商用車メーカーの三菱ふそうトラック・バスにとって、製品のデザインはどのくらい大切なことなのだろうか。クルマをデザインで選ぶ人は多いと思うが、商用車の場合、見た目よりも価格や機能を重視するユーザーが多いのではないだろうか。同社のデザインセンターを訪問できたので、商用車にとってのデザインの重要性について話を聞いてきた。
奥深き商用車デザインの世界
イベント冒頭のプレゼンテーションで三菱ふそうは、トラックをデザインするうえで重視するポイントとして「効率性」「空力」「燃費」「安全性」「軽さ」「シートの座り心地」「乗り降りのしやすさ」「修理・部品交換のしやすさ」などの項目を挙げた。荷物の積載スペースを最大化することが求められるため、トラックはむやみにサイズを大きく作れない。トラックのデザインは、決められた範囲の中で個性を追求し、差別化を図らねばならない難しい仕事なのだ。
三菱ふそうでは、3つの原則に沿ってクルマをデザインしている。「明確なアイデンティティ」「シンプルさの追求」「確かな品質」だ。同社のアイデンティティとしてすぐに思い浮かぶのは、フロントマスクに入る帯状の黒いライン「ブラックベルト」。そのほかに、ヘッドライトのデザインをラインアップ全体で統一することなどにより、フロントアイデンティティの共通化を進めているのだという。
トラックをデザインするうえでは、職人の手作業による調整が不可欠だと三菱ふそうは考えている。同社ではデザイナーが描いたデザイン画を3次元データに起こし、そこからクレイモデル(工業用粘土で作る模型)を作成し、職人とデザイナーが目と手で造形を確認しながら微調整を施したうえで、3Dスキャンを行って3次元データに戻すという工程を実施しているとのこと。このやり取りを納得がいくまで繰り返し、初めて量産用の設計図ができあがるそうだ。
デザインセンターでは三菱ふそうが思い描く未来の乗り物の在り方も見ることができた。「アドバンスデザイン」と題したエリアには、モジュールトラック「I.RQ」や輸送用ドローン「ヘリドロイド」が展示してあった。「三菱ふそうがドローンの会社になるわけではない」との前置きはあったものの、2040年の世界を想像し、未来への準備として新しいモビリティの姿を研究しているそうだ。
見た目と機能、どちらが大事?
三菱ふそうのデザインへのこだわりを聞いていて、思い浮かんだのが最初に挙げた疑問だ。乗用車はデザイン重視で選ぶ人が多いと思うが、商用車ではどうなのだろうか。商用車にとってデザインの重要性は高いのか。ベノワ・タレック部長は「商用車をデザインで選ぶユーザーは、いないと思います」としたうえで、こう続けた。
「トラックを購入するユーザーは、価格やパフォーマンスを重視します。ですが、ハイパフォーマンスを達成するためには、『グッドデザイン』が欠かせません。例えば燃費を上げたいのであれば、エアロダイナミクスのいいデザインが不可欠です」
商用車をデザインするうえで重要なのは、美しく作ることというよりもよく作ること。つまり、「グッドデザイン」を追求することが大事ということなのだろう。
ただ、もちろんカッコよさも大事だ。話を聞いた三菱ふそうのデザイナーによれば、「トラックにも個人ユーザーはたくさんいる」とのこと。例えばダンプのドライバーの中には、自分でクルマを購入し、自営業で仕事をしている人もいる。こういったユーザーが、カッコいいからという理由でトラックを選ぶ可能性は当然ある。
性能で選ぶ顧客を念頭に置きながら、見た目もおろそかにはできない。商用車を購入するユーザーは10年、20年と使い続けるケースが多いので、時間がたっても古びないよう注意を払う必要がある。それでいて、販売価格に跳ね返ってしまうので巨額の予算は使えない。このように、特別な難しさがある商用車の世界だが、三菱ふそうは真摯にグッドデザインを追求しているようだ。