医療保険や年金など、社会保険にはいくつか種類があり、それぞれに加入義務があります。

会社員の場合、企業が負担してくれるものもありますが、自分ですべてを支払うと家計に対する負担もかなり大きくなります。社会保険料は控除が適用される場合があり、控除を受けることができたら所得税や住民税を減らすことが可能です。

本記事では、社会保険料控除の概要をはじめ、自分がどのくらい社会保険料控除を受けられるのか、手続き方法や注意点などをご紹介します。

  • 社会保険料の概要

    社会保険料は必要なときに給付が受けられる制度です

社会保険料とは

社会保険とは、勤労者が相互に助けあって勤労者の福祉を図るための仕組みです。国が運営の責任を持ち、各々の社会保険には法律で加入義務が課せられています。社会保険料は所得に応じて負担して、必要に応じて給付を受けます。

例えば、健康保険に加入していると「保険証」が交付されます。

保険証を持って病院に行くと、医療費の負担は3割で済むなど、実際にかかった費用よりも安く抑えられますよね。このときの残り7割の費用は、健康保険料などをもとに健康保険組合などから給付されています。

また、国民年金保険料や厚生年金保険料を納めていれば老後に年金が支給され、退職した場合には雇用保険の加入条件に基づいて失業給付が得られます。これらはすべて社会保険の仕組みで運用されています。

社会保険は大きく5種類に分けられます。

  1. 医療保険
  2. 介護保険
  3. 年金保険
  4. 労災保険
  5. 雇用保険

以下、それぞれの保険に関して、被保険者、保険者などを表にまとめました。

制度名 被保険者 保険者 給付事由(※)
1. 医療保険 健康保険 会社員など ・全国健康保険協会
・健康保険組合
業務外の病気・けが・出産・死亡
船員保険 船員 全国健康保険協会
共済組合 ・公務員
・私学の教職員
各共済組合等
国民健康保険 自営業者など
(健康保険・船員保険・共済組合加入者以外)
市区町村など自治体の国民健康保険組合 病気・けが・出産・死亡
後期高齢者医療 ・75歳以上の人
・65歳~74歳で一定の障害状態にある人
後期高齢者医療広域連合 病気・けが
など
2. 介護保険 ・65歳以上の住民
・40歳以上65歳未満の医療保険加入者
市区町村 要介護・要支援
3. 年金保険 国民年金 20歳以上60歳未満のすべての国民 政府
(運営 : 日本年金機構)
老齢・障害・死亡
厚生年金 ・民間会社の勤労者
・国家公務員
・地方公務員
・私学の教職員
政府
(運営 : 日本年金機構・各共済組合など)
4. 労災保険 すべての労働者 政府
(厚生労働省)
業務上・通勤途上の病気・けが・障害・死亡
5. 雇用保険 すべての従業員 失業・高齢者の賃金低下・育児休業・介護休業

(※)給付事由(きゅうふじゆう) : 保険料が給付される場合のこと

  • 社会保険料の概要

    自分や家族が被保険者となる社会保険を知っておきましょう

社会保険料控除とは

社会保険料控除とは、自分自身や配偶者、その他一定の親族が負担すべき社会保険料を納めたときに受けられる所得控除です。

社会保険料控除の対象となる社会保険の例

前述のとおり、社会保険は5つの種類に分けられます。そのなかで社会保険料控除が適用される主なものは、以下の通りです(※1)

  • 健康保険料
  • 国民健康保険料
  • 介護保険料
  • 労働保険料
  • 公的年金保険料
  • 船員保険料
  • 厚生年金基金の掛金
  • 国民年金基金の掛金
  • 労働災害補償保険料
  • 公務員の互助会の掛金……など

社会保険料控除は自分以外の負担額も控除できる

社会保険料控除が適用されるのは、納税者が社会保険料を納めた場合です。また、控除対象となる社会保険の範囲も決まっています。

<社会保険料控除の対象となる社会保険>

  • 自分
  • 自分と生計を一にする(※)配偶者
  • 自分と生計を一にするその他の親族

(※)「生計を一にする」 :
日常の生活の資を共にすること。同じ家に住んで生活費を共有している場合はもちろん、別居していて生活費を送金している場合や、勤務、修学などがない時期は他の親族と一緒に生活している場合も当てはまる

