仕事でも恋愛でも友人同士でも、いい人間関係を築くポイントは、「ほめ言葉」を上手に使えるかどうかかもしれません。それこそ、うわべだけで思ってもいないことをいったり、相手にとってうれしくないことを伝えたりしたら逆効果でしょう。

  • 本田健「初対面でも相手の長所は見つけられる」_風通しのいい人間関係を生む人をほめるコツ

「相手としっかり向き合えば、自然なほめ言葉が出てくる」と語るのは、著書の累計発行部数が世界で800万部を超えるベストセラー作家・本田健さんです。人間関係の潤滑油になる「ほめ言葉のコツ」を伝授します。

■風通しのいい人間関係をつくる

人間関係において「風通しのよさ」は大切な要素です。いえないことがたくさんある関係なのか、お互いなんでも言い合える間柄なのか。後者のような風通しのよさが運を呼び込み、豊かな人間関係を育んでいきます。

わたしは最近、執筆中の本の出版社にお願いして、20代前半の担当者をひとりつけてもらっていました。まるで息子のような年代の若者ですが、「感じたことは、なんでもいってください」と伝えました。

すると彼も、最初こそ遠慮していましたが、若者特有のノリもあって「こんな言い方はしませんね」「ここは意味わからないです」と、気持ちいいくらい、どんどん正直に意見をいってくれるようになりました。

わたしがベテランの作家として、「ちょっと意見を聞かせてくれ」と振る舞えば相手も遠慮しますが、「なんでも率直に話して」とオープンに聞いたので、彼も自由に話してくれました。おかげでとてもいい作品が書けました。

そうやって、年齢や立場に関係なく、率直な意見をなんでも言い合えるのが、風通しがいい人間関係だと思います。

■分け隔てをしない人間関係が成功を引き寄せる

豊かな人間関係をつくるためには、あなたが何歳であれ、どんな立場であれ、「偉そうにしない」「驕らない」「いばらない」「卑屈にならない」ことです。無意識にそうなってしまうこともあるので、自分で注意し、意識的にしないことです。

かつて、有名な経営コンサルタント・舩井幸雄さんがいわれたことですが、若い頃、社員を増やして数多くの事業に取り組んでも、なかなか手元に利益が残らなかった時期があったといいます。

「これならひとりで独立して、講演やコンサルティングをしているほうがもっと儲かるのではないか?」

そう考えていたとき、訪問先の社長に「そんな近欲に走ってはいけない。ただお金を稼ぐだけでは、ギブアンドテイクの関係に過ぎず長続きしない。あなたを素晴らしいと思ってくれる人を、地道に何十年もかけて広げていかなければ。それが信用になるのだから」といわれ、仕事や人間関係の見方が変わったそうです。

つまり、あなたをちょっと知っているだけの人なのか、熱心なファンなのか。あるいは、心から信頼してくれる親友なのか—。それを考えて、長期的な目線で人間関係の裾野を広げなければ、成功できないと教わったそうです。

■信用を積み上げると「余裕」が生まれる

積み重ねた時間は、信用です。

同じ仕事やものごとを1カ月やった人と、10年やってきた人がいれば、ふつうは10年続けてきた人を信用するものです。

流行を追いかけて儲けようとしても、一時的に収入を得られるかもしれませんが、そう長くは続きません。人は、時間をかけて実績を積み上げてきた人を信用するし、そんな人間関係が、最終的に複利のように効いてくるのです。

また、いまはピンチの人が多い状況ですから、こんなときこそ、困っている人に手を差し伸べ助けてあげることで、あなたの徳を増やすチャンスです。

実業家として知られる竹田和平さんは、徳を積むことの大切さをずっと説いていました。「余裕のある人は、まわりを助けなければいけない。それは、旦那としての責務であり、喜びだ」と、ニコニコしていっていました。むかしは、どの村にも「旦那」といわれるお金持ちがいて、飢饉などで困ったときには、自分の倉を開放して村人を助けたのです。

あなたが徳を積むことは、信用や人望につながります。そういった「無形資産」は、ピンチのときに必ずあなたを助けてくれるでしょう。あなたを「信用できる」と思ってくれる人が何人いるのか。それが、10人と100人と1万人では、結果はまるで変わってきます。

