「よろしかったでしょうか」という表現は「間違っている」と指摘を受けることも少なくありません。その一方で、この表現は「間違いとは言えない」という意見もあります。
本記事では、バイト敬語として批判されがちな「よろしかったでしょうか」が間違っているかどうかについて検証します。この表現が間違っていると感じる原因や、問題なく受け入れられる言い換え表現についてもまとめました。
「よろしかったでしょうか」は間違い? 正しい使い方は?
飲食店などで店員が注文の確認を取る際、確認の意図で「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」という表現を使うことがあります。この表現に違和感を持つ人も多く見られますが、実はこの表現は間違いとは言いきれません。
過去のことを確認する場合は正しい
すでに注文した後で「よろしかったでしょうか」と確認する行為は、正確には過去の「注文」という行為に対して確認を取っています。そのため、過去形で問いかけるのは正しい表現です。
丁寧な心理が働いている場合も間違っているとは言いきれない
さらに、「よろしかったでしょうか」には、客側の判断を聞いたうえで、自分の認識に間違いがないかを相手への配慮を込めて確認するといった丁寧な心理から来ている場合もあります。
例えば、コンビニでデザートのプリンを購入したとき「スプーンは1本でよろしかったでしょうか」と確認を受けた場合はどうでしょうか。客側からすれば、自分はまだ判断を下していないのに「よろしかったでしょうか」と言われて違和感を覚えるかもしれません。
しかし、この場合も実は間違いとは言いきれません。このとき、店員側には購入品の内容を見て相手に直接回答を求めるのではなく、店員側が「スプーン1本が必要ではないか」と判断・提案することで相手に配慮をしているためです。
では、なぜ「よろしかったでしょうか?」という表現に違和感を覚える人が多いのでしょうか。
「よろしかったでしょうか」の違和感は「た」の解釈が原因
「よろしかったでしょうか」に違和感を抱く原因は「た」の解釈にあります。
「た」の用法は過去だけを示すわけではない
『デジタル大辞泉』によると、助動詞「た」の意味は8種類もあります。中でも、関係のありそうな部分を抜粋すると以下の通りです。
1 動作・作用が過去に行われた意を表す。「昨日出張から帰ってきた」
2 動作・作用の完了を表す。「原稿をやっと書いたよ」
先ほどの「スプーンは1本でよろしかったでしょうか」は、客側はまだ何も判断していないのに、店員の判断が完了した状態で問いかける形です。この表現では、2の「動作・作用の完了」の意味で「た」が用いられています。
よろしかっ「た」を完了で解釈すると間違いではない
「よろしかったでしょうか」に違和感を抱く原因は「た」を完了形として解釈する場合に多く見られます。この「た」の違和感は、客側がまだ何も判断をしていない状態である一方、店員側は客側の状況を判断し終わり、提案する状況で発生します。
店員側視点で見れば、「スプーンは1本でよろしかったでしょうか」は、相手に判断をさせずに自分が判断(完了)して提案するという心理状態であり、ごく自然な表現です。文章表現としても、完了の「た」として用いているなら間違いとは言いきれません。
しかし客側からすると、自分がまだ判断していないのにも関わらず「過去形」に聞こえる形で問いかけられるため、違和感を覚えるのです。
違和感の正体は話し手と聞き手の間に生じるギャップ
「よろしかったでしょうか」に違和感を抱く原因は、話し手と聞き手の間に生じるギャップにあります。
店員側(話し手)は気遣いを示すために婉曲的な表現として「スプーンは1本でよろしかったでしょうか」と問いかけていても、客側(聞き手)からすると「勝手に先取りされている」と感じる場合もあるでしょう。
また、「よろしかったでしょうか」は、客側への配慮ではなく、店舗側の売り込みで用いられる場合もあります。例えば、「一緒にポテトはよろしかったでしょうか」と言われると、「相手のペースに巻き込まれる」と抵抗感を覚えるかもしれません。
このように、話し手と聞き手の間に生じるギャップが、「よろしかったでしょうか」の違和感の大きな要因です。
「よろしかったでしょうか」の言い換え表現
ここまで「よろしかったでしょうか」という表現は間違いとは言いきれない、と説明してきました。ただし、違和感を覚える人が多い言葉でもあるため、「正しい」とされる言い換え表現を知っておきましょう。
よろしいでしょうか
「よろしかったでしょうか」の言い換えとしてふさわしい言葉に「よろしいでしょうか」があります。「よろしかったでしょうか」に違和感を覚える理由として完了を表す「た」があるからというのは上述の通りです。そのため、この「た」を抜いて現在のことを確認する形の「よろしいでしょうか」を用いると、聞き手にとってもごく自然な表現に聞こえるでしょう。
【例文】
よろしいですか
「よろしいですか」も「よろしかったでしょうか」の言い換えとして使用できます。ただ、上から目線の物言いのように聞こえるため、人によっては「高圧的な言い方だな」と感じることもあるでしょう。「よろしいでしょうか」と「よろしいですか」ならば、「よろしいでしょうか」を使う方がベターでしょう。
【例文】
「よろしかったでしょうか」同様ビジネスメールで避けたいバイト敬語
ビジネスシーンにおいて、相手に違和感を抱かせるようないわゆる「バイト敬語」と呼ばれる表現は避けたいものです。話し言葉ならばまだしも、メールなどで送ってしまうと受け手の心象に影響が出てくることも予想されます。
以下にバイト敬語とされる言葉と言い換え表現をまとめました。
バイト敬語 | 言い換え表現 | |
---|---|---|
1 | よろしかったでしょうか | よろしいでしょうか・よろしいですか |
2 | メニューのほうおさげします | メニューをおさげします |
3 | こちらコーヒーになります | コーヒーでございます |
4 | おタバコのほう、お吸いになられますか | 禁煙・喫煙どちらの席がよろしいですか |
5 | 1万円からお預かりします | 1万円、お預かりします |
バイト敬語と呼ばれる表現が身に付いている場合は、正しいとされる言い換え表現にするよう意識しましょう。
「よろしかったでしょうか」を適切に活用しよう
「よろしかったでしょうか」という表現は、必ずしも間違っているわけではありません。過去のことに対する確認には使える表現であり、聞き手への配慮から出た表現ということもできるためです。
ただし、「よろしかったでしょうか」に対して違和感を持つ人が増えているのも事実です。無用なトラブルを避けるためには「よろしいですか」を使うようにしましょう。
日本語は揺れが生じやすく、数十年前と今では意味が変わってしまう表現も少なくありません。あいまいな場合は、都度自分で調べて確認する習慣をつけましょう。