社会保険料控除 税法上の定義
配偶者 対象 法律上の婚姻関係にある者
(夫からみた妻、妻から見た夫)
内縁関係
・事実婚
対象外 定義なし
(税法上は配偶者ではないと解されている)
親族 対象外
※生計を一にしていない場合
1.~3.のいずれかを満たす人
1. 6親等内の血族
2. 配偶者
3. 3親等内の姻族
扶養親族 対象 1.~3.のすべてを満たす人
1. 納税者と生計を一にしていて以下のいずれかに当てはまる人
・配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)
・都道府県知事から養育を委託された児童
・市町村長から養護を委託された老人
2. 年間の合計所得金額が48万円以下
3. 事業専従者ではない

健康保険の場合、内縁関係でも扶養に入れる場合がありますが、税法上は対象外とするのが一般的であり、社会保険料控除は受けられません。

また、生計を一にする配偶者その他の親族の国民健康保険料や後期高齢者医療保険料について、自分が支払った場合は社会保険料控除の対象となります。

一方、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料、介護保険料について、生計を一にする配偶者その他の親族が受け取る年金から自動的に天引き(特別徴収)されている場合は、社会保険料控除の対象外です。

  • 社会保険料控除の概要

    社会保険料の種類や適用条件は制度によりさまざまです

社会保険料控除には限度額がある?

社会保険料控除は、その年に実際に支払った金額または給与や公的年金等から差し引かれた金額の全額が控除対象となるため、限度額というものはありません。ここでは税の仕組みについてご紹介します。

所得税・住民税の仕組み

税金は、各々の事情を考慮して平等に税負担ができるように控除が行われます。社会保険料控除を含む所得控除は、1年間の所得金額から控除を行い課税対象額を減らしていくというものです。

一方、税額控除は、課税所得金額に一定の税率をかけて算出した所得税額から直接控除するものです。

  • 課税対象額= 収入- 経費- 所得控除
  • 税金= 課税対象額×税率- 税額控除
控除の条件 控除の例
所得控除 課税対象となる所得を計算する前の所得金額を控除 社会保険料控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除など
税額控除 税率をかけて計算を終えた税額を控除 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)、配当控除など

所得税は所得に応じ税率が変化しますが、住民税は一律10%を負担します。

社会保険料控除の基準額

社会保険料は標準報酬月額をもとに算出します。標準報酬月額は保険組合や都道府県、時期、被保険者か任意継続被保険者かなど条件により異なります。

所得控除を行う社会保険料控除には上限がありませんが、各々の社会保険にかかる保険料は最大50等級まで、厚生年金保険料には最大32等級までが設定されています。つまり、健康保険料と介護保険料をあわせた保険料の被保険者負担分の上限は8万898円(40歳未満で介護保険料の負担がない場合は6万8,388円)、厚生年金保険料の上限は5万9,475円です(令和3年3月時点)。

参考 : 社会保険料の「最小等級」と「最大等級」を比較

例 : 協会けんぽに加入する会社員、東京都在住、40~64歳の場合

以下の通り。

標準報酬 報酬月額 社会保険料
等級 月額
健康保険料・介護保険料 1等級 5万8,000円 ~6万3,000円 3,375.6円
50等級 139万円 135万5,000円~ 8万898円
厚生年金保険料 1等級 8万8,000円 ~9万3,000円 8,052円
32等級 65万円 63万5,000円~ 5万9,475円
  • 社会保険料控除の金額には上限がある?

    社会保険料は全額が所得控除の対象です

社会保険料控除の計算方法とシミュレーション

ここではモデルの事例を使って社会保険料控除でどのくらい納税額が変化するかをご紹介します。

社会保険料控除証明書とは

  • いくら戻る? 社会保険料控除の計算方法とシミュレーション

    社会保険料控除証明書で控除額が確認可能

社会保険料控除証明書は、社会保険料控除が受けられる金額が記載されていて、年末調整や確定申告には必要な書類です。多くの場合、控除証明書が発送される時期は10月ごろのため、年末までの納付済み保険料は記載されません。

  • 1月1日~9月30日 : 納付済額
  • 10月1日~12月21日 : 納付見込額

納付済額と納付見込額の合計額を年末調整や確定申告で申請します。社会保険料控除証明書の見方や申告時に提出が必要かなど、くわしくは別ページの「社会保険料控除証明書とは? 見方・提出の要否・確定申告方法など」で解説しています。

社会保険料控除の計算方法

控除条件を漏らすことなく年末調整書類に記入するためには、自分で社会保険料控除の計算ができると便利です。

健康保険料は、被保険者が会社員の場合、事業主と被保険者で半分ずつ負担しますが、個人事業主や健康保険の任意継続者は全額を支払うため、負担額が会社員の2倍になります。なお、40歳未満の場合は介護保険料の負担はありません。