信用がある人には「この人は信頼できる」「この人なら間違いない」と思ってもらえる安心感があります。その安心感を持つためには、「余裕」が必要です。

人間的な余裕は、お金や地位がなくても持つことができます。「自分の優秀さを証明しなければ」「あの人を批判してやろう」と絶えずマウントを取るような人と、そんなことをしなくていい状態の人では、人間的な余裕がまったくちがいます。

心の余裕を保つためには、まずあなたがそうなりたいと願うことです。「まわりに優しくありたい」「与える人になりたい」という気持ちが、あなたを余裕のある人にします。そして、心の余裕が安心感を生み出し、長期にわたる信用へとつながっていくでしょう。

■相手の「素晴らしい本質」を見つける

人は、自分のことを理解されるとうれしくなります。

とくに、自分のいいと思っているところをほめてもらうと、「この人わかってる! わたしもこの人を理解しよう」と思うようになり、自然と人間関係がよくなっていきます。

ほめ言葉は、人間関係の潤滑油です。

ただし、あまり関係のないことをほめてしまうと逆効果。20代の人に「若いね!」といってもうれしくないし(それはただの事実です)、40代の人にいうと、いまいち真実味がなかったり、逆に怒りを買ったりする場合もあります。

つまり、人をほめるコツは、うわべだけでない、相手の「素晴らしい本質を見つける」ことです。どんな人にも長所があります。やすらぎや安心感を与えられる人もいれば、元気にする人もいます。こういったことは、初対面でも意識すれば見つけられます。

たとえば、打ち合わせで無口な人がいても、その人がいるから、その場に落ち着きが生まれているのかもしれません。そんなところをほめてあげるといいでしょう。ただし、ただ人に好かれようとして、思ってもいないほめ言葉を口にしないように気をつけましょう。

「この人の才能はなんだろうか?」 「この人のいいところは?」

と、きちんと相手に興味を持って、素敵なところを探してみましょう。

相手としっかり向き合えば、自然なほめ言葉が出てくるようになります。ぎこちなくても、あなたの誠意があればきっと伝わるはず。ちょっと恥ずかしくても、あなたの心のこもったほめ言葉を、相手に伝えてあげましょう。

■人の言葉を変に「裏読み」しない

相手をほめるつもりでいったのに、逆に誤解されて、怒りを買ってしまった経験はありませんか? 「最近やせてきれいになったね」といったら、「前は太っていたといいたいの?」となったり、「仕事頑張っているね」といえば、「業績は変わらないのに嫌味?」と思われたり。

人はそのときの心の状態によって、同じ言葉でも受け取り方がまったく変わってしまうのです。相手の怒りを買ったときは、「調子悪いのかな」とでも思って、そっとしておけばいいですが、逆にあなたが相手の言葉の「裏読み」をはじめていたら要注意。きっと心が疲れている状態になっています。

心が疲れていると、ものごとを前向きに考えるエネルギーがなくなり、どんなこともネガティブに解釈しがちになります。そして、そのたびに自分の嫌な部分を確認してしまい、ますますイライラして負のサイクルに入ります。その「嫌な部分」が、思い込みであるにもかかわらず、です。

実際のところ、まわりの人は、それほどあなたのことをネガティブに思っていません。というか、恋人でもない限り、そんなに興味がないのです。多少体重が増えようが、仕事の調子が悪かろうが、そこまで気にしていないのが現実です。

必要以上に落ち込まないためには、人の言葉の裏読みをやめることです。どうせ想像をふくらませるのなら、逆をやってみましょう。

「ひょっとして、喜ばせようとしてくれているのかな?」「そうか、自分は頑張ってるってほめてくれているの?」と考えたほうが、よほど自分にいい影響を与えられるでしょう。

そうして自分を大切にするからこそ、まわりにも大切にされるようになります。そして、自分にも相手を大切にする気持ちが生まれて、人間関係がよくなっていきます。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)

※今コラムは、『「うまくいく考え方」新しい時代で幸せになる5つの法則』(著:本田健 プレジデント社)より抜粋し構成したものです。