「戦略」と「戦術」という2つの言葉。似た言葉のようですが、それぞれの意味は大きく異なります。どちらも「戦」の字から始まっていることからも明らかなように、これらは戦いに勝つために用いられる用語です。

ビジネスにおいて「経営戦略」という言葉は使われますが、「経営戦術」はほとんど使われません。戦略と戦術は類語ではなく、明らかな違いがあります。 本記事では、戦略と戦術という言葉の意味や使いわけについて解説していきます。

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    戦略と戦術の言葉の違いを知ろう

戦略と戦術の言葉の違い

戦略とは「特定の目的を達成するため、大局的な視点で組織行動を計画・遂行する方策、通則」という意味の言葉です。一方、戦術は「具体的な作戦や任務達成のための具体的方法」という意味になります。戦略は戦術の上位概念であり、その規模や視点に違いがあります。

戦略であれば、マクロ的視点から準備・計画・運用を行いますが、戦術はミクロ的視点から具体的方法の計画・運用を行います。

戦略の意味

戦略とは「進むべき方向性やシナリオ」をさします。「成果を出すためにするべきこと」や「何を切り捨てることよって効率性が向上するのか」など、総合的視点から準備・計画・運用を策定することを意味しています。

戦略とは、目的を達成するためのシナリオ作成ともいえます。つまり、戦略は戦場とは離れた場所で練るものであり、全体像を考えながら中長期的な視点で組みたてるものなのです。

戦術の意味

戦術とは、「手段や操作(オペレーション)」をさします。つまり戦術とは、戦略を実現させるための手段・操作であり、成果を出すためのより具体的な方法です。

戦術は戦地での行動様式であり、戦場における物や物資の動かし方を思案する短期的で具体的な作戦といえます。

マーケティングにおける戦略と戦術をたてるときのポイント

マーケティングにおける戦略と戦術のたて方を解説する前に、まずビジネスにおける会社経営の流れを押さえておきましょう。

会社経営の流れを図で表すと、上部を頂点としたピラミッド階層になります。一番上には、「戦略(目的を達成するためのシナリオ)」があり、2番目には「作戦(戦略を実現するためのそれぞれのプロジェクト)」があります。

その下には「戦術(それぞれのプロジェクトを成功に導く戦い方・兵士・武器・方法)」があり、一番下には「後方支援(輸送、環境整備、労務管理などの戦術のサポート)」が続く構造になっています。会社におけるマネジメントはこのピラミッド構造からなります。

以下の視点から戦略と戦術のポイントを説明します。

  • 目的
  • 順序
  • 目的に対する行動

■目的を把握する

ビジネス・マーケティング分野における戦略には、組織としての目標・方針の把握が必要です。

映画事業であれば、シナリオが未完であれば、出演者も撮影内容も決まりません。もちろん、金銭を出資してくれる投資家も現れないでしょう。ノベライズ本の書籍化を企画していても、シナリオがない状態では書籍化することは不可能であり、この事業は失敗に終わります。

ビジネスシーンにおいて、経営目標の達成は企業の命題といえます。目標を達成するため、どのように資金や人員・企業の強みなどの資源をいかすかを考えるのが戦略です。

これに対して戦術は、目標を把握し具体的な手段や実践的な企画を練ることをいいます。目標達成に向けた具体的な工程や手順を策定し、試行錯誤を重ねて練るのが戦術です。

これら2つに共通して必要なのは現状把握です。目的達成に向けた戦略を立てる際、現状を把握していなければ、最善の「解」を導き出すことはできません。

■順序の重要性を知る

ビジネス・マーケティング分野において、目標達成のためには順序が重要です。最終的なゴール(目標達成)に向けたプロセスにおいて、順序を誤ると結果として余計なコストや負荷がかかります。

戦略・戦術においては、「目標達成に向けたシナリオを作成(戦略)」し「より具体的な手段や実践的な計画を練る(戦術)」というプロセスが必要です。つまり、戦略を立てたあとに練るのが戦術なのです。順序だてて考えることにより、目的達成のための最適かつ最善な方法が導き出せるのです。

■目的を常に意識した行動を心掛ける

戦略・戦術を立案するにあたり重要なのが「ゴール(=目的達成)を確立すること」です。そのゴールに到達するために、どのような手段が最善かを常に念頭に置き、戦術を組み立てていきましょう。

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マーケティングにおける戦略と戦術の具体例

ビジネス・マーケティング分野において用いられる戦略という言葉は、広義的意味で戦術の意味も包括しています。効率的かつ効果的なマーケティングのためには、戦略と戦術の差異を正しく理解して案を練ることが重要です。