■試算条件

居住地 : 東京都
対象者 : 協会けんぽに加入する被保険者
標準報酬月額 : 30万円
課税所得額 : 300万円(所得税率10% 、控除額9万7,500円)
年齢 : 40歳(介護保険料の負担あり)

この場合、保険料額表より22(19)等級の行を参照します。健康保険料は、22等級で介護保険第2号被保険者に該当する場合の折半額は、健康保険料と介護保険料をあわせて1万7,460円だとわかります。同様に、厚生年金保険料は19等級の2万7,450円です(令和3年3月時点)。

社会保険料= 標準報酬月額×保険料率÷2 納付した社会保険料の合計
健康保険料 30万円×9.84%÷2= 1万4,760円 1万4,760円+2,700円
= 1万7,460円
1万7,460円
+2万7,450円
= 4万4,910円
介護保険料 30万円×1.8%÷2= 2,700円
厚生年金保険料 30万円×18.30%÷2= 2万7,450円

<節税できる税額>

各々を計算すると、社会保険料控除により所得税が4,500円、住民税の所得割分が5,000円減税されています。

所得税 課税所得額= 収入- 控除額 所得税額= 課税所得額×税率- 税額控除
社会保険料控除を受けた場合 300万円- 4万4,910円
= 295万5,090円
295万5,090円×10% - 9万7,500円
= 19万8,000円(1,000円未満切り捨て)
社会保険料控除を受けない場合 300万円- 0円= 300万円 300万円×10% - 9万7,500円= 20万2,500円
差額 2. 20万2,500円- 19万8,000円= 4,500円
住民税(所得割) 課税所得額= 収入- 控除額 住民税額= 課税所得額×10%
社会保険料控除を受けた場合 300万円- 4万4,910円
= 295万5,090円
295万5,090円×10% = 29万5,000円(1,000円未満切り捨て)
社会保険料控除を受けない場合 300万円- 0円= 300万円 300万円×10% = 30万円
差額 2. 30万円- 29万5,000円= 5,000円

「社会保険料控除の計算方法」について詳しく知りたい方は、この記事も参考にしてみてください。

社会保険料控除の計算方法は? 基礎知識と注意点を解説
本記事では「社会保険料控除」の計算方法や申告書類の書き方などについて紹介します――…続きを読む
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    試算条件の場合、社会保険料控除により納税額が9,500円少なくなります

社会保険料控除の申請に必要な書類

社会保険料控除を受ける場合、国民年金は控除証明書の添付が必要ですが、その他は添付しなくてもかまいません。

原則は添付書類が不要

社会保険料控除証明書を添付する場合には、添付書類台紙に必要な控除証明書を申告書に添付して提出します。もしくは、申告書提出の際に提示するという方法でも可能です。

ただし、給与所得者がすでに年末調整で社会保険料控除を受けていて、あわせて確定申告を行う場合には、社会保険料控除証明書の添付や提示は不要です。

支払い事実の証明が必須となる条件

自分が支払った国民年金保険料や国民年金基金の掛金について社会保険料控除を受ける場合は、「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」などの証明書を添付または提示しなければなりません。年末調整では、期限である翌年1月31日の前に提出すれば控除が受けられます。

社会保険料控除証明書の再発行手続きのしかた

国民年金保険料や国民年金基金の控除証明書が手元にない場合は、再発行が依頼できます。以下、いずれかの方法で問い合わせましょう。

  • ねんきんネット(要ねんきんネットID)
  • ねんきん加入者ダイヤル(電話番号 : 0570-003-004)
  • 年金事務所

「社会保険料控除証明書」の見方や提出方法について知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

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  • 社会保険料控除を受けるために必要な提出書類

    国民年金保険料と国民年金基金は、控除証明書がないと社会保険料控除が受けられません

社会保険料控除の申請方法

社会保険料控除を受けるためには、年末調整または確定申告をする必要があります。ここでは、社会保険料控除欄の書き方および申請方法について、概要をお伝えします。

社会保険料控除を年末調整で申請する【会社員】

年末調整で申請をする場合には、「給与所得者の保険料控除申告書」に以下を記入し、裏面に社会保険料控除証明書を添付します。

  • 社会保険の種類
  • 保険料支払先の名称
  • 保険料を負担することになっている人
  • あなたが本年中に支払った保険料の金額
  • 社会保険料控除の書き方と申請方法

