配偶者控除について「どのような控除なのか」「所得がいくらまでなら控除が可能なのか」など、なんとなく知っていてもよくわからないと感じている人は少なくありません。
本稿では、配偶者控除とはどのような控除で、対象となる所得はいくらなのかなど、基礎知識をわかりやすく解説します。2020年(令和2年)より、法改正で変わっている点も多々あるため、どう変わったかについても紹介します。
また、配偶者控除についてよくある質問もまとめているので、確定申告で迷う場合はぜひ確認してください。
配偶者控除とは
配偶者控除とは、確定申告や年末調整で申告する所得控除の一種です。控除対象の税金は、所得税・住民税・相続税の3種類で、毎年確定申告や年末調整で申告する配偶者控除は、所得税および住民税の2種類となります。
配偶者控除のうち毎年申告の必要がある所得税と住民税について、知っておきたい基礎知識を紹介します。
配偶者控除の対象は103万円以下
配偶者控除の対象者となる配偶者の収入は、所得金額で48万円以下、給与収入のみで103万円以下となります。
所得金額とは、何らかの仕事や投資などで得た収入から、収入を得るための必要経費を差し引いた金額です。例えば、クラウドソーシングサービスなどである場所を撮影する仕事を得た場合、撮影場所までの交通費は、必要経費として収入から差し引けます。
給与収入の場合、必要経費は申請できません。ただし、給与所得控除として55万円を給与収入から差し引けます。このため給与収入だけの場合は、48万円に給与所得控除の55万円を足して103万円までは配偶者控除の対象となります。
103万円を超える場合は配偶者特別控除
配偶者控除は、所得金額で48万円、給与収入のみで103万円を超えると控除対象外となってしまいます。しかし、これらの金額を超えても、金額は段階的に少なくなりますが控除を受けられる制度が配偶者特別控除です。つまり、配偶者控除と配偶者特別控除は、同時には受けられない仕組みです。
2020年の法改正と配偶者控除
2020年(令和2年)の法改正では、配偶者控除に関連する金額にも変更がありました。主な変更は以下の通りです。
2020年(令和2年) の法改正以降 |
2020年(令和2年) の法改正以前 |
両者の違い | |
配偶者の所得金額 | 48万円以下 | 38万円以下 | 10万円アップ |
給与所得控除額 | 55万円以下 | 65万円以下 | 10万円ダウン |
配偶者の給与収入 | 103万円以下 | 103万円以下 | |
配偶者控除上限額 | 所得税:38万円 住民税:33万円 |
所得税:38万円 住民税:33万円 |
変わらない |
配偶者控除の対象となる所得金額が38万円から48万円に10万円アップしたため、給与所得以外の所得を得ていた配偶者は、10万円分ゆとりが出ます。
しかし、パート収入など給与所得のみで収入を得ていた配偶者は、給与所得控除額が10万円ダウンしたため、合算すると配偶者控除を受けられる給与収入額は103万円と変わりません。配偶者控除額の上限額も、今回の法改正では据え置きです。
配偶者控除(所得税・住民税)を受けるための要件
配偶者控除(所得税・住民税)を受けるための要件を、以下の3点にまとめて解説します。
- 控除を受ける本人の要件
- 配偶者の要件
- 配偶者が配偶者控除を適用していない
これらの要件について順番に解説します。
(1)控除を受ける本人の要件
配偶者控除を受ける本人の要件は、合計所得金額が1,000万円以下であることです。1,000万円を1円でも超えると、配偶者控除は受けられません。本人の年収900万円以下なら配偶者控除は満額の38万円取得できます。しかし、900万円超950万円以下だと26万円、950万円超1,000万円以下だと13万円に減額されます。
(2)配偶者の要件
配偶者控除を受けるため配偶者に求められる収入以外の要件は以下の通りです。
- 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)
- 納税者と生計を一にしていること
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと
「民法の規定による配偶者」とは、具体的には婚姻届を出している配偶者を指し、内縁関係の夫や妻は配偶者控除を受けられません。また、納税者と生計を一にしている配偶者であることも求められます。
性別に関しては特に規定はありません。どちらか収入が多い方が配偶者控除を申請し、収入が少ない方が配偶者控除対象となるのが一般的です。
また、青色申告者または白色申告者の事業専従者となっている場合、別で税金の控除制度があるため、配偶者控除の対象にならない点も要注意です。
