• 松たか子(左)と松田龍平 (C)カンテレ

そもそもこの企画は、佐野Pが坂元裕二氏ともう一度仕事がしたいと始まったものだった。連ドラをしばらくお休みすると宣言していた坂元氏だったが、閉塞感漂う今だからこそ、彼の書く連ドラが見たいと、何度も「また一緒にドラマやりましょう」と企画の話をした。佐野PがTBSから心機一転、カンテレへと所属する放送局が替わったことを知った坂元氏から、冗談交じりに「移籍記念にやりましょう」とも言われ、事が進んでいく。信頼関係を築いてきた証でもあり、「『カルテット』とは違うことをやろう」と、その辺りも迷うことなく意見が一致する。

ナレーションを取り入れたことも、違いを出す狙いの1つ。「~の大豆田とわ子」と淡々と説明する中にコメディセンスが光る伊藤沙莉の声が「クセになる」と評判を呼び、狙い以上の効果も得ている。

また、衣装や音楽を徹底的にこだわることも意識した。映画『モテキ』など作品の世界観を衣装で支えることに長けているスタイリストの伊賀大介氏が3人の元夫を、松の衣装は広告・ファッション誌で活躍する杉本学子氏が担当している。さらに、音楽は米津玄師の楽曲で共同編曲など手掛ける新進気鋭の音楽家・坂東祐大氏と、フリーでその道を極める顔ぶれがそろった。

■毎話変わるエンディングは『エヴァ』をヒントに

極めつけは、エンディングで流れる主題歌が毎回変わる演出だ。「STUTS & 松たか子 with 3exes」による主題歌をベースに毎話、異なるラッパーが登場。第1話はKID FRESINO、第2話はBIM、第3話はゆるふわギャングのNENE、第4話はDaichi Yamamotoと、それぞれのラッパー目線でその週のエピソードを解釈したラップが披露されている。

古巣・TBSの先輩であり、「坂元さんの作品が好きで、テレビのことはもちろん、音楽のことにもとても詳しい」と信頼する藤井健太郎氏(『水曜日のダウンタウン』演出)に相談すると、トラックメーカー/MPC PlayerのSTUTS氏を紹介され、このプロジェクトが動き出した。毎週エンディングを変えていくというアイデアは『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディング曲「Fly Me To The Moon」がヒントになったという。

「『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を見るためにTVシリーズを見直していたら、いろいろなバージョンのエンディング曲があることにたまたま気付きました。自由さがあるアニメのように、連ドラももっと自由でいいんだなと思いました」

サプライズが続いた序盤戦を経て、今夜の5話と続く6話はストーリーの展開が一気に進んでいくといい、「私が言うと怒られると思いますが、これぞ坂元脚本の真骨頂」と太鼓判を押す。一分の隙もなく見逃せないエピソードがまだまだ続いていきそうだ。

●佐野亜裕美
1982年生まれ、静岡県出身。東京大学卒業後、06年にTBSテレビ入社。『王様のブランチ』を経て09年にドラマ制作に異動し、『渡る世間は鬼ばかり』のADに。『潜入探偵トカゲ』『刑事のまなざし』『ウロボロス~この愛こそ、正義。』『おかしの家』『99.9~刑事専門弁護士~』『カルテット』『この世界の片隅に』などをプロデュースし、20年6月にカンテレへ移籍。『大豆田とわ子と三人の元夫』を担当する。