戦略の具体例

企業にとっての戦略とは、組織を前進させるためにどのようなことをすればよいかを示すものです。つまり、戦略は重要な課題や問題点に対して立てられるものであって、それを練るためには調査・分析が必要不可欠です。この点を踏まえ、戦略の具体例を紹介します。

見込み客を増やす

「見込み客を増やす」といった目的達成には、以下のようなアプローチ方法があげられます。

  • Webメディアの構造面の最適化
  • コンテンツの充実
  • スマートフォン対策などのSEO施策
  • リスティング広告、リターゲティング広告、SNS広告などの運用型広告

現時点では購入意欲がないユーザーでも、以上のようなアプローチでニーズを喚起できます。これによって、見込み客を増やすことが可能です。

ユーザーはコンテンツを通じて、有益な商品・サービスの存在に気が付き、購入へ至ります。それまで商品・サービスの認知がなかったユーザーも顧客へ取り込むことができます。

見込み客を販売実績につなげる

「見込み客を販売実績につなげる」ためには、適材適所において反復継続したアプローチと継続的なコミュニケーションが必要といわれます。

Webメディアを戦術として活用する利点は、メール配信などを通して継続的なアプローチが可能なことです。アプローチを受けた時点で購買に結びつかなくても、商品を認知してもらうことで、将来的なアクションにつながります。

戦術の具体例

戦術とは、戦略を達成するための具体的手段です。戦略によって方向性や実現への行動などを概略的に示し、戦術によって実践的・実務的に具現化していくといったフローになります。以下、戦略の具体例を紹介します。

Webメディアの構造面の最適化

Webメディア構造の最適化とは「誰にとってもわかりやすく見やすい・面白いウェブサイトを作る」ことです。「ユーザーの求めている情報にアクセスしやすい」「サイトのどこにいるのかわかる安心感」「サイト内外の移動にストレスがない」などが重要です。

コンテンツの充実

インターネットやアプリケーション・SNSの発展によって、さまざまな情報を容易に入手することができるようになりました。そのため、商品やサービスの情報は簡単に検索することができ、容易に値段や機能の検討ができます。

加えて、ユーザーの検索キーワードを多面的・多角的に分析し、コンテンツを充実させることによって、当初の目的である「見込み客を増やす」(=ユーザーを増やす)ことが可能です。

SEO施策

検索エンジンによる検索順位をあげるために行う一連の対策をSEOといいます。SEO施策の作り方は細かく大量にありますが、現状に適したものを選択して取り組むことによってサイト全体のページ評価が高まり、検索上位に表示しやすくなります。検索順位を上昇させることでサイトへのアクセス数が増加します。自身のサイトを検索上位にあげられれば、その分多くのユーザーが閲覧するため、ブランディングや認知拡大が期待されます。

運用型広告を採用

「運用型広告」とは、ネット広告における発注・出稿方式のひとつです。特定の広告枠を固定的に購入するのではなく、掲載先や掲載内容、入札単価などを変動させながら出稿方法を最適化していく方法をいいます。

リアルタイム入札型の広告配信サービスなどを利用すれば、短期間に多種多様な掲載先や方法、入札単価、配信対象者の属性などの組み合わせを試みることができます。従来のアプローチと比較して無駄撃ちが減り、費用対効果を高められます。

  • ホワイトボードに書かれている文字

    戦略と戦術の具体例を見ていきましょう

戦略と戦術の英語表現

戦略は英語で「strategy」、戦術は「tactics」と表現します。例文を交えて解説します。

■strategy

strategyには戦略(目的達成のための)計略、策略、計画、方策、方法といった意味があります。名詞(可算名詞・不可算名詞)として用いられます。

  • a enterprise strategy(企業戦略)
  • a marketing strategy(投資戦略)

■tactics

tactics の主な意味としては、戦略、戦術、作戦、戦法、方策、策略、駆け引きなどがあります。こちらも名詞として用いられます。

  • delaying tactics(牛歩戦術)
  • tactics bear fruit(戦術が功を奏する)
  • a book about military tactics(兵法について書いた本)

戦略と戦術の意味の違いや使い方を理解しよう

戦略と戦術の関係性は「長期的な道筋(戦略)に則ったうえで、細かな計画(戦術)を立てる」という構造になっています。時として、戦術は戦略に包括されることもあります。

ビジネスの分野で中長期的な計画を立案していくために、戦略と戦術の2つの要素を正確に理解しておきましょう。