準決勝で中村太地七段を角換わりの将棋で破った
第92期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社)決勝トーナメントの準決勝、▲中村太地七段-△永瀬拓矢王座戦が4月21日に東京・将棋会館で行われました。結果は148手で永瀬王座が勝利。藤井聡太棋聖への挑戦権を懸けて、挑戦者決定戦で渡辺明名人と対戦します。
角換わりの将棋となった本局で、工夫を見せたのは後手の永瀬王座でした。まだ駒組みが続いていくのかと思われた28手目に、前例のない意表の仕掛けを決行。6筋の歩を突き捨てておいてから、桂や銀を前進させようという狙いです。
流石に中村七段はこの仕掛けを想定していなかったのか、29手目に58分、31手目には41分と連続長考で対応します。長考の末に導き出した方針は、馬を作って相手の攻めを受け止めるというものでした。永瀬王座の飛車・角・銀・桂を用いた猛攻に対し、馬の守備力を頼りに徹底抗戦します。
仕掛けから70手あまりひたすら耐えに耐え、永瀬王座の攻めをしのいだ中村七段は、ようやく101手目に反撃開始。桂2枚を用いた攻めで永瀬玉に迫っていきます。永瀬王座も1筋から攻め込み、激しい寄せ合いとなりました。長い辛抱の甲斐あって、ここでは中村七段が優位に立ったようです。
ところが簡単に倒れてくれないのが永瀬王座。本局でも強烈な勝負手を繰り出します。▲3三桂成と銀を取られ、さらに3二の金取りをかけられた局面で、なんとこの成桂を放置して△2五桂と攻め合ったのです。自陣竜の利きが強力なため、金を取られてもまだ自玉が安全とはいえ、すごい踏み込みです。
中村七段はこの勝負手への応手を誤ってしまいました。竜を入手したものの、永瀬玉はスルスルと安全地帯へと逃げ出していってしまいます。そして、相手の飛車の利きをさえぎる、130手目の△5二金打が永瀬王座らしい受けの決め手でした。この手に代えて攻めの手を選択していたら、本局の勝敗は逆になっていたかもしれません。
自陣に手の入れようがない中村七段は、飛車を切り飛ばして永瀬玉を寄せようとしますが、攻め駒があと1枚足りませんでした。最後は永瀬玉をあと一歩のところまで追いつめたものの、永瀬王座の飛車打ちを見て投了を告げました。合駒をすると永瀬玉への詰めろが解除されてしまいます。かと言って、玉を逃げて対応するのでは自玉を詰まされてしまいます。投了もやむを得ないところでした。
この結果、永瀬王座は2期連続で挑戦者決定戦に進出を決めました。前期は挑決で藤井七段(当時)に敗れています。今期挑決の対戦相手は渡辺名人。渡辺名人も前期藤井七段に敗れ、タイトルを失冠しています。藤井棋聖へのリベンジのチャンスを獲得するのは果たしてどちらになるでしょうか。
現在の将棋界の勢力図は、渡辺名人・豊島将之竜王・藤井二冠・永瀬王座の「4強」と言われています。実際、今期の棋聖戦では順当(?)に渡辺名人と永瀬王座が勝ち上がり、藤井二冠に挑む構図となっています。この棋聖戦同様に、今年度も将棋界は彼ら「4強」を中心に回っていくのか。それとも彼らの牙城を崩す棋士が現れるのか。興味が尽きません。