    会社員は年末調整で必要な社会保険料控除を受ける

社会保険料控除を確定申告で申請する【個人事業主】

確定申告の場合は、「確定申告書A」または「確定申告書B」に必要事項を記載して、別紙に社会保険料控除証明書を添付します。

  • 第一表 : 所得から差し引かれる金額
  • 社会保険料控除の書き方と申請方法

    個人事業主は確定申告で社会保険料控除を受ける1

  • 第二表 : 保険料等の種類・支払保険料等の計・うち年末調整等以外
  • 社会保険料控除の書き方と申請方法

    個人事業主は確定申告で社会保険料控除を受ける2

社会保険料控除証明書は、添付書類台紙の5番目にある「社会保険料 小規模企業共済等掛金 控除関係書類」に、はがれないように糊づけして添付します。

「社会保険料控除欄の書き方について詳しく知りたい」方は、この記事も参考にしてみてください。

社会保険料控除欄の書き方を紹介! もれなく申告しよう
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    年末調整や確定申告では、支払った保険の種類や保険額を申告します

社会保険料控除申請のポイント

社会保険料控除を上手に活用するために役立つ申請のポイントをご紹介します。

社会保険料控除の対象となるのは「支払った年」

社会保険料控除は、その年の1月1日から12月31までに支払った保険料がすべて対象です。つまり、その年に納めるべき保険料以外でも、その年のうちに社会保険料を支払っていれば社会保険料控除の対象になります。

例えば、「翌年3月までの保険料を支払った」「過去3年分の国民年金保険料をまとめて支払った」などのように、保険の対象期間が過去や未来のものが含まれていてもかまいません。

なお、今年度と来年度分をまとめて「2年前納」方式で社会保険料を納付した場合は、社会保険料控除の受け方が2通りあります。

  • 2年分を支払った年に一括で社会保険料控除を受ける
  • その年の社会保険料と翌年の社会保険料を分けて算出して、それぞれに相当する額をそれぞれの年で控除する

どちらでもかまわないため、1年分としてより大きく社会保険料控除を受けたいのか、控除額を毎年ほぼ一定にしたいのかを考慮しながら検討をしましょう。

社会保険料控除は自分で確定申告することも可能

年末調整の対象者は確定申告を受けなくてもよいことになっていますが、禁止されているわけではありません。もし年末調整で申請し忘れた社会保険料控除がある場合には、確定申告を行うと控除が受けられます。

なお、納める税金が多すぎた場合や還付される税金が少なすぎた場合は、5年以内であれば、更正の請求という手続きができる場合があります。もし控除を受け忘れた過去の社会保険料がある場合には、今からでも控除が受けられる可能性があるため、社会保険料控除の条件に当てはまるのかをあらためて確認しましょう。

社会保険料控除欄が狭い! 書ききれない場合はどうする?

  • 社会保険料控除申請のポイント

    社会保険料控除欄が狭い! 書ききれない場合はどうする?

社会保険料控除欄の行が不足している場合には、「1行を分割して小さく詰めて記載する」「保険料控除申告書をもう1枚用意する」「別紙を添付して詳細を記載する」などの方法で申請が可能です。

なお、保険料控除申告書はコピーをしたり国税庁のWebサイトから入手したりできます(※2)

副業している場合の社会保険料と社会保険料控除は?

勤務日数や賃金など各社会保険の加入条件を満たした場合は、副業でも社会保険への加入が必要であり、保険料を納めます。

加入条件を満たした場合における社会保険の加入義務

本業 副業 加入条件
健康保険 加入義務 加入義務 ・所定労働時間が週20時間以上
・月額賃金8万8,000円以上
・勤務期間は1年以上の見込み
・学生以外
※従業員規模500名以下の企業の場合は労使の合意が必要
介護保険
厚生年金保険
労災補償保険
雇用保険 加入できない ・生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係にある会社でのみ加入

副業の場合でも社会保険料を納めていれば、本業と同じ基準で社会保険料控除が受けられます。年末調整は1社でしか行えないため、副業の社会保険料控除は確定申告で申請をします。

  • 社会保険料控除申請のポイント

    社会保険料控除は年末調整や確定申告で漏らさず申告しましょう

社会保険控除を正しく理解してスムーズに申請しよう!

社会保険料控除は、健康保険や厚生年金など支払った社会保険料に対して受けられる控除です。自分が保険料を支払っていて条件を満たせば、配偶者や親族などの保険料も全額が社会保険料控除の対象になります。年末調整や確定申告の際は、国民年金保険料や国民年金基金の掛金について控除証明書の添付が必要です。もし控除証明書がない場合は再発行も可能ですので、まずは問い合わせて期限内に提出しましょう。

参照 :
(※1)国税庁「No.1130 社会保険料控除
(※2)国税庁「[手続名]給与所得者の保険料控除の申告