コロナ禍で急速に進んだリモートワーク。賛否両論の状況だが、とりわけ生産性の低下を懸念する声が少なくない。しかし、リクルートマネジメントソリューションズでは早くから自社のリモートワーク化を推進。ノウハウをまとめた、個と組織を生かす 『リモートマネジメントの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)を刊行した。

タイムリーな一冊なので、発売を記念して開催されたセミナーを紹介する。

  • リモートワークは生産性が低下する?

リモートワークを知ることがマネジメントの第一歩

同社は「個と組織」に焦点をあて、経営・人事課題の解決と、事業・戦略の推進を支援する会社。新しい働き方としてリモートワークを2013年から社内で推進し、豊富なノウハウを蓄積している。

セミナーではまず、著者でありスピーカーを務めた武藤久美子氏が、マネジメントの第一歩としてリモートワーク自体を知ることの大切さを説いた。

「リモートワークがもたらす変化は3つあります。まずはワークライフバランスからワークインライフへの移行、次に組織や個人の生産性やパフォーマンスの低下への懸念、最後がリモートワークのソロ化です。これらの変化に対応したマネジメントを行うことで、リモートワークをチャンスにすることができます」。

  • リモートワークがもたらす「変化」 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」とは孫子の兵法だが、武藤氏の説いていることは、まさにこれ。リモートワークで何が起きているかを知らなければマネジメントできないのは当然のことだ。

的確に行えば、フラットなコミュニケーションの実現や働きやすさを働きがいに変える絶好の機会になると言う。

次のステップはメンバーの状況を把握すること

リモートワーク自体を知ることができたら、次のステップはリモートワーク化におけるメンバーの状況を把握することがポイントになるようだ。この点についても、武藤氏が次のように解説した。

「リモートワークには、自律的に仕事がしやすくなったり、生活をより大事にしやすいといったメリットが期待できる一方で、周囲を安心させたり自分で心身の健康維持することに対する責任が重くなります。ともすれば、自由を享受できない状況に陥ったり、自律的に仕事をすることで組織に属する必要性が薄くなって遠心力が働くことも少なくありません」。

自身の会社員時代を振り返ると、確かにうなずける指摘だ。必要な経験やスキルが不足しているうちは、自律的に働くことなどできなかった。逆に自律的に動けるようになると、組織に属していなくてもできるのではという妙な自信が生まれた。

また、武藤氏は現状のリモートマネジメントの課題点をこう指摘する。

「従来のマネジメントでは、普段、顔を合わせていることから、偶然やついでの機会を使ってメンバーの状況に応じた働きかけができました。ところが、リモートマネジメントではこうした手法が通用しないことを認識すべきです」。

マネジメントにおける「3つの『こ』」と「10のポイント」

課題点が明確になれば、当然、それへの対処法も見えてくる。この点に関して、武藤氏は「3つの『こ』」と「10のポイント」を挙げた。

「3つの『こ』とは、個(こ)として立つ、心(こ・ころ)の距離が近い、ここがいいの3つです。これらをメンバーに感じられるよう意図して支援するのがリモートマネジメントです。そして、支援を実践するために10のポイントがあります」。

例えば、個として立つについては、期初に目標に向かって走れるようゴールを設定し、成果だけでなくプロセスも評価することが重要だという。ユニークだったのは、メンバーのブランドをつくるということ。ブランドとは、メンバー1人ひとりの得意なことで、それを周囲が知ることでメンバーの活用がしやすくなる。

また、「ここがいい」と思わせるポイントも興味深かった。メンバーの生活や仕事以外の活動を大事にすることが大切と説く。ただ、注意しなければならないのは、メンバーのプライベートを聞くことがハラスメントになる可能性があることだ。

  • 3つの「こ」は10のポイントにて実践する 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

コロナ禍後の定着はリモートワークのマネジメントしだい

最後に最近のリモートワークにおける、あるある的なケーススタディの紹介があったので取り上げたい。

「オンラインミーティングで盛り上がったアイデアがあったので、担当者を決めて形にすることを指示したところ、2週間たっても進捗がなかったケースがありました。原因はどうアクションするのか、いつシェアできるようにするのかを明確にしていなかったことにあります」。

ミーティングが盛り上がったからといってノリと勢いだけで進めようとしても、成果は上がらないということだろう。確かに、ありがちだが、これはリモートワークでなくても起きるケースだ。

いずれにしても、本セミナーに参加するまで、リモートワークがコロナ禍後も定着するのか懐疑的だった。

現に、リモートワーク(在宅勤務)で生産性が下がったとするアンケート結果もあるようだ。しかし、リモートワークにふさわしいマネジメントができれば、生産性の問題も解決できるということ。新しい働き方を謳歌できる時代が来ることを期待したい。

取材協力:武藤久美子(ぶとう・くみこ)

2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。
組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当し、個と組織を生かす風土・仕組み作りを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍、企業の評判など。