体を気遣って夜ふかしは控えているし、睡眠時間は足りているはず。だけど、目覚めがどうも悪い…。そんな悩みを抱えている人は多いと思います。管理栄養士で分子栄養学を専門とする篠塚明日香さんは、「睡眠時間を確保しているのに寝起きがつらいのなら、食から改善していくこともひとつ」と語ります。篠塚さんに、快適な朝を迎えるための食事法を聞きました。
■良質な睡眠を得るためには副交感神経の働きを高める
朝、しゃきっと起きることができて、仕事や勉強に集中力して取り組めた日は、自然と充実した1日になりますよね。でも、いつも理想通りにはいくわけもなく、重たい体で1日がはじまることもあるでしょう。
目覚めたときのだるさや不快感には様々な理由が考えられますが、なんらかの疾患を除いては、前夜の「眠りの質の低さ」に原因があると推測されます。早めに布団に入り睡眠時間をしっかり取ったにもかかわらず朝がつらいというときは、体の疲れをとる睡眠ができていないと考えていいでしょう。
では、自分の眠りの質が低くないかを確かめてみましょう。手がかりとなるのは、「歯ぎしりする」「はっきりとした(悪い)夢を見る」「中途覚醒する」「寝汗をかく」といったような症状の有無です。
上記に挙げたような症状がある場合は、眠りの浅さを示しているとされます。わたしは医師ではありませんので、医学的見地からの改善方法は示唆できませんが、眠りの質になんらかの問題があるようだったら、ぜひ解消したいところ。
管理栄養士として、ここからは食を通じて眠りの質を高めるためのポイントを説明していきますが、話に入る前に押さえておきたいのが自律神経の働きです。ご存じの方も多いかもしれませんが、自律神経は体の機能を活発化させる、いわばアクセルのような「交感神経」と、逆に鎮静化させるブレーキのような「副交感神経」からなっています。
ふたつの神経は状況に合わせ交互に働いていますが、睡眠時にはブレーキ役を担う副交感神経がリードする状況をつくると、より深い眠りにつくことができます。
さて、この自律神経に影響を与えるのが血糖値です。人間の体は生命を維持したり体を動かしたりするために必要なエネルギー(糖)が血中にどれだけ確保されているかを、常にモニタリングしています。
そして血糖値が低くなると、ホルモンの働きで食欲を呼び起こしたり、体内に貯蔵している栄養素を使ったりして、血糖値を高めようとします。逆に血糖値が必要以上に高まったときには、膵臓から出るインスリンの働きによって血糖値を下げていきます。
自律神経は、こうした体のメカニズムと深く連動しています。血糖値を上げるべき場面では交感神経がよく働き、下げる場面では副交感神経が働いています。ですから、睡眠中に血糖値が下がり過ぎてしまい、交感神経が活発に働いてしまう状態をつくらないことが、安眠、そして快適な朝につながるとことになります。
■「血糖値の乱高下を避ける食事」が快適な朝を引き寄せる
ところが、血糖値を急上昇させる米、パン、麺類などの炭水化物(糖質)を中心とした食生活を続けていると、血糖値に対する体の反応が過敏になり血糖値の乱高下が起こりやすい体質(血糖調節異常)になってしまうことがあります。
血糖値を最適な状態にコントロールするためには、ビタミンDや亜鉛、マグネシウムなどのミネラルが必要なのですが、炭水化物中心の食事を続けるとそれらが欠乏してしまうため、血糖値の調整がうまくいかなくなるのです。
すると、通常なら夕食を食べたあと時間をかけて穏やかに下がっていく血糖値が急激に下がり、睡眠中に一定水準よりも低くなってしまうといったことが起きやすくなるのです。
血糖値が下がると、体は血糖値を上げようとします。そうなると交感神経が働き出して「脳は眠っているのに、体は起きている」状態に陥ってしまうわけです。そういった体の状態が、眠りの質を下げる原因になっていることは多くあります。
