日本酒「獺祭」を作る旭酒造が開催した、原料となる酒米「山田錦」のコンテスト「最高を超える 山田錦プロジェクト2020」。今年1月に行われた発表会では、グランプリとなった生産者の米60俵が3,000万円で買い取られた。今回グランプリを受賞した福岡県朝倉市のウイング甘木・北嶋将治氏のもとへ、旭酒造 代表取締役社長の桜井一宏氏が訪問した様子をレポートする。

  • 山田錦を植える前の小麦畑の前にて。コメの前に植える作物の出来の良さは今年のコメの品質の指標になるという

人がコメを作るのではなく、コメに人が育ててもらっている

「最高を超える 山田錦プロジェクト2020」は、全国127名から63点の山田錦がエントリー。昨年度はグランプリ米に対して相場の約25倍となる50俵2,500万円で買い取ったことが話題となったが、今回はその額をさらに上回る、60俵3,000万円での買い取りが提示された。

そのなかからグランプリを勝ち取った米を栽培した生産者が、福岡県朝倉市のウイング甘木に所属する北嶋将治氏だ。グループで山田錦を作って約10年、エントリー2回目でのグランプリ受賞し、圧倒的な点差でグランプリを獲得したという。ほかにも北嶋さんが作る「にこまる」という米も「お米番付」での最もおいしい米のひとつに選ばれるなど、高い評価を受けている。

1月に開催された発表会はオンラインで行われたため、3月8日、旭酒造の桜井一宏代表取締役社長は表彰状とともに北嶋氏のもとを訪れた。

桜井社長から表彰状を受け取った北嶋氏は「グランプリ受賞や賞金ももちろんだが、審査後に『素晴らしい出来だった』と連絡をもらえたことが何よりうれしかったです。みんなで協力して頑張れたことが認められた。来年もさらに良いものができるように頑張りたいです」と語る。米作りには、梅干しを田に入れて、種まで微生物が分解しきる速さで田んぼの力を確認したり、肥料として海藻を入れてみたりと工夫されたそう。

「自然は山から海へと循環している。栄養分を田んぼに戻してあげるイメージです。化学肥料より、やはり自然の力が強いんです」――山田錦を育てていると、人がコメを作るのではなく、コメに人が育ててもらっているように感じる、と米作りの姿勢を語った。

桜井社長は「北嶋さんは山田錦のことを話すとき、本当に少年のように目を輝かせている。楽しみに参加してくださっているのがうれしいですね。獺祭は、日本の山田錦の生産量の約4分の1を使わせていただいております。これからもより良い品質の米を使い、より美味しい獺祭を造っていくことが旭酒造の使命です」とコメントを寄せている。

グランプリ生産者の夢とは?

多くの米の賞を獲得する北嶋氏の根底には、純粋な好奇心とベテランの腕があるようだ。夢を聞いたところ「一粒がおむすびサイズの山田錦を作ること」だという。

「10年、20年ではできないけれど、そんなものが本当にできたら、どんな食感になってどんな味になるんだろう。夢があって楽しいじゃないですか」と北嶋氏。「農家は一年を通して地味な日々の繰り返しだからこそ、ちょっとした"アソビ"を大事にして、チームで楽しみながら働くことを大事にしています」と語る通り、ひとりではできない農業だからこそ、仲間たちとのコミュニケーションは重要だという。だからこそ今回の北嶋氏のグランプリ受賞は、社員や近隣の生産者への刺激になっているはずだ。

また、今回の訪問にあたり、桜井社長は朝倉市に店舗を構える寿司屋「福よし」も訪れた。北嶋氏の幼馴染みの店であり、桜井社長自身がニューヨークで世話になった方の弟が大将をつとめているそうだ。

北嶋氏にとって、自分が収穫して送り出した米を存分に生かして客へ提供する飲食店の存在は大きという。桜井氏も「生産者さんが収穫して届けてくださった米を使って獺祭を醸し、実際に飲むお客さんへ紹介してくださる取り扱い店さんへ、しっかりとバトンを渡していかなければと強く感じました。これだけの方々の労力と想いがのった米を半分以上精米して削り、発酵させて液体へと形を変えていくのですから、責任も重大です」と、今後の酒造りへ意欲を見せた。