18世紀にジュネーヴ共和国に生まれ、主にフランスで活躍した思想家のジャン=ジャック・ルソー。「近代教育思想の祖」とも呼ばれ、数々の名著や名言を残したルソーですが、具体的にどのようなことをした人なのか知らない方も多いでしょう。
この記事では、ルソーの名言や人物像、その思想について詳しく解説をしていきます。ルソーの考えを知ることは、人生観を変えるきっかけになるかもしれません。ぜひ参考にしてみてくださいね。
ルソーの名言を紹介
ルソーは書籍や発言の中で、数多くの名言を残しています。ここでは彼の思想を象徴する名言を紹介していきます。
はじめはなにもしないことによって、あなたがたはすばらしい教育をほどこしたことになるだろう
著書『エミール』でルソーは、このような名言を残しています。私たちは赤ちゃんの状態から徐々に大人へと成長していきます。もちろん、赤ちゃんの状態からいきなり大人になるわけではありません。
動物と同じく人間には本能があります。赤ちゃんにミルクを飲めと命令しなくても、哺乳瓶を近づければ飲み始めるのはこの本能に従った結果です。ルソーは、自然の流れに任せても素晴らしい教育は実現できると考えているのです。
したがってルソーは、最初は何も教育をしなかったとして問題ない、むしろそうすることで素晴らしい教育を施したことになるという趣旨の発言をしています。
自然に帰れ
これは文明を捨てた状態になれという意味です。ルソーは、人間の幸せは自然の中にこそあると考えています。そのため、このような名言が生まれたのです。
人間は自由なものとして生まれた。しかしいたるところで鉄鎖につながれている
人間が地球に誕生した瞬間は自由だったはずです。しかし、生活をより豊かにするためにいろんなルールや法律が生まれました。私たちが生活をするうえで、法律による拘束というのは必ず生じています。
法律がないと安全に暮らすことができないでしょう。しかし、法律があることによって私たちの行動に制限がかかっている一面もあります。これをルソーは「鉄鎖」と表現しているのです。
一般意志は万人に由来し、万人に適用されるものであるべきだ
一般意志とは国民が共通して持つ意志のことです。国民が共通して持っているので、一般意志の通りに社会が変われば国民みんなが幸せになれるというのがルソーの考えです。
しかし、一般意志とは異なる思想を持つ人もいます。そういった考えを持つ人がいると、一般意志による幸せは失われていきます。例えば、魚を食べたいと考える人が99人いたとして、たった1人だけが肉を食べたいと考えていた場合、魚と肉のどちらを選んだとしても不幸せになる人が生まれてしまうという意味です。
つまり、ルソーは幸せを追求するためには、万人が一般意志を持つべきだと主張しているのです。
ルソーとは何をした人? 人物像や著書とその思想を紹介
ルソーとはそもそも何をした人なのでしょうか。ここでは、ルソーが何をした人物で、社会にどのような影響を与えたのかについて紹介していきます。
有名な思想家
中学や高校の教科書にも登場する思想家のルソー。彼は18世紀に主にフランスで活躍した思想家で、数多くの書籍を出版しました。幼少期は小説や歴史書を好んで読んでおり、それがきっかけとなって感情を重んじる思想が培われていったのではないかと考えられています。
ルソーが10歳のとき父親が蒸発し、彼は孤児同然となりました。奉公に出された先で日常的な虐待を受けたルソーは、その場から脱走。その後の生活環境は決してよいとはいえませんでしたが、読書だけは続けていました。そして38歳の頃に執筆した『学問芸術論』がきっかけとなって、思想家としての頭角を現し始めます。
『社会契約論』や『人間不平等起源論』を執筆した
ルソーが執筆した代表的な書籍に『社会契約論』や『人間不平等起源論』などがあります。これらの書籍では、人間の理想的な状態や幸福を自然の中で見いだすことの価値、文明や社会による堕落から人間を回復させる方法を論じています。
ルソーは平等主義思想を有しています。「個人の私的利益を追求する意志は、社会全体でみると不平等を生みかねない」「人それぞれが公共の利益を求めることで自由と平等が保証される」というのがルソーの考えです。
数多くの書籍を執筆しているルソーですが、どの書籍にもこのような平等主義思想が反映されています。
フランス人権宣言にも多大な影響を与えている
