藤井二冠は順位戦の連勝を22に伸ばした

第80期順位戦B級1組(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)の1回戦、▲藤井聡太二冠-△三浦弘行九段戦が5月13日に東京・将棋会館で行われました。結果は109手で藤井二冠の勝利。終局時刻は日付が変わった0時26分でした。


第80期順位戦B級1組リーグ表

本局は後手番の三浦九段の誘導で横歩取りの戦型になりました。過去3度の対戦で2回指されている戦型で、朝日杯の将棋に続いて2局連続の採用です。

序盤は前例のある進行をたどります。その前例とは3月23日に行われた、第34期竜王戦2組ランキング戦準決勝の▲藤井二冠-△松尾歩八段戦です。この将棋は歴史的な絶妙手「▲4一銀」が飛び出し、第48回将棋大賞で「名局賞 特別賞」を受賞した一局です。

藤井二冠が鮮やかな決め手を放って勝利した将棋に誘導するということは、三浦九段に相当な準備があるということ。事実、三浦九段は持ち時間をほとんど使わずに指し進めていきます。結局、前例から離れる選択をしたのは藤井二冠でした。

中盤で優位に立ったのは三浦九段でした。千日手を見せた動きで揺さぶり、藤井二冠のわずかなミスを誘いました。局後の感想で藤井二冠は「一方的に飛車を手放してからは苦しくなったのかなと思います」と語っています。

しかし、悪くなってから簡単に崩れないのが藤井二冠です。決め手を与えないように辛抱しつつ、反撃の種をまいておく指し回し。これに対して三浦九段は前のめりに踏み込んでいった順を局後に悔やみました。「妥協すればやや模様良しかなという順もあったんですが、踏み込んでいった先に誤算がありました。模様の良さを具体的な良さに結び付けようとした順があまり良くなかった可能性があります。そんなに成算があったわけではないので」と語りました。

藤井二冠は金香取りに角を打ち、ついに反撃を開始します。ここで一気に崩れてもおかしくないですが、三浦九段も底力を見せました。それが△4五金という一手。直前で4四の金を△5五金と上がっていただけに、手の流れとしては非常に指しにくい一手です。しかし、この手を選択したことで、三浦九段はわずかながらリードをキープしました。

三浦九段が力を見せたら、今度は藤井二冠が実力を発揮する番です。三浦九段の角・金・桂が藤井陣に迫ってきている局面で、受けるのではなく反撃に出たのです。自陣で眠っていた飛車を五段目に浮く▲8五飛が妙手で、相手の攻めの軸である角に狙いを付ける意味。しかしながら、相手の攻めを呼び込むだけに、指しにくいことこの上ありません。

この手に対する対応を三浦九段が誤ってしまいます。そこでついに形勢は全くの互角に戻りました。しかし、誤ったと言っても、それはAIが示す手順を正確に指せなかったというもの。YouTubeの「囲碁将棋TV -朝日新聞社-」チャンネルで公開されている『藤井聡太二冠が逆転して初戦白星、AIの評価値を聞き「桂は確かに取ってこないかと…」【第80期将棋名人戦・B級1組順位戦】=村上耕司撮影』では、三浦九段、藤井二冠ともにその手は指しにくいと感想を漏らしています。

人間対人間の勝負という意味では、▲8五飛を境に藤井二冠が良くなったのかもしれません。

形勢上は互角でも、手の流れからはペースはすでに藤井二冠が握っています。その後三浦九段に失着が出て、ついに形勢逆転。攻められ続けていた藤井二冠でしたが、ついに三浦玉を寄せるための手(▲6五歩~▲6四歩)を間に合わせることに成功しました。

最後は三浦九段が藤井玉に詰めろを掛けた局面で、藤井二冠が▲6三歩成から三浦玉を詰まして決着。激闘に終止符が打たれたのは、日付が変わった後の0時26分でした。

この勝利で藤井二冠は初参加のB級1組で白星発進です。さらに2年前から継続中の順位戦での連勝を22に伸ばしました。さらに、順位戦通算成績は40勝1敗というとんでもない成績になっています。

対局開始直後の様子。決着したのはこれから約14時間後。左が藤井二冠(提供:日本将棋連盟)
対局開始直後の様子。決着したのはこれから約14時間後。左が藤井二冠(提供:日本将棋連盟)