配偶者控除を受けるための配偶者の収入要件は、所得金額の合計が48万円以下、給与所得のみの場合は103万円以下です。
(3)配偶者が配偶者控除を適用していない
配偶者控除および配偶者特別控除は、夫婦のどちらか一方がいずれかの控除を1つだけ利用できる仕組みです。「夫は配偶者控除で妻は配偶者特別控除」といった使い方はできません。夫婦で話し合い、どちらが配偶者控除または配偶者特別控除を利用するのかについて、あらかじめ話し合っておきましょう。
配偶者控除の控除額の計算法と手続き
配偶者控除の控除額は以下の通りです。
控除を受ける納税者本人の 合計所得金額 |
所得税(住民税) | |
一般控除額 | 老人控除額※ | |
900万円以下 | 38万円(33万円) | 48万円(38万円) |
900万円超950万円以下 | 26万円(22万円) | 32万円(26万円) |
950万円超1,000万円以下 | 13万円(11万円) | 16万円(13万円) |
1,000万円超 | 0円 | 0円 |
控除を受ける納税者本人の合計所得額により、所得税と住民税の控除額は違ってきます。
※配偶者がその年の12月31日現在70歳以上の場合は、所得税・住民税ともに控除額がアップします。
配偶者控除額の計算が終了したら、確定申告あるいは年末調整にて、配偶者控除の手続きを進めましょう。
■確定申告での手続き方法
配偶者控除を受ける場合は、確定申告の申告書Bの第一表・第二表に、必要事項を記載します。以下の表(1)と(2)の部分を順番に埋めましょう。
【手続きその1】
第一表の21・22「配偶者(特別)控除欄」があります。配偶者控除の場合、「区分1」は記入しません。配偶者が国外居住親族で、かつ年末調整においてこの控除の適用を受けていない場合は「区分2」に「1」を、この控除の適用を受けている場合は「2」を記入します。右側には配偶者控除額を記載しましょう。
【手続きその2】
第二表の20~23「配偶者や親族に関する事項」の一番上が配偶者欄なので、配偶者の氏名・個人番号・生年月日を記載します。同居の場合は「住民税」の「同一」欄に〇を、別居の場合は「別居」に〇をつけてください。
■年末調整での手続き方法
年末調整にて配偶者控除を受ける場合は、「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の4カ所に必要事項を記載します。記載の必要がある場所は(1)から(4)の4カ所です。
【手続きその1】
「給与所得者の配偶者控除等申告書」の上段で、配偶者の氏名とフリガナ・個人番号・生年月日を記載します。
【手続きその2】
配偶者の収入を給与・所得金額に分けて記載します。給与収入の場合は、給与収入欄に支給額を記載し、右側の所得金額には「支給額- 55万円」の金額を記載しましょう。その他の所得金額があれば下段に記載して、所得金額の合計を太枠内に記載します。
合計額が右側の「判定」で(1)から(4)のどれに当てはまるか確認してチェックしてください。この例の場合、(2)に当てはまります。
【手続きその3】
給与所得者本人の所得金額が900万円以下ならA、900万円超~950万円以下ならB、950万円超~1,000万円以下の場合はCと判定します。右側の「控除額の計算」欄で、本人の所得金額判定(ABC)と配偶者の所得金額判定(1)(2)(3)(4)を確認し、「控除額の計算」表から、控除額を導き出してください。
【手続きその4】
配偶者控除の場合、決定した控除額を上段に記入します。この例では、38万円を記載しましょう。
相続税の配偶者控除を受ける要件
相続税には、配偶者の税額軽減があります。これは、配偶者が死亡した場合に一定額まではもう一方の配偶者に相続税はかからないという制度です。一定額とは、遺産額が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額までのどちらか多い金額までとなります。
受けるための3つの要件
相続税の配偶者控除を受ける要件は以下の3つです。
- 法律上の婚姻関係にある配偶者であること
- 相続税の申告書を税務署に提出すること
- 遺産分割が確定していること
法律上の婚姻関係とは、婚姻届を提出している配偶者を指しています。内縁の夫や妻は遺産を相続できません。
また、申告期限までに、遺産分割協議を完了して相続税の申告書を税務署に提出することも必要です。相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月です。
相続税の配偶者控除額
