ぐんぐん正解がわからなくなる?

先ごろ、『ぐんぐん正解がわからなくなる! アート思考ドリル」(実業之日本社)という風変わりなタイトルの本が出版されました。著者は、起業家・アート思考キュレーターの若宮和男さん。「日経COMEMO(コメモ)」で発表した記事を1冊にまとめたものです。

パラパラとめくると、ユニークなイラスト、漫画、名画などさまざまなアートにまつわるドリルがずらりと並び、担当編集者は、「若宮さん渾身の一冊です」と太鼓判を押します。そのドリルを参加者みんなで解くワークショップが開催されました。

  • ユニークなイラスト、漫画、名画などさまざまなアートにまつわるドリルがずらり イラスト:わかる

全員参加のワークショップ型イベント

オンライン形式のワークショップで、本に掲載されたドリルを参加者全員で解き、著者も交えてみんなで結果について話し合うスタイル。若宮さんとの交流を楽しみに参加した人もいたようです。

「アート思考ドリル」の本は、一人で読んでもくもくとドリルを解いているだけでも、多くの学びが得られます。テーマは、擬音語や擬態語の問題から美術品の修復まで、身近なものから今まで考えたこともなかったものまで、かなり多彩。

例えば、「まちがいさがし」のコーナーでは想像の斜め上を行くような答えに圧倒され、「自分らしい写真作品作り」のコーナー」では数十分スマホを手に格闘しました。答えを探して延々と思案するのは、他では得難い体験です。

筆者は、本を読みドリルを解いてからワークショップに参加したわけですが、参加者と一緒にドリルを解くと、また新しい発見が! それは、「同じ問いでも人によって答えがこんなに違うの!?」「自分はこんなに思い込みに縛られていたのか」という気付きです。世界は広いし、人の頭の中は多様性そのもの。

自由な思考があればアートはもっと楽しい

本の中では、ドリルの素材としてさまざまな名画などが紹介されています。普段は、こうしたアートに対して、「ハードルが高い」「自分には理解できない」と思っている人は少なくないでしょう。

こうした苦手意識は、アート思考ワークショップで「答えは一つじゃなくていいんだ!」という気付きを得ることで、解消されそうです。さらに、正解のないアート鑑賞だけでなく、混迷極める現代を生きるのにも役立つかも。

日本の閉塞感はアート思考で解決できる!?

アート思考は、豊かな人生についても有効です。若宮さんは、次のような言葉でイベントを締めくくりました。

「ワークショップの後に『これまで苦手だったアートの面白がり方が分かってきた』といった感想をいただくことがあります。アート思考はビジネスに役立つ方法論として語られることが多いですが、それだけではありません。ガチガチの頭の使い方でなく、柔軟なアート思考ができる人が増えれば、日本もいい方向へ変わっていくのではないかと思っています」。

6月1日から、緊急事態宣言に沿って臨時休館していた美術館などが再開するというニュースが入ってきました。感染対策をしながら現地に出向くのは大変ですが、アート作品の見方が変わっているような気がして、美術館に行くのが楽しみです。

執筆協力=若宮和男(わかみや・かずお)

起業家・アート思考キュレーター・一級建築士。建築士としてキャリアをスタート後、東京大学でアート研究者となる。2006年、IT業界に転身し、新規事業を多数立ち上げる。2017年、女性主体の事業をつくるスタートアップ「uni'que(ユニック)」を創業し、2019年女性起業家輩出に特化したインキュベーション事業「Your」を立ち上げる。アートや教育領域でも活動し、アート思考の第一人者として社会にアートを根付かせる活動も行う。