●今伝えたい想いが、様々な形で交錯していくパシフィコ横浜

こうして『プリパラ』曲ゾーンを披露したあとは、卒業感のある曲が2曲続けて登場。その1曲目「キラリ」では、イントロ中に澁谷が「桜咲かせるぞー!」とシャウトしいつものようにファンを煽る……と他のメンバーが次々と「あれー!?(棒)」「なんだろうこの映像!?(棒)」と澁谷の視線をスクリーンに注目させると、そこに映されたのは過去のブログ掲載写真やオフショットを散りばめたなかに、手書きの歌詞が乗ったサプライズ映像が上映されていく。

2サビ後間奏では5人が作ったトンネルの中をくぐったりと、パフォーマンス面でも卒業感がにじむ。その後奏後、少し間を置いてからたっぷりと大事に若井が、続いて芹澤が大事にソロを歌い上げて始まったのは、若井が作詞・作曲を手掛けた「卒業式」。流れ的には完全に泣かせにかかっているところだが、ここで誰かが涙して明らかに歌声が崩れるわけではないのもまた、i☆Risらしいポイントではないだろうか。

また、この日はDメロ全体を澁谷が歌唱。「君のこときっと思い出してしまう」のフレーズを「i☆Risのこときっと思い出してしまう」とこの場限りのアレンジをしつつ、情感いっぱいに込めて届けると、5人がそれぞれメンバーカラーのスイートピーをプレゼント。

驚きながらもそれを受け取る彼女のもとで、”門出”と”優しい思い出”という花言葉をもつスイートピーによる、大切な6色の花束ができあがっていた。

そんな雰囲気のなか、ライブもいよいよ大詰めへ。ラスト1曲を前にメンバーがそれぞれ、たっぷりとメッセージを語っていく。久々に直接顔を合わせることができたファンへの想い。送り出す澁谷への想い。そして、5人でi☆Risを続けていくことへの決意――それら全てをそれぞれが自分の言葉で発信し、“笑顔で送り出しムード”が生まれていったように思う。

それをいい意味で壊し、想いを”届ける”というよりも”ぶつけた”のが、リーダー・山北だった。まず昨年澁谷の卒業を聞いたとき、他4人がすぐ受け入れられたように感じたのに対し、自身は「やめんの!? いつまでも6人でやるっつったべやー!」と思わず方言まで飛び出るレベルで反対の心情だったことを告白。

さらには引き留める席をセッティングしたとの事実も明かす。しかし、そこで腹を割って話したことで吹っ切れたとも続け、「元々『10年ぐらいまで駆け抜けよう』みたいな話をしてたけど、ずっちゃん(=澁谷)が『i☆Ris抜けなければよかったー!』って思うぐらい、売れてやろうっていう気になったんですよ!」と素直な心情を吐露。

それでも「ずっちゃんの人生はずっちゃんだけのものだから後悔しない道を選んでほしい。私も後悔したくないから、i☆Risに残りまーす!」と、エールと宣言で結んだ。

そしてそれらを受ける形での澁谷からのメッセージは、「絶対喋れないのわかってたから、紙に書いてきたよ」と手紙のスタイルで。BGMとして流れた瞬間驚きの表情が浮かんだ「ayatsunagi」のピアノバージョンは、スタッフからのサプライズだろうか。

手紙の中では、グループ二度目のワンマンライブ“i☆Ris -STEP INTO THE RAINBOW-“で「i☆Risをやめたいと思った」と発言したことを引用し、「当時は努力から逃げていました。今となっては、あのときやめなくてよかったと思うことばかり。

何より、あの日以降人間として成長できたなと思います」と自身の足跡を振り返ると、「5人とのお別れがすごくつらい」と、卒業発表後にマイナスなことを言うまいと封じ込めていた想いを吐露。そしてメンバーやスタッフ、ファンへの感謝を伝え、「i☆Risのイエローとして活動できて本当に本当に幸せでした。みんなの心の中にイエローの光が永遠に灯り続けますように」と締めくくる。

●最後の最後に、6人の声だけで歌われた大切な曲

こうして想いを素直に届け合った6人は、ラストナンバーを前にステージ中央でライブ前恒例の円陣で今一度気合いを入れ直し、6人体制でのラストナンバー「Memorial」へと進む。直前までぐっときたり瞳を潤ませていたメンバーもいたが、それでもパフォーマンスの質は落ちないまま。また、落ちサビの冒頭ソロでは、これから先の澁谷にぴったりの歌詞を茜屋が直接歌いかけ、逆サイドからは久保田も卒業を祝福するかのように笑顔で寄り添っていた。

曲明け、6人全員での一礼ののち澁谷が会場中に手を振り、中央へ戻ったところで5人がアカペラで歌い出したのは「Color」のサビ。驚きつつも澁谷がそこにハーモニーを重ね、最後に純粋な”6人の歌声”を届けると、続いてスクリーンには彼女への、6人の名前を織り込んだメッセージがプレゼント。6人一緒に段上ステージへと上り、「5人のi☆Risもよろしくね! 澁谷梓希も、よろしくねー!(澁谷)」との言葉とともにステージは幕。

直後に流れ始めたED映像は、OP映像同様アルバム仕立てのものに。ページをめくるごとに、画面いっぱいにメッセージチケットを購入したファンからのメッセージが並ぶ。まるでi☆Ris初の武道館公演を彩った、同年のツアーや4周年ライブでファンが想いを記した、寄せ書き垂れ幕のように。やがてその大切なアルバムが閉じられて、3月28日のstoriezは幕。大切な思い出を閉じ込めた、忘れられない1日となったのだった。

公演が終わってまず最初に、6人体制最後のライブが有観客で開催されたことにふたつの意味で喜びを感じた。ひとつはこの公演が、ファンとともに作るワンマンライブとして開催できたこと自体。そしてもうひとつは、ファンを前にしたときに生まれるi☆Ris6人の無敵のパワーが発揮されたこと。現状における最高の形で送り出せたからこそ、4月からの新たな道を、それぞれこの9年間に引きずられずに歩むことができるはずだ。

i☆Risは、メディアなどで自らの関係性を”ビジネスパートナー”と称することがあった。それをもとに揶揄するような声も、正直ないわけではなかったと思う。だが6人にとってのそれは、世間一般における意味合いとは異なるもの。

それは特記した山北のMCはもちろん、「絶妙な存在で何にも替えられない(芹澤)」といった他のメンバーのメッセージからも、十二分に感じ取れるものだった。だからこそ、その形が変化することに不安をもつファンがいることもまた当然のことだろう。しかし、その不安は当然拭われていくだろうと感じさせてくれたのが、この日のライブだった。

“卒業”は単なる終わりではなく、新たな挑戦へのスタートでもある。憧れを道しるべにして最高の瞬間を、未来を掴むために、6人の歩みはこれからも続いていく。

●i☆Ris LIVE 2021 ~storiez~

2021.03.28@パシフィコ横浜国立大ホール
M1. Color
M2. §Rainbow
M3. ドリームパレード
M4. ありえんほどフィーバー
M5. Believe in / 山北早紀&澁谷梓希
M6. 扇子・オブ・ワンダー☆ / 澁若山
M7. プリパラメドレー
・Ready Smile!!
・ミラクル☆パラダイス
・ブライトファンタジー
・Shining Star
・Make it!
M8. Realize!
M9. Goin’on
M10. キラリ
M11. 卒業式
M12. Memorial