台風一過は、天気予報やニュース番組を見ていると聞く機会の多い言葉です。ただ、台風一過を「台風一家」と勘違いしている人も少なくありません。
本記事では、台風一過の2つの意味と言葉の由来、正しい使い方や例文を紹介します。また、類語・言い換え表現や英語表現もまとめたので参考にしてください。
「台風一過」の意味とは
「台風一過」は「たいふういっか」と読む四字熟語です。意味には「台風が過ぎた後、天気が回復すること」「ひと騒動が落ち着いた状態」の2通りがあります。2つの意味および由来や誤用表現も含め、順番に解説します。
台風が過ぎた後天気が回復し空が晴れること
台風一過の正しい意味の1つめは、読んで字のごとく、台風が過ぎ去った後のことです。台風が過ぎただけではなく、過ぎ去った後の晴天まで含んでいます。「台風一過の沖縄を訪問した」という場合、イメージとして晴天の沖縄を表現していると考えてください。
2つめの意味は、1つめの意味から派生した「ひと騒動が落ち着いた状態」という比喩表現です。台風が過ぎ去った後に多くは晴天となることから、このような意味が生まれました。
「台風一過」の由来
台風一過の「台風」(元は「颱風」)は、中央気象台長だった岡田武松博士が、1910年(明示43年)ごろに出版した「近世気象学」の中で初めて用いた言葉です。岡田博士は英語の「typhoon」を音訳して命名しました。英語の「typhoon」は、中国語広東方言の「tai fung(大風)」の音訳だという一節もあり、いずれも音が似ているのは面白いところです。
また、「一過」とは過ぎ去るという意味であり、「台風一過」と四字熟語になることで、台風および天候の動きに沿った意味が含まれるようになりました。
「台風一家」という言葉は誤用
ちなみに、「台風一家」という言葉は単純に誤用です。一部の辞書には「台風一過の頻繁に見られる誤記」と明記しているものもあります。2014年公開の『台風一家』という日本映画はありますが、日常的に使用する言葉としては完全に誤りなので、間違えて使わないようにしましょう。
「台風一過」の使い方と例文
台風一過の使い方と例文について、2つの意味に分けて紹介します。
「台風が過ぎ去ること」の意味で使う場合
台風一過を台風通過後の晴天という意味で使う場合の例文は以下の通りです。
・台風一過。さわやかな朝を迎えた。
・台風一過で安心したが、各地の被害が大きく心配だ。
・台風一過後の青い空を見ていると、昨日までの暴風雨が嘘のようだ。
「ひと騒動が落ち着いた状態」の意味で使う場合
日常的に使用することの多い意味は、「ひと騒動が落ち着いた状態」の方かもしれません。台風一過をこの意味で使った例文をいくつか紹介します。
・小さな子供たちがいる弟家族の帰った後は、まさに台風一過だ。
・離婚協議中はもめにもめたが、ようやく離婚が成立した今は台風一過といった状況だ。
・とてもおしゃべりなあの人が去った後は、まさに台風一過だよね。
台風一過は、何かしらひと騒動があり、その原因がなくなってスッキリした状態、という状況を表現するのにピッタリの表現です。
ビジネスシーンで利用する場合
ビジネスシーンで台風一過という表現を使う場合、そのほとんどは「ひと騒動が落ち着いた状態」という意味です。ビジネスシーンを想定した例文もいくつか紹介します。
・大変な状況をようやく乗り越えた。台風一過、晴れ晴れとした気分だ。
・厳しい監査もようやく終わり、まさに台風一過という状況だ。
・システム開発も佳境を過ぎ、今朝の職場は台風一過という雰囲気だ。
仕事の波が大きい職場では、台風一過という表現を使いたくなる場面が意外と多いかもしれませんね。
「台風一過」の類語・言い換え表現
台風一過の類語・言い換え表現と例文もいくつか紹介します。少し聞きなれない表現もありますが、これを機会に覚えてしまいましょう。
雨過天晴
「雨過天晴」は「うかてんせい」と読み、雨が止んで空が晴れ渡る様子から、悪かった状況が好転するという意味となった四字熟語です。悪いことが過ぎ去る意味がある台風一過と似ているため類義語と言えます。「雨過天青」と書く場合もあります。
・昨日まで病に臥せっていた父だが、雨過天晴で今は起き上がれるようになった。
・裁判で負けそうな状況だったのが、有力な証人が見つかり、まさに雨過天晴の状況に変わった。
雨降って地固まる
何かもめたが、もめごとが落ち着いた後、かえって状況が改善したという意味の慣用句です。台風一過と比べると、「もめごとは状況改善のために必要」というニュアンスがありますが、基本的には似た表現となります。
・言いたいことを言い合ったが、おかげで雨降って地固まった。
・エラーに対応するたび別のエラーがでてキツかったが、雨降って地固まり、今は安定稼働している。
「台風一過」の原理
ここまで、台風一過という言葉についてくわしく見てきましたが、そもそもどうして台風一過後は晴天が多いのでしょうか。また、晴天にならないケースとはどのような場合があるでしょうか。言葉の由来となった、台風や天候の原理について解説します。
なぜ台風が過ぎた後は晴天が多いの?
台風通過後に晴天になりやすい理由は、台風が高気圧を引き寄せ、空気中の水蒸気を取り込むためと言われています。
台風は巨大な低気圧です。低気圧は上昇気流が発生していて、その周りでは、逆に下降気流が発生しています。下降気流は雲が発生しにくく、台風通過後は高気圧になりやすいのです。
また、台風は水蒸気をエネルギーとして集めるため、周辺の雨雲も取り込みます。結果として、台風が通り過ぎた後は雨雲がなくなり、晴天になる、というメカニズムが働きます。
参照:
気象庁「台風の一生」
状態によってはスッキリしない場合も
それでは、台風一過後も晴天にならないケースとはどのような場合でしょうか。原因の1つは、秋雨前線や梅雨前線の影響です。これらの前線があると、どうしても天気は崩れがちになります。また日本海側は天候の特徴として高気圧ができにくく雲が発生しやすいため、晴天とはなりにくいと言われています。
このように、台風が過ぎ去った後は必ず晴れるわけではありません。天気予報はしっかり確認して、台風通過後の状況も把握しましょう。
「台風一過」の英語表現
台風一過をひと言で言い表すような英単語はありません。そのため、台風が通過したこととその後の晴天を説明するフレーズを、以下のようにそのまま用います。
- the clear sky after the storm(typhoon).(嵐・台風が過ぎ去った後の晴天)
- the calm after the storm(typhoon).(嵐・台風が過ぎ去った後の穏やかな天気)
台風一過の意味を覚えて正しく使おう
台風一過は、「台風が過ぎ去り晴天が広がる様子」が本来の意味です。本来の意味から発展した「ひと騒動が落ち着き、スッキリとした状態」という意味でも利用するケースが多く、ビジネス上でもよく見られます。
台風一過の正しい意味を把握して、どちらの意味でも使いこなせるようにしましょう。