リスキー・シフトという現象をご存知でしょうか。会議やミーティングなどの集団で物事の判断を下す際、個人で判断を下す場合より危険性の高い結果になることがあります。この現象を「リスキー・シフト」と呼ぶのです。

この記事では、リスキー・シフトの原因や実証実験の結果、回避方法などついて解説します。リスキー・シフトについて理解を深め、会議の際などの参考にしてください。

  • チャートが入った書類を両手で持つ人

    リスキー・シフトについて理解を深めましょう

リスキー・シフトとは

リスキー・シフトとは「1人であれば節度のある判断ができる人物であっても、集団になるとリスクの高い危険な判断をとりやすくなってしまうこと」をいいます。

リスキー・シフトの仕組み

複数の人数が集まる集団においては、常識的でよくリスクを見極める人物よりも極端で派手な意見や行動をとる人物の方が目立つ傾向にあります。また、個人の意見としては言いにくいようなことであっても、「みんなで決める」となると発言がしやすくなります。

決定内容についても、その責任が分散されるという意識が働き、極端で危険な意見がとおりやすくなるのです。

こうした集団における決断ということに伴う個人の責任感の分散および、複数メンバー間における特異な意見への注目性といった観点などからリスキー・シフトが成立してしまう可能性があるのです。

リスキー・シフトの具体的な要因

リスキー・シフトの具体的な要因について、より細かくみていきましょう。

責任の所在が不明確になること

ひとりで発言する場合は、発言した個人に責任が発生するため、失敗した場合にその責任を負うことになるため、慎重な発言が増えます。しかし、これが集団の意見となると一人ひとりの責任が不明確、あるいは分散してしまい、「失敗しても誰かが責任を取ってくれるだろう」と感じて慎重さを失いがちになるのです。

集団の構成メンバーの偏り

集団の中に「リスキーな判断を取りやすい人物」と「慎重に判断する人物」が構成されていればリスキー・シフトにブレーキがかかりますが、「慎重に判断する人物」が「特に意見のない人物」に取って代わられた途端、抑止力が働かないためリスキー・シフトを起こしやすくなります。

以上の2点、集団になると個人のときよりも責任の所在が不明確になってしまうことと、集団の構成メンバーの偏りが、リスキー・シフトを引き起こす要因と考えられます。

リスキー・シフトの提唱者

リスキー・シフトという社会心理学用語は、1960年代に社会心理学者のストーナー(J.A.F.Storner)によって提唱されました。

ストーナーは「リスキー・シフト」とそれに相反する「コーシャス・シフト」を用いて、集団の意思決定がハイリスクもしくはローリスクのどちらかに極端に寄る「集団極性化現象」についての研究を行いました。

リスキー・シフトが実証された実験

一般的には、集団で話しあいをすると突飛な意見やリスキーな意見、また保守的すぎる意見は採用されず、折衷案として中間的な意見にまとまると考えられていました。しかし、ストーナーや他の学者の実験により異なる結果が明らかになりました。

ここからは、リスキー・シフトが実証されたさまざまな実験について、解説していきます。

■ストーナーによる実証実験

ストーナーは大学生6人から成るチームを複数作り、12個の課題について議論を行わせました。課題の内容は「進学する大学の選択」「結婚」「リスクの高い手術を受けるか」など、人生における重大な決断が必要な場面に関するもので、成功率の異なる選択肢をそれぞれの課題に6個ずつ用意しました。

ストーナーは、その課題ごとに各個人が出した回答と、集団で全員一致した回答の差を数値化し、分析を行いました。その結果、集団の回答は各個人の回答と比べてリスキーな選択となっていることが明らかになりました。

■ウォラックとコーガンによる設問

ウォラックとコーガンは、ストーナーの実験をさらに詳細にするために、いくつかの条件を追加しました。彼らが行ったのは、集団で議論をしてもらう対象と個人で回答する対象を分けて、回答にどのような変化があるかを見る実験です。また、集団での議論の際に各チーム内でお互いに人物評価を行い、回答結果に人物像がどのように影響するのかを検証しました。

