まだ2021年が半分も終わっていないのに、男女が入れ替わるテレビドラマが2作も続いている。1作目は放送終了したばかりの、綾瀬はるかさん、高橋一生さん主演の『天国と地獄 ~サイコな2人~』(以下、天国と地獄)(TBS系)。2作目は現在放送中の『あのときキスしておけば』(以下、あのキス)(テレビ朝日系)だ。

この現象、ドラマ作品の流行ではない。実は王道のコメディ(要素)として、コンスタントに放送されている。その一部を入れ替わりドラマ好きの小林が、いくつか作品を紹介していきたい。

……日本ドラマで男女が階段から転がり落ちたら、それは物語スタートの合図だ。

求められるのは「……ここまでやる?(笑)」の演技

  • 『天国と地獄 ~サイコな2人~』に出演した綾瀬はるか(左)と高橋一生

みなさんの記憶にも新しいのは『天国と地獄』だろう。刑事(女)と殺人容疑者(男)が第一話のラストで入れ替わったにもかかわらず、双方のキャラクターは担保されたまま……というのはお見事。人気者の俳優とは、こういうシーンで底力を見せるものだと、しみじみとしてしまった。

綾瀬さんは特異的なキャラクターを演じるのが完璧だという説は、一連の出演作で知られている。でも髙橋さんがまさかの女役で、細かな仕草も網羅してくるとは想定外だった。 SNSでは久しぶりに入れ替わり作品を見た、という声がちらほら見たけれど実は昨年もおもしろ作品が放送されている。それが『パパがも一度恋をした』(東海テレビ・フジテレビ系)だ。3年前に亡くなった美人ママ(本上まなみ)の心が、詐欺容疑で指名手配中の川上辰夫(塚地武雅)の体に移ってしまう物語。見かけはどうしても、おっさんなのに完璧な良妻賢母ぶりの塚地の演技は、楽しくて仕方なかった。そして複雑な思いにかられながら、ママにまた恋をしてしまうパパ・吾郎(小澤征悦)とのハートウォーミングなかけあいも。

この作品を見ながら思ったのは、ギャップ度が高ければ高いほど入れ替わりは見応えが増す、ということだ。

親子入れ替わりパターンは不動の人気

  • 『あのときキスしておけば』に出演中の井浦新(左)と麻生久美子

男女の入れ替わりではなくても"親子"というシチュエーションも、また視聴欲をかきたてる。

例えば『パパと娘の7日間』(TBS系 2008年)では、女子高生の娘・小梅(新垣結衣)と、そのパパ・恭一郎(舘ひろし)が電車事故に遭遇して、目覚めると入れ替わっていた……という設定。あの『泣かないで』のダンディー館さまによる女子高生風の演技は秀逸すぎた。もう13年前の作品なのに、鮮明な記憶が残っている。

2015年に放送された『民王』(テレビ朝日系)は、総理大臣の父・武藤泰山(遠藤憲一)と、息子・翔(菅田将暉)と入れ替わる。父とは正反対の性質で、非喫煙者、スイーツが好き、ゆるキャラファン……とやや女っぽい。アンダーグラウンドな生活圏で暮らしている。この二人の生活がスライドするのだから、もう大混乱。この作品は遠藤さん、テレビ朝日初の主演作。総理大臣の秘書役だった、高橋一生さんの存在にも世間がざわめきだした。おそらく覚えている人も多いはず。

途中、『夫のカノジョ』(TBS系 2013年)では美人妻と女子大生、『ぼくは麻理のなか』(フジテレビ系・2017年)では、定番の男女同士と入れ替わり作品が放送された。ただきれいすぎる設定は、インパクトに欠けるのか? うっすらとしか物語が残っていない。実際に視聴率も芳しくなかった。やはり必要なのは視聴者の想定外なのかもしれない。

そんな流れを受けて、現在放送中の『あのキス』。入れ替わったのは人気漫画家の蟹窯ジョー(麻生久美子)と、田中マサオ(井浦新)。そして蟹窯と恋に落ちかけていたのが、冴えないスーパーの店員・桃地のぞむ(松坂桃李)。ここに蟹窯の元旦那であり、出版社の担当である高見沢春斗(三浦翔平)も加わっている。入れ替わりだけにフォーカスを当てるのではなく、周囲の人物も容赦無く巻き込んでいくのが『あのキス』の特徴だ。今のところ、井浦さんの女役は若干、引いてしまうこともあるほど精巧なのだ。

こうして並べてみると、たくさんのパターンが見られるし、これからも企画のしがいがある"入れ替わり"ドラマ。作品の人気を握るのは俳優たちによる、振り切った演技力なのかもしれないと偉そうながら思い、新作に期待を寄せる。