相続税の配偶者控除額は、遺産額が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額までのどちらか多い金額までとなります。まず、相続税の基礎控除「3,000万円+ 600万円× 法定相続人数」を超えなければ、そもそも相続税の申告は不要です。
【事例1】
法定相続人数が妻と子供2人の合計3人の場合、相続税の基礎控除は以下の通りとなります。
3,000万円+ 600万円× 3人= 4,800万円
この状態で遺産が4,000万円なら、基礎控除内なので相続税はかかりません。
【事例2】
遺産が4億円あった場合、法定相続分通り配偶者2分の1、子供が4分の1ずつ遺産を分割して妻が2億円分の遺産を相続したとしましょう。
この場合、配偶者の法定相続分相当額の相続なので、配偶者には相続税がかかりません。子供は基礎控除として4,800万円まで認められるため、
1億円-4,800万円= 5,200万円
に対して相続税が課税されます。相続税の税率は1億円以下の場合30%なので、
5,200万円×30%= 1,560万円
すなわち、1,560万円ずつ子供たちには相続税がかかる計算です。このように、相続税の配偶者控除は配偶者の法定相続分相当額まで認められるため、非常に大きな節税効果があります。
配偶者控除のよくある質問
最後に、配偶者控除でよくある質問をまとめました。どのようにすればよいか迷う場合にチェックしてみてください。
Q1.内縁の妻・夫も配偶者控除が可能?
配偶者控除の対象となる配偶者(性別問わず)とは、役所に婚姻を届け出ている配偶者に限られます。同居している事実婚の相手は、民法の規定外ということになり、配偶者控除の対象にはできません。
Q2.年の途中で配偶者や納税者本人が死亡した場合は?
配偶者のその年の1月1日から死亡日までの間の合計所得金額が48万円以下の場合、納税者は配偶者控除を1年分受けられます。
また、配偶者が死亡した同じ年に再婚した場合、再婚相手の合計所得金額がその年の12月31日時点で48万円以下というケースもありえるでしょう。その場合は、どちらか1人だけを配偶者控除の対象にできます。2人分の配偶者控除ができるわけではない点は要注意です。
年の途中で納税者本人が死亡した場合も、配偶者のその年1年間の合計所得金額を見積もって、合計所得金額が48万円以内なら、配偶者控除を受けられます。この場合も、配偶者控除は1年分受けられます。
Q3.失業手当を受給している配偶者の所得金額はどうなる?
失業手当は課税対象ではありません。そのため、配偶者が失業手当を受給しているなら失業手当分を所得金額に含めず計算しましょう。
Q4.出産育児一時金や育児休業給付金を受けている配偶者は?
出産育児一時金・出産手当金・育児休業給付金は課税対象ではないため、所得金額に含める必要はありません。
Q5.日本国外に住む親族を配偶者控除の対象とする方法は?
国外居住親族に対して配偶者控除を受ける場合は、確定申告書に「親族関係書類」と「送金関係書類」を添付しなければなりません。書類の内容は以下の通りです。
必要書類 | 書類の内容 |
親族関係書類 | ・戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及びその国外居住親族の旅券の写し ・外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(その国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限ります。) |
送金関係書類 | ・金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引によりその納税者からその国外居住親族に支払いをしたことを明らかにする書類 ・いわゆるクレジットカード発行会社の書類又はその写しで、そのクレジットカード発行会社が交付したカードを提示してその国外居住親族が商品等を購入したこと等及びその商品等の購入等の代金に相当する額をその納税者から受領したことを明らかにする書類 |
年末調整において給与所得者が配偶者控除の適用を受ける場合は、会社に「給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出すれば、会社の方で税務署に提出してもらえます。
配偶者控除を正しく理解しスムーズに申告を進めよう
配偶者控除は、納税者本人の所得金額と配偶者の所得金額によって適用の有無や控除額が変化します。最初は難しく感じるかもしれませんが、落ち着いて順番に確定申告書を書き進めていけば問題ありません。年度の途中での離婚や死別などのレアケース以外は問題なく対処できるでしょう。
特殊なケースで迷う場合は、ぜひよくある質問を確認してみてください。配偶者控除を正しく理解し、確定申告をスムーズに進めましょう。