チェーン店だからといって、甘くみたら損をする――。

先日、北海道らぁめん「伝丸」の濃厚味噌ラーメンを食べ、ひそかに反省したのは記事にしたとおりである。ラーメンブームの全盛期である今、普通のラーメンでは見向きもされない。それは個人店でもチェーン店でも同じだし、逆に言えば、長く営業を続けているラーメン屋はそれなりに支持される理由があるというわけだ。

今回は幹線道路などでよく見かけるラーメンチェーン「珍来」を初訪問。なんと、元を辿れば90年以上もの歴史を持つ超老舗だったというのだからビックリ。さて、その実力やいかに。

■特集:ラーメンチェーン名店巡礼

「珍来」が大切に守り続ける「古き良き中華そば」

「手打らーめん 珍来」。眺めているだけでノスタルジックな気分になりそうな、ちょっとレトロな外観が特徴的だ。白い幟には「中華そば」の文字が踊る。

この日はまず、珍来の実力を探るべく、超王道と思わしき「らーめん」と「半チャーハン」を注文。焼きそばやカレーライスなど、メニューはとてもバラエティに富んでおり、アレコレ目移りする思いだったが、そこはどうにかグッと堪えることに成功した。

厨房からは、鍋を振る音が小気味よく響いてくる。「ふふふ、俺の半チャーハンを炒めているのかな」などとワクワクしながら待つこと数分、眼の前に「らーめん」「半チャーハン」が到着!

これぞ昔なつかしの「中華そば」、そして「炒飯」といった見た目である。いいぞいいぞ、歴史を感じる店構えにピッタリの、古き良きラーメンといったところか。こういうラーメンを食べられる店も減ってしまった今、まさに理想的な感じだ。

さっそくスープからいただきましょう。

く~っ! 五臓六腑に染み込んでくるような、優しい味わいである。

透明感のあるスープはあっさり醤油味。出汁は豚骨、鳥ガラ、煮干、昆布に数種類の野菜を加えてジックリ煮込んでいるのだという。こんなに澄んでいるのに、とてもコクが深い。塩っ気はあまり強くないが、出汁の旨味が凝縮しているせいか、味自体の輪郭はハッキリと感じ取れる。

これ、ずーっと飲んでいられるぞ……。

この多加水麺も個人的にはどストライク。手もみでヒネリのある太麺は柔らかく、モチッとした食感がやみつきになる。うん、こういう優しいスープにはこういう優しい麺がピッタリとハマる。まさに中華そばのクラシックと言えるスタイルである。

使用している小麦粉は高級中華麺用の「天壇」で、やや黄色味がかっているのは新鮮な玉子を大量に練り込んであるためらしい。珍来のモットーは、「その日の麺を、その日のテーブルに」で、麺作りは毎日午前2時頃に始まり、朝方になってから珍來の各店に届けられるのだという。

ほら、やはりチェーン店だからと侮るなんて言語道断。その企業努力は、行列のできる個人的にまったく引けを取らない。

そしてやっぱり、この手のラーメンには、かけちゃくなっちゃうよね……テーブル胡椒を。

ピリッとしびれる黒胡椒が優しいラーメンの味をまた違った表情へと引き締める。中華そばに黒胡椒が合うと発見した人間は誰なんだ、一体。この相性のよさたるや、一方的に表彰状を贈り付けたいレベルである。

さぁ、続いてはチャーハンをいただこうか。

シンプルな見た目とは裏腹に、旨みが詰まった味わいである。具材は玉子、角切りチャーシュー、玉ねぎと潔し。これも飽きずにグイグイと食べられる王道チャーハンである。ふと「こういうのでいいんだよ」と独りごちてしまいそうな、昔ながらのチャーハンだ。

しかも、半チャーハンと言いながらしっかり一人前くらいあるように思えるのは気のせいじゃないだろう。これでハーフサイズだというなら、普通のチャーハンはかなり食べごたえがあるに違いない。

チャーハンとセットで付いてくるスープもまたいい。ガシガシとチャーハンをかきこんで、あっさりした中華スープと一緒に胃袋に流し込む。これぞ昭和から続く由緒正しき町中華スタイルというものである。

ということで、ごちそうさまでした。最後まで美味しくいただきました。大満足!

珍来は「日本のラーメンチェーン最古参」だった!?

店の外観やメニューを見てもわかるように、珍来の歴史は長く、創業は昭和3年(1928年)まで遡る。つまりは戦前から続く超老舗で、「日本のラーメンチェーン最古参」を謳うほど伝統あるラーメン屋なのだ。

創業者の清水清氏は、「東京都中華麺製造協同組合」の初代理事長を務めた宇留野八代吉氏に師事し、ラーメンの腕を磨いて独立。今に続く手打ちラーメンを考案し、日暮里で店を構えた。しかし、戦時中は小麦が配給停止になったことで、一時的に営業停止に追い込まれてしまう。

営業を再開したのは終戦後の昭和21年(1946年)。今度は浅草の闇市に戦後1号店となる珍来を開店した。今は直営店が4店舗、「珍栄会グループ店」と名付けられたチェーン店が約30店舗を展開。珍栄会グループ店のオーナーたちもみんな、珍來の総本店などで修行を経て、それぞれ独立開業に至っている。

店舗によって味や価格は若干異なるのも珍来の特徴だ。それもこれも、各店のオーナーがそれぞれ地域の好みに応じて工夫を重ねているからで、その細やかな違いも珍来の魅力のひとつとしてファンに愛されている。

確かに、大手グルメサイトやSNSではあまり見かけないかもしれない。しかし、ラーメン全盛期にあって今なお歴史を更新する老舗チェーンは、地域の人々に愛されてやまない、紛うことなき名店だった。

■特集:ラーメンチェーン名店巡礼