昨年4月に発令された政府の緊急事態宣言を見るまでもなく、コロナ禍が社会に与えた影響はとてつもなく大きい。働き方やオフィスのあり方の変化はそのひとつ。どういった変化が起き、今後どうなっていくのか。

リクナビNEXT編集長の藤井薫氏とコクヨ・ワークスタイル研究所所長の山下正太郎氏が語り合った。興味深いトークセッションの模様を2回にわたり紹介したい。

  • 左から、コクヨ・ワークスタイル研究所所長 山下正太郎氏、リクナビNEXT編集長 藤井薫氏

「働」という漢字の成り立ちが問われた1年

数年前から働き方改革が叫ばれていたが、今回のコロナ禍で働き方やオフィスの変化が加速したことは間違いない。トークセッションは2人の振り返りから始まった。

「この1年は、コロナ禍でワークスタイルはもちろんライフスタイルまで変化しました。そして、半強制的に普及したテレワークでは、孤独感や健康といった問題が現在進行形で起きています。また、オフィスに通わなくても仕事できるよう社内システムのDX(デジタル・トランスフォーメーション)化への対応も求められました」(山下氏)

「私は『漢字おじさん』を自称しているのですが、『働』という漢字の意味を改めて考えさせられた1年でした。つまり、『人』『重』『力』の3つで成り立っているのは、人が重なり合うことで力が発揮できるという意味です。コロナ禍によるテレワークの普及は、自然界がこのことの大切さを改めて教えてくれたのだと思います」(藤井氏)

「間」の取り方が難しいオンラインコミュニケーション

2人が指摘したことは、テレワークを体験している人には実感できることではないだろうか。筆者もコロナ禍でオンライン取材の機会が多くなったが、やはり対面取材とは違う難しさを感じている。この難しさに対する両者の見解も興味深い。

「日本は『間』という漢字を大切にしている国だと思います。締め過ぎると間締めになって、延びると間延びになる。仏教用語でも『人間(じんかん)』という言葉がありますが、コロナ禍になってこの『間』をどうするかが、より問われるようになったのだと思います」(藤井氏)

「Zoomといったオンラインコミュニケーションでは、心のつながりが伴わないように感じています。実際、スタンフォード大学の研究によれば、オンラインだとコミュニケーションの取り掛かりになるサインが少ないという調査結果が出ています」(山下氏)

  • オンラインコミュニケーションの難しさを指摘する山下氏

やはり、対面式と比較すると、オンラインコミュニケーションでは心を通わせることが難しいようだ。オンライン授業を余儀なくされる大学生が「孤独」を感じているというニュースもよく目にする。

テレワークでコペルニクス的転回の必要性

テレワークがもたらしたのは、コミュニケーションの難しさだけではない。通勤の必要がなくなったことで、働き方や暮らし方にも変化が起きている。これらの点についても、2人が次のように指摘した。

「テレワーク中、画面の後ろにペットがいたり子供が遊んでいたりと生活空間の中に『働く』がにじみ出てくると、コペルニクス的転回が求められます。つまり、これまでのように会社中心ではなく生活中心に人生を設計する必要があります」(藤井氏)

「会社から物理的に離れたことで、生き方とか働き方をもう一度冷静に見直せるリフレクションの機会を全世界同時に与えられたのではと感じています」(山下氏)

会社中心から暮らし中心の「クラシゴト改革」へ

では、こうした変化の中で、これからの働き方はどうなっていくのだろうか。

「テレワークの拡大は、構造的な人材不足と経済のサービス化が進む日本において不可欠です。そのため、多様な人材の才能開花やカスタマーとのタッチポイントでの仕事、カジュアルでオープンな関係、未来に貢献する働き方など、会社中心から暮らしを中心に仕事をデザインする『クラシゴト改革』が進むと考えています」(藤井氏)

  • なぜ、新しい"働く"が加速する? 提供:藤井薫氏

「社会の変化が個人の意識変化を促し、それに対応して会社も変わっていく。その中心に暮らしがあるというイメージでしょうか。そこで問題になるのが、日本の3つの無限定性です。これまでは、会社が勤務地や勤務時間、業務内容を決め、個人はそれに従っていればよかった。それらの縛りから解放される可能性があるわけです」(山下氏)


やり取りから明らかなように、これまでの働き方が大きく変わっていくのは間違いない。当然、ビジネスパーソンも、藤井氏の言う「コペルニクス的転回」が求められる。

自由度が高まるのはポジティブなことだが、裏返しとして1人ひとりに選択の責任が生まれるということも忘れてはならないだろう。