ルソーはフランス人権宣言にも大きな影響を与えています。フランス人権宣言とは「人は生まれながらにして自由かつ権利において平等」などと記載した宣言のことです。
フランス人権宣言はルソーの唱えた平等主義思想を色濃く反映した内容になっています。ルソーが数多く執筆した書籍によって、その思想は広まっていき、フランス人権宣言に影響を与えました。
『エミール』は教育学の名著として読み継がれている
ルソーが執筆した書籍に『エミール』があります。これは哲学書というより、小説のような書籍です。エミールという少年を主人公にした物語が進んでいき、その中で児童の本性を尊重して成長を促すことがいかに大切かを説いています。
すなわち、教育について記したのが『エミール』なのです。ルソーが持つ自由主義的な教育観を軸にして記載された『エミール』は、今でも教育学の名著として読み継がれています。
ルソーの『社会契約論』とは
『社会契約論』は、ルソーの著書『人間不平等起源論』と『政治経済論』を発展させた書籍と言えます。
不平等を生み出す私有財産制
『人間不平等起源論』においてルソーは、私有財産制が人々の間に不平等をもたらしているにも関わらず、当時の法律や政治によって私有財産制が守られていたため、変革が必要だと訴えていました。
一般意志とは
一方でルソーは『政治経済論』において、人間の生存には国家が必須であり、国家が正しい政治を行うには「一般意志」という基準が必要だと述べています。この一般意志とは、常に国家と個人の「保存」と「幸福」を目指し、法律の源泉となるものとされています。
このような背景をもとに、ルソーは「不平等を起こさないためにも、一般意志に従った国家を作り出すことが肝要となる」と考え、その課題を『社会契約論』においてまとめているのです。
ルソーの思想の特徴
ルソーは平等主義思想を有しています。しかし、平等主義といっても理解するのは難しいでしょう。私たちが生活をしていく中で、平等でない部分は必ずあります。ルソーが考える平等とは一体どのようなものなのでしょうか。ルソーの思想の特徴について紹介いたします。
常識を疑い続ける
ルソーは常に常識を疑い続けて、世の中に新たな視点で問いかけてきました。『エミール』では、子供に同じような教育を強いる危険性について説いています。ただ、私たちが受けてきた教育のほとんどは、周囲との協調性を求めるものです。
集団行動の大切さを学校では教えられますが、考え方によっては個人の思想をないがしろにしているとも捉えられます。ルソーの指摘は、従来の考え方と大きく離れているといえるでしょう。
このように、ルソーの考え方は一般的なものと比べると異なることが多いです。それでも臆することなく自分の考えを発信し続けたからこそ、偉大な思想家として語り継がれているのです。
自然の中で人間の理想的な状態について見いだす
ルソーは人間の理想的な状態を「自由であること」と考えています。ルソーは平等主義なので、自由が等しく与えられないのは不平等であると考えたのでしょう。
ルソーにとって自然とは、文明や文化にあらがったものです。私たちは普段の生活において、さまざまな文明の力を使っています。電気、ガス、水道のすべてが文明の発展によって提供されているサービスです。
しかし文明が発展する前は、人々の生活は今のように便利ではありませんでした。ルソーにとって、自然とはこういった文明とは離れた状態のことなのです。その中で自由について見いだすことで、人間は幸福になるとルソーは考えています。
現代社会においても示唆に富むルソーの思想
『エミール』が教育学の現場で今も読み継がれていたり、彼の名言が幅広く認知されていたりと、ルソーは現代社会にも大きな影響を与えています。常識を疑うというルソーの思想や、自由を目指す姿勢は現代を生きる私たちも見習うべきでしょう。
ルソーが思い描く、完璧な自由の実現は難しいかもしれません。しかし、ルソーにとって自由とはなんだったのか、私たちが自由を手に入れるためには何をすればいいのかを考えることは、ビジネスシーンにおいても役立ちます。
自由を忘れてしまうと、誰かに言われるがまま仕事を進めるだけになってしまいます。指導者が必ず正解を述べているわけではありません。ビジネスシーンにおいても、自由な思考で正解について考えることが大切です。ルソーの思想は現代社会の教育からビジネスまで、幅広い世界に影響を与えていると言えるでしょう。