女優の吉永小百合が初めて医者役に挑戦した、映画『いのちの停車場』が5月21日に公開される。都内の終末期医療専門病院に勤務する現役医師でありながら、作家として活躍する南杏子氏の同名小説を実写化した同作は、リアルな現場の姿を映画として描き出した作品。救命救急医として、長年大学病院で患者と向き合ってきた咲和子(吉永)が、とある事情から石川県にある父の住む実家へと戻り勤めることになった「まほろば診療所」で、在宅医療を通して患者と向き合っていく。

院長の仙川(西田敏行)、看護婦の麻世(広瀬すず)とともに「まほろば診療所」で働くメンバーで、医師になれなかった青年・野呂を演じたのが松坂桃李だ。台本を読む前に「やります」と即答したという同作から、松坂は何を受け取ったのか。また、飾らない人柄から出る言葉が度々インターネットでバズるなど意外なウケ方をしていることについても話を聞いた。

  • 映画『いのちの停車場』に出演する松坂桃李

    松坂桃李 撮影:宮田浩史

■吉永小百合との初共演で受けた刺激

——吉永小百合さんとの初共演について、どういうお気持ちでしたか?

「嬉しい」の極みでした。僕らの世代で吉永さんと共演できる機会はなかなかないですし、このチャンスを逃すわけにはいかないと、台本をいただく前から「やります」という気持ちが強かったです。ずっと映画界の第一線で活躍されてる方とご一緒できる機会は本当に貴重だし光栄でした。

実際に共演すると、本当に細部まで役を落とし込む方で、例えば劇中で使ってるペンを、カメラが回ってないところでも使われているんです。目に見えないところでの役の染み込ませ方が丁寧で、一つ一つの動作や所作を役に表されていらっしゃる感覚が、すごく刺激的でした。細部にまで思いを巡らせることで、奥行を作ることもできるんだなと、吉永さんから教わりました。軽やかでしなやかで、美しい方でした。

——東映さんと吉永さんのタッグは故・岡田裕介会長が指揮をとられていて、映画界にとっても大きな作品だと思うのですが、『侍戦隊シンケンジャー』でデビューされた松坂さんがそこに出られてるのもすごいですね。撮影所で初心に返ったりするものでしょうか?

東映さんでデビュー作に出演させてもらってから12年経ちますけど、今もなおこうして一緒にお仕事させてもらえるのは、すごくありがたいことだなと思います。撮影所での日々はやっぱり思い出します、辛かった日々を!(笑) 毎朝5時くらいに東映のスタジオに集合して、ロケバスに乗って山まで行って、ロケして、夕方くらいに帰ってきて……今回の雰囲気とはまた全然違う、思い出深い撮影でした。

——実際に作品を観られて、どんなシーンが印象に残っていますか?

今回は自分が出ていない場面がすごく気になっていて、吉永さん演じる佐和子先生と、田中泯さん演じるお父さんのシーンに、グッと来るものがありました。自分がその立場に立ったときに、どう思うか答えが出なくて、身につまされるシーンでした。どの家庭もそれぞれの事情での選択をされるのだと思いますが、それは向き合った結果だし、家族が導き出した正解だと思うから、外部の人間には口を出せない。

田中さんも本当に苦しそうに痛そうに表現をされていて、患者は痛みから解放されたいけど、周りにいる方からすると生きていて欲しいし。難しい問題だなと思います。法律の壁も医療の限界もあって、いろんなことを問題提起させられた作品でした。

——コロナの時代だからこそ、より考えさせられることもありましたか?

あります。より一層、命について考える時間は増えましたし、他人事ではない。それぞれの患者さんのシチュエーションにリアリティがあって、どれも自分の身の回りで想像しやすい、自分に置き換えやすいものでした。

■「こんなんでバズる!? どうかしてない?」

——コロナ禍で撮影現場も大きく変わったと思いますが、どのような思いで臨まれていましたか?

純粋に、撮影ができるということが嬉しかったです。初心に返ったような気持ちで、当たり前に思っていた仕事の日々へのありがたさが強かったです。もちろんマスク着用が必須だったり、頻繁に検査を受けなくてはならなかったり、色々あったんですけど、それ以上の喜びがありました。

——そのありがたさは、外出自粛期間中に「演技がしたい」と思っていたからこそ、というところもありますか?

実は、そこはまったく思ってなかったんです(笑)。なんなら「あれ、台詞ってどうやって覚えるんだっけ?」と思ったくらい。現場に入ってから、ありがたさを実感しました。

——そんな率直な松坂さんの言動が、最近すごくインターネットで愛されているなと思っています。

そんなに愛されてますか!? あんまり見てないんですよね……。SNSとかってことですよね? どういう感じになってるのかわからないけど……そんなにつぶやくことあります!?

——周囲の方から話を聞いたりはするんですか?

ラジオを通してリスナーの声を聞いたり、スタッフさんが「今、バズってますよ」と教えてくれたりすることはあるんですけど、「こんなんでバズる!? どうかしてない?」と思います(笑)。

——そういう意識してない自然体の姿が共感を呼んでるということかもしれないですね。

そうだとしたら、ありがたいです。でも僕がそういうこと言える場は、深夜ラジオくらいしかないので。バラエティ番組などもありますが、どうしたってTVなので、生放送ですべて自分の言葉で伝えることができるのは、やはりラジオなのかもしれないです。

——深夜ラジオのリスナーの方にも『いのちの停車場』をぜひ観てほしいですか?

もちろん! 心が荒んだリスナーの方にこそ、ぜひ観てもらいたいです(笑)。感想も聞いてみたいです。

——それでは、最後にメッセージをいただけたら。

この作品は何か答えを示すものではなく、登場人物それぞれ、患者さん一人ひとりにたくさんの生き方があるし、命のしまい方もある。それぞれの正解を見つけて選択していってほしいですし、きっかけを与えてくれる作品だと思います。「もしこれが自分だったら」と置き換えられると思うので、少しでも自分の身近にいる人たちの心に向き合うきっかけになってくれれば嬉しいです。

■松坂桃李
『侍戦隊シンケンジャー』(09年)で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。『彼女がその名を知らない鳥たち』(17年)、『不能犯』『娼年』『孤狼の血』(18年)などで演技の幅を広げ、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞など多数受賞。19年の日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた『新聞記者』でも主演を務め、最優秀主演男優賞を受賞した。待機作に21年公開予定『孤狼の血 LEVEL2』(8月20日)、『空白』(9月23日)がある。