和月伸宏氏の人気コミックを実写化した映画『るろうに剣心』シリーズが、ついに最終章を迎える。2012年の『るろうに剣心』に続き、『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』(14年)と3作合わせて累計興行収入125億円以上、観客動員数は980万人を突破した大ヒット作で、幕末に人斬り抜刀斎として恐れられた緋村剣心(佐藤健)が、不殺(ころさず)を貫きながら仲間と平和のために戦う姿を描いている。

コロナ禍での延期を経てついに公開を迎えた『るろうに剣心 最終章 The Final/ The Beginning』は、原作では最後のエピソードとなる「人誅編」をベースに縁(新田真剣佑)との究極のクライマックスが描かれる「The Final」と、原作では剣心が過去を語るかたちで物語が進む「追憶編」をベースに、"十字傷の謎"に迫る「The Beginning」の2部作となる。

シリーズを通して、アクション監督を務めているのが、香港に渡りドニー・イェンの元で多くの作品に関わってきた谷垣健治氏だ。今回特徴的なのが「The Final」では”不殺”の誓いをもって逆刃刀を使っている剣心が、「The Beginning」では人斬り抜刀斎として、文字通り人を斬り殺すアクションを繰り広げている。あわせて“最終章”と言いながらも、かなりの違いがあるアクションについて、谷垣アクション監督に話を聞いた。

  • 左から谷垣健治アクション監督、佐藤健

    左から谷垣健治アクション監督、佐藤健

■「ヒット」と「スライス」の違い

——「The Final」での剣心は逆刃刀の戦い、「The Beginning」では人斬り抜刀斎となりますが、アクションでの違いはどのようにつけられたのでしょうか?

使ってる刀が違いますからね。斬れない刀と斬れる刀って、もうドアを押すか引くかくらい違うから、まずはそこです。これまでの逆刃刀は斬れない刀だから、叩くしかない。叩いて1発で相手が倒れるとは限らないから、パンパンパンと剣戟をやることになります。だから、「The Final」も含めたこれまでの剣心の戦い方は「ヒット」です。

でも、「The Beginning」になると斬れる刀になる。包丁でたとえたらわかると思いますが、斬るときは引く動き、つまり「スライス」になります。だから、ヒットとスライスの差を意識しました。「The Beginning」のオープニングを見てもらったらわかりますけど、横に引いたり、刀が相手の身体に入ってグッと斬ったりもする。バサッと斬ることもできるし、肉が絡まって「んんっ!」と力を入れたりもするわけで、やっぱり斬れる刀だと表現は豊かになります。

その面白さは「The Beginning」だからこそ出したいと思ったし、最初から剣心が相手の耳を噛み切るということも、お客さんに対するアラートと言いますか「今回はこんな感じのアクションで行くのでよろしく」という感覚でした。「血も出るから、皆さん気をつけて観てね」という(笑)。

「The Final」はやっぱりヒーロー感を出したくて、剣心が戦ってるときに「自分もいっちょ戦ってみたいな」と思ってくれればというところでしたが、逆に「The Beginning」はかっこいいではなくて怖い、「絶対ここにいたくないな」と思わせたいということがありました。

——「The Final」では横浜駅の機関車内でのアクションや、最終決戦の壁走り、「The Beginning」では口に刀を咥えての戦いなど印象的な場面も多かったです。

あれだけアクションが多いと、ただ立ち回りを重ねるだけだと”おちゃらかほい”をするようなもので、毎回パンチ効かせるというか、どこかで印象的なカットを作らなければいけない。でも狙ってできるものでもないので、10個やったらその1個か2個くらいが残るものだと思っているんです。だから、捨てようが残ろうがいろんなものを組み込んでいかないと。僕らは「おかず」と呼んでるんですけど、そういうものを作ろうと意識しています。ただ、おかずだけでは飽きるから、お新香なんかでつないで、サイドディッシュも添えていく(笑)。そうやって、いろんなものを入れてシーンを作ることは多いです。

機関車とかも、立体的なセットはやっぱり立体的に使うべきだから、僕の作るアクションはいつもセットを一周します。やっぱり、ずっと戦っていると飽きるじゃないですか。何しろ、僕が飽きてしまうんです (笑)。飽きられないようにあの手この手で工夫しています。だから永遠に多めに作らなければいけないんです(笑)。5分のアクションなら、倍の10分ぶん作る。それができるのが『るろ剣』のいいところです。

■谷垣健治
1970年生まれ、奈良県出身。倉田アクションクラブで学び、1993年に単身香港へ渡る。ドニー・イェンの元で多くの作品に関わる。ジャッキー・チェンが会長を務める香港動作特技演員公會の唯一の日本人会員で、日本では日俳連アクション部会委員長を務める。主な作品は、『捜査官X』(11年)、『るろうに剣心』シリーズ(12年/14年)、『新宿スワンII』(17年)など。

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