振り役になる以上は責任を伴うと思っています。その証明として、「僕もこれだけ汗をかきます」ということはやらなければならないと思いました。

――水石さんご自身が「グッドごはん」のボランティアに参加している様子を生配信されていたのも、すごく勉強になりました。

「グッドごはん」という活動自体がもちろん温かいということはわかっていたんですけれど、実際に参加して、やっている方もこんなに温かいんだということを感じました。みなさんすごく優しくて心が温かい方々ばかりなんです。一方で、生配信でもお伝えしましたが、配布の対象世帯数が増えているにもかかわらず、支援や寄付があまり増えていないという問題に直面していることもわかりました。

――ボランティアに参加して、特に感銘を受けたことはありましたか。

お伺いした時に、各ご家庭からグッドネーバーズ・ジャパンさんに送られた感謝のメッセージを見せていただいたんです。親御さんからのもの、お子さんからのものもあったのですが、それらを見て目頭が熱くなりました。僕が今やろうとしていることのイメージがはっきり像を結んでいくような気がして。この活動をすると、こうして喜んでくださる方たちがいるんだなって。本当に素敵なお手紙ばかりだったので感動しました。

――今回の「Be A HEROプロジェクト」を通じて、水石さんの気づきになったことは?

「Be A HEROプロジェクト」は、「あなたも誰かのヒーローに」ということをテーマにしているのですが、僕と同じ気持ちを抱えていた方がたくさんいらっしゃることを知ることができました。機会がなくてその一歩が踏み出せていなかったけれど、今回のプロジェクトがきっかけになったという声を多くいただいたんです。

もう一つは、自分の見えていないところでこんなにひとり親家庭の方がいらっしゃるんだなということ。プロジェクトを応援してくださった方の中にも、ひとり親家庭の方がたくさんいらっしゃいました。また、取り組みの中で実際にお話しする機会があった方々にもひとり親家庭で働きながら子育てをされている方もいらっしゃって、見えていなかっただけなんだなって感じました。

――水石さんのそうした「人のために何かをしよう」という姿勢はどのようにして育まれてきたのでしょう。

僕の一家にはいないんですけれど、親戚に警察官が本当に多いんです。父も警察官になりたかったけど別の道に進んだので、僕は小さなころから父に「警察官になってほしい」と言われながら育ってきました。考えたことはなかったんですけれど、もしかしたらそういうところも影響しているのかもしれません。

僕は缶コーヒー「ボス」のキャッチコピー「世界は誰かの仕事でできている」がすごく好きなんです。「人のために」という強い思いというよりも、「やっぱり支え合いだよな」という気持ちのほうが当てはまるのかもしれません。

――取り組みについて、共演者の方からの反響はありましたか?

みんな反応してくれていたんですけれど、特に「キラメイジャー ファイナルライブツアー」で司会を務めてくださったスーパー戦隊親善大使・松本寛也さんが「あのプロジェクト、すごくいい取り組みだよね」と言ってくださいました。

それで、「できれば応援コメントをいただけませんか」とお願いしたところ、快諾してくださいました。それだけでなく、クレジットカードを取り出してその場で支援してくださってコメントを書いてくれたんです。その時に寛也さんが言っていたことが印象的でした。「すごくいいことができた気がする」って。「やろうと思っていてもなかなかできなかったりすることだから、そのきっかけになるからめちゃくちゃいいよね」って言ってくださったんです。実際に支援していただく姿を見るのが初めてで、そういう生の声が聞けたのですごくうれしかったですね。

――先日、脚本家の井上テテさんを取材させていただいた際、「いまの世の中の状況で放送される戦隊が『キラメイジャー』でよかった」とおっしゃっていたのが印象的でした。今回の支援のきっかけになったお手紙を書かれた視聴者の方を思いとどまらせたのも『キラメイジャー』だったことを考えると、支援とはまた別の面で、エンターテインメント作品が人に与える力の大きさをあらためて感じます。

「この時期の戦隊が『キラメイジャー』でよかった」というのは本当にいろんな方に言っていただきました。僕自身、不安にさいなまれることもあった時期でしたが、そんな時は「自分はキラメイジャーなんだ」という自負が心の支えになっていました。ファンの方も「キラメイジャーが私たちを照らしてくれていた」と言ってくださるのでそれはうれしいですよね。

――キラメイジャーを演じたことでキャストのみなさんがどんどんキラキラと変わっていったと語るスタッフさんも少なくありませんでした。

確かにそうかもしれません。キャストが役に寄っていったというよりも、役がキャストたちのいいところをより伸ばしてくれたんじゃないでしょうか。

――この2か月、「Be A HEROプロジェクト」を発信し続けた水石さん。今後の目標について聞かせてください。

まだ小さな輪ですが、少しずつでもこの活動を広げて、日本中のみなさまに「Be A HEROプロジェクト」を知っていただけるように活動していきたいと思っています。チーム自体も広げて、支援の幅も広げていきたいですね。連続はできないかもしれませんが、継続はしていきたいと思っています。

それに、今回の取り組みを通じてグッドネーバーズ・ジャパンさんの存在を知ってくださった方もいると思うので、その中の何人かはこれからも引き続き支援していただけるかもしれない。その可能性を繋げることができていたならうれしいですね。

グッドネーバーズ・ジャパンについて、また支援については公式サイトをご参照ください。