このウォラックとコーガンによる実験から、リスキーな選択をしやすい人物は集団の中で人気と牽引力があること、またリスキーな選択をしやすい人物が集団にいる場合、集団はリスキー・シフトを起こしやすいことが明らかになりました。

  • 会議を長机で行い後ろから写真をとった構図

    リスキー・シフトの実験について学びましょう

ビジネスでリスキー・シフトを回避する方法

ビジネスにおいては、意思決定を行うさまざまなシーンでミーティングや会議などの話しあいが行われるため、常にリスキー・シフトに陥る危険性があります。

ここでは、ビジネス上でリスキー・シフトを回避するための方法をいくつかご紹介します。

会議などで極端な発言をしない

会議やミーティングなどにおいても、誰かひとりの極端な発言からリスキー・シフトが始まります。会議などの席では、あくまでも慎重に判断した意見を述べるようにしましょう。

意見の際にあえて批判や反論を行う

ディベートなどの際、多数派に対して、あえて批判や反論をする人物を集団に置けば、ブレーキ役として機能します。リスキーな意見に傾倒して「どうにかなる」と思考停止してしまっているメンバーの頭を冷やす効果があり、リスキー・シフトに陥りそうなときの抑止力となります。

発言に対する責任の所在を明確にしておく

会議の際に議事録で誰が言ったのか記録を残したり、意思決定後の責任者を会議の最初もしくは最後に決めたりしておくようにします。こうすることで責任の所在が明確になり、極端な発言が減ってリスキー・シフトに陥る危険性が減少します。

これらの回避法を知っておくだけでも、リスキー・シフトを回避するのに役立つはずです。

リスキー・シフトの事例

リスキー・シフトは、人間が集団になって意見を出すときに起きるものです。ビジネスの場だけでなく、日常的に発生しています。リスキー・シフトの事例をあげてみましょう。

■SNSや掲示板における炎上

SNSはその匿名性もあり、個人の特定が難しく、発言に対する責任の所在がとても曖昧なものです。誰かが過激な誹謗中傷などを行うと、内心ではよくないとわかっていても、その匿名性ゆえに一人ひとりの発言がエスカレートしていきます。この傾向は、オープンなSNSだけでなくクローズなグループでも散見されます。

■過激派によるテロリズム、戦争

多くの人々は平和を望んでいます。しかし、あるひとりの過激で極端な意見をきっかけとして、「正義」の名のもとにテロや戦争へと発展していく可能性があります。「暴力はよくない」「平和的解決が望ましい」という多数派の意見の前に、「敵に攻められる前に攻めこもう」という過激な意見が世論を席巻していくのは、まさにリスキー・シフトといえるでしょう。

リスキー・シフトとコーシャス・シフトとの相違点

リスキー・シフトというのは、集団の中で「極端」な意見をきっかけとして、集団意思決定を過激でハイリスクなものに寄せる効果があり、これによってさまざまな問題を引き起こす現象でした。

これに相反するコーシャス・シフトというのは、逆に「慎重」な意見をきっかけとして、集団意思決定を保守的でローリスクなものに寄せる効果があり、こちらもさまざまな問題を引き起こします。

どちらも集団意思決定を両極端に寄せることで悪影響がみられる現象ですが、双方どちらに寄るか、その方向が真逆になるわけです。

コーシャス・シフトの引き起こす問題としては、「改革などが必要な組織の戦略を立てるとき、あまりにも保守的になりすぎて現状維持という結論しか出ない」「新商品を開発するときに似通ったアイデアしか出ない」など、成長が必要なシーンにおいてもプラスを生み出せない状態になります。

リスキー・シフトの避け方を理解しておこう

本記事では、リスキー・シフトについての概要や、実験内容、事例について紹介してきました。

実務を行う際は、重要な業務であるほど慎重に物事を進めなければなりません。慎重かつ有用なミーティングや会議を行っていくには、リスキー・シフトやコーシャス・リフトの危険性を知り、それを避けることが重要です。

リスキー・シフトに対する理解を深め、発展的な会議やミーティングを実施していきましょう。