そんな状況を改善するには、日頃から血糖値の上昇や下降を穏やかにする食生活を心がけることです。糖質を多く含むメニューを単品で食べることは極力避け、野菜、それからタンパク質を含む肉、魚、大豆製品といったおかずと一緒に食べるようにしましょう。
食べる順番の工夫にも効果があります。人間の胃には、消化に時間がかかるものが入ってくると胃の上下の門が閉まるという特性があります。その特性をうまく利用し、野菜であったりタンパク質が含まれるおかずであったりを先に食べ、食事の後半で糖質をとるようにします。
そうすることで、口にしたものが腸で吸収され、血糖値を上げるまでの時間を稼げます。
逆に糖分を多く含む清涼飲料水は、胃をあっという間に通過して腸で吸収されてしまうので、血糖値を急激に高める代表的な食品といえます。カフェインがアドレナリンの分泌を促し血糖値の上昇に影響するコーヒーや紅茶なども、飲むタイミングには注意しましょう。
間食においても、お菓子類はできるだけ避け、糖質が少ないタンパク質を多く含む焼き鳥やサラダチキン、スルメイカといったものを選ぶようにしたいですね。
■寝る前に「ハチミツを小さじ1、2杯」なめてみる
睡眠中の低血糖で眠りの質が悪くなっているときの対処の基本は日常的な食生活の見直しです。ただ、悪い食習慣が身についていてミネラルの欠乏が強い場合、改善まで時間を要します。そこで、ある程度の即効性を期待したいのであれば、応急処置としてハチミツの活用をすすめています。
成分的には紛れもなく糖質に分類されるハチミツですが、砂糖とは成分の結合状態が違っており、分解しなくてもすぐに吸収できるかたちの糖が含まれています。そして、砂糖に比べて血糖値を急上昇させにくく、肝臓や筋肉に貯蔵され食事のできない睡眠時などに血中へと供給される糖分(グリコーゲン)の合成に使われやすいという特徴があります。
ですので、ハチミツを小さじで1、2杯ほど就寝前に摂っておくと、睡眠時に血糖値が下がってきたとき、うまく血中に供給され最適な血糖値を維持してくれます。すると、その後の交感神経の活発化を抑えられることから、眠りの質が極端に下がるのを避けることができるというわけです。夜中に目が覚めてしまうという悩みを持っている人には、ぜひ試してほしいですね。
なお、慢性的なエネルギー不足で低血糖が続き、それが朝の不調を引き起こしているという人であれば、就寝前だけでなく起床後もハチミツをなめてみるといいでしょう。もちろん取り過ぎはよくありませんが、量を守って摂取すれば体の調子を上げてくれるはずです。
なお、ハチミツは普段使用する調味料としても優秀です。栄養成分として、糖質をエネルギーに変えるために必要なビタミンB群やミネラルが含まれています。また、ハチミツには白砂糖の約1.3倍の甘みがあるため、少量でも満足感を得ることができます。
例を挙げると、白砂糖が大さじ3杯(27g)で104Kcalなのに対して、同じ甘さを感じることができるハチミツおおさじ1杯(21g)は64Kcalと低カロリー。よって、ハチミツは白砂糖と比較して太りにくい甘味料だといえます。ハチミツといってもいろいろな商品がありますが、非加熱のものを選ぶとビタミンやミネラルがしっかり残っています。
ハチミツ以外にも、ココナッツオイルやその成分でつくられたMCT(Medium Chain Triglyceride)オイルなども睡眠中の低血糖の回避につながる効果が期待できます。MCTオイルは、他の油と違って消化吸収が早くエネルギーになりやすい特徴があります。こちらも睡眠前に少量とることで、眠りの質を上げる効果が期待できます。
眠りの質というと、眠る環境や眠り方などに関心が寄せられることが多いですが、眠りは「なにを食べるか」にも大きく影響されています。食生活の見直しを通じた安眠を実現して、快適な朝、絶好調の1日を取り戻していきましょう。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/秋山健一郎 写真/櫻井健司