フジテレビでは、アナウンサーたちが名作童話を朗読し、イラストのスライドとともに配信する「デジタル紙芝居」を昨年5月から制作。これまでに6作を配信し、4月5日に最新作『シンデレラ』が公開された。

新型コロナウイルスの拡大に伴い、“おうち時間”が増える中、アナウンサーとしてできることを考えてスタートしたこの取り組み。立ち上げメンバーの1人である佐々木恭子アナウンサーと、最新作の“リーダー”を務める内田嶺衣奈アナウンサーに話を聞くと、コロナ禍というピンチから新たな可能性につなげていく過程が見えてきた――。

  • 内田嶺衣奈アナウンサー(左)と佐々木恭子アナウンサー

    内田嶺衣奈アナウンサー(左)と佐々木恭子アナウンサー

■“リーダー”指名に「えっ!?」

この企画が立ち上がったのは、1回目の緊急事態宣言真っ只中だった昨年4月。佐々木アナは「西山(喜久恵アナ)と梅津(弥英子アナ)と私の3人で、『この自粛期間に私たちにできることは、やっぱり読み聞かせではないか』という話になったんです」と振り返る。

しかし当時、読み聞かせコンテンツはすでに様々な場所で発信されていたことから、「絵」を付けることで独自性を出すことを発案。西山アナが社内のデザイナーに依頼するとすぐに原画を描き上げてくれ、それを元にCSRの部署に相談したという。アナウンサーが学校で言葉についての授業を行う「あなせん」の取り組みなどを共に行ってきたCSRの部署と組めば、アナウンサーだけの手弁当の枠組みから、社内を横断するプロジェクトに拡大できるのではと考えたからだ。

実際にデジタル紙芝居の挿絵は、番組セットなどをデザインする美術経験者が担当し、編集もプロのスタッフが手がけ、作品のクオリティを高めた。

こうして、昨年5月25日に第1作『注文の多い料理店』を公開。ベテラン勢中心で制作したが、「やってみたらすごく楽しかったんです! この楽しさをもっともっと広げたいと思って、私たちもサポートしつつ、若手にリーダーをやってもらって、基本的に任せながらやってみようとなりました」(佐々木アナ)と、作品ごとに“リーダー”を設けて継続展開していくことになった。

制作において重要な役割を果たすリーダーは、作品の選定、キャスティング、各所との様々な調整を行うプロデューサーとして、さらには読みの演出指導も行うディレクターとしての業務を担う重責。佐々木アナから指名を聞いた内田アナは「『えっ!?』と驚きながら、私に務まるのか不安な気持ちもありつつ、とりあえず訳も分からず『分かりました!』と答えました」と流されるままに承諾したが、いざ作品作りに入ると、後述するようにリーダーとしての資質を見せていった。

  • 収録現場にて

■三田友梨佳&小澤陽子アナが意地悪な言葉を

今回のキャスティングのポイントを聞くと、“待っていました”とばかりに「それは結構語れますよ! 『シンデレラ』はみんなが大好きで夢のある物語というイメージだったので、その世界観を一緒に楽しんでくれる人にお願いしたいというのがベースにあって、そこから役に合いそうな人を選びました」という内田アナ。

「シンデレラに意地悪をしてしまうお姉さんは三田(友梨佳)アナと小澤(陽子)アナにお願いしました。この物語のお姉さんは、悪役でありながら最後はシンデレラに謝って許してもらい、みんなで幸せに暮らすという話なので、人間らしさや素直さが表れる深みのある役にしたいというのと、意地悪な言葉をアナウンス室の中でも絶対に言わなそうなギャップのある2人にしたいというのがあって(笑)。そして、シンデレラは健気に頑張る子で、芯が強いイメージにしたかったのと、演技も上手そうで、末娘なのでなるべくフレッシュな若手がやるのがいいと思って、佐久間(みなみ、2020年入社)アナにしました」(内田アナ)

  • 三田友梨佳アナ

  • 小澤陽子アナ

  • 佐久間みなみアナ

以前、ナレーターで参加した三田アナは「役がもらえてうれしい!」、小澤アナは「意地悪な役ってやってみたかったんです!」、佐久間アナは「ナレーションの勉強もいっぱいしたいんです!」と快諾。

他のキャストには、乳母(魔法使い)役で梅津弥英子アナ、貴族Aと門番役で榎並大二郎アナ、貴族B役で西山アナ、王様・お役人役で佐野瑞樹アナ、ナレーターB役で井上清華アナ、王子様役で大川立樹アナという面々を起用した。

先輩アナへの演技指導について、内田アナは「恭子さんにおんぶにだっこです(笑)」と遠慮したことを強調するが、佐々木アナは「いえいえ。内田は結構欲しがって、先輩たちにもわりと強めにリクエストしてますよ(笑)」と頼りになっている様子だ。

佐々木アナは「とにかく今回は内田がみんなを盛り上げてくれて、本当に素晴らしかったです」と絶賛。その事例の1つが、佐野アナの起用で、「佐野さんは、昔あった朗読劇の舞台にも参加されていなかったので、そういうのには興味なんだろうなと思ってたら、内田が『佐野さん、王様にしました!』って(笑)。みんな『ウソでしょ!?』『どうやったの!?』って驚きました。将来いい管理職になると思います(笑)」と太鼓判を押す。

  • 佐野瑞樹アナ

  • 榎並大二郎アナ

ほかにも、「巻き込み方やきめ細やかさが本当にすごいんです。榎並くんは門番の役をするのに『役作りをしようと出社時にフジテレビエントランス警備の方に挨拶をしながら、よく観察しました! バッチリです!』って言っていましたから(笑)。内田はアナウンス室の中でどちらかというと妹っぽいキャラクターだと思っていたんですが、こんなにグイグイ進めるんだなと驚きました。『この件どうなっているの?』と確認したことが1回もなく、むしろ『えっ、もうそこまで進めていたの!?』っていうくらいで」と、知られざる能力が引き出されたようだ。

■若手アナに“制作”の意識を

リーダーを若手アナに担わせることの狙いは、もう1つあるという。

「私たちは普段、制作スタッフにお膳立てされて最後に視聴者に向けて伝える仕事をしています。一方デジタル紙芝居では、台本を作ったり、みんなのスケジュールを調整したりスタッフ的なワークをすることで、日頃のOAでも、自分が最後にアウトプットするまでのプロセスを理解して、アナウンサーとして伝えるということの責任や重み、感謝がより分かると思うんです。私たちはそういうのを経験している年代なので、若手にも味わってもらい、いろんな側面を見ながら仕事をすることで、アナウンサーとしての器が広がればいいなと思っています」(佐々木アナ)