目の前には空のお皿。もたれて不快な胃…。わかっているのにやめられない「食べ過ぎ」で体調を崩した経験はありませんか? 食欲をコントロールできないことに罪悪感を覚え、自己嫌悪に陥っている人もいるでしょう。

  • これが「過食」のメカニズム!! ついつい食べ過ぎて…を抑える方法は? /管理栄養士・分子栄養学カウンセラー・篠塚明日香

でも、管理栄養士で分子栄養学を専門とする篠塚明日香さんは「食べ過ぎは身体の自然な反応。自分の弱さのせいだとは思わないでほしい」と語ります。食べ過ぎが起こるメカニズムと、食欲をうまくコントロールするための方法を聞きました。

■食べ過ぎの原因の多くは、「低血糖」に対する身体の反応

食べ過ぎを引き起こす過食欲求は、なぜ発生するのでしょうか? 理由はいくつか考えられますが、血液中の糖分が不足する「低血糖」が引き起こしていることがほとんどです。でも、「普通の生活をしていて、低血糖になるの?」と思う人もいるかもしれませんね。少し説明しましょう。

人間の身体には、血糖値を常に一定に保とうとする仕組みがあります。血糖値は上がったままになったり、下がったままになったりすると健康に悪影響がでるため、身体にはそれを避けるための「安全装置」のようなものが備わっているのです。

1日に必要な栄養素を、朝・昼・夜に分けてバランスよく摂取できているようなとき、この安全装置はあまり動きません。でも、炭水化物中心だったり、1日2食、もしくは1食といった偏った食べ方をしたりすると、どうしても糖質が短時間で血中に入り血糖値が急上昇しやすくなります。すると安全装置が強く働きはじめ、上昇した血糖値を下げるインスリンが大量に分泌されます。多量のインスリン分泌によって、必要以上に血糖値が下がってしまうことがあります。

多量のインスリンによって低血糖状態が生じると、人体はまた元に戻そうと反応します。低血糖状態が長く続くことは死を意味しますので、身体にとっては緊急事態。すると、アドレナリンやコルチゾールといったホルモンが分泌され、体内に蓄えられた脂質やたんぱく質を使って血糖値を上げていきます。

同時に、わたしたちの脳に「早く食べろ!」という信号を送り、すぐにエネルギーになりやすい糖質を特に欲するようになるのです。

これが、私たちを襲う強烈な過食欲求の正体です。「食べても、食べても、すぐお腹が空く…」という悩みを訴える人がいますが、それは血糖値の乱高下が引き起こす典型的な症状です。バランスの悪い食べ方で食欲が湧き、さらに食べるともっと食欲が湧く。そんなスパイラルが発生してしまっているのです。

そのような状態に陥っている人のなかには、「機能性低血糖症」になっている人もいるので、注意が必要です。

■食後の「眠気」は低血糖を知らせる重要なサイン

ここまで読んで、「もしかして自分もそうなのかな?」と思った人がいるかも知れません。でも、血糖値は体温や血圧のように気軽に測定するのが難しいので、自分の血糖値が低いのか高いのか、また乱高下を起こしているのか簡単には把握できないという問題があります。

それでも、ひとつのヒントとなるのが「眠気」です。食事を取ったあと、急激な眠気に襲われることがある場合は低血糖に陥っている可能性がかなり高いと見ていいでしょう。低血糖は他にも様々な症状が出ますので、気になる人は以下でチェックしてみてください。

【低血糖チェックリスト】
□食後の眠気
□頭痛、動悸、冷や汗
□不安感、イライラ、息苦しさ
□だるい、集中できない、やる気がでない
□夜間の歯ぎしり、寝汗、途中覚醒、悪夢

それにしても、「人間には、なんでこんなやっかいな安全装置があるのだろう」と思いますよね? こういう仕組みができたことには、人間の進化の歴史がかかわっているといわれています。飢餓を乗り越え、いかに生命を維持するかというテーマのなかで進化してきた人間の身体は、食べ物が得られない飢餓の状態にとても敏感で、血糖値の低下を「生命の危機」と判断しアラートを出すようにできています。それこそが、過食欲求なのです。

そう考えると、理性や気合や根性でこれに対抗するのが、到底無理な話だとわかるのではないでしょうか。くれぐれも、過食してしまった自分を責めるのではなく、なにか原因はないかと、食生活を見直してみてほしいと思います。

なお、血糖値の乱高下を引き起こす機能性低血糖症以外にも、ミネラル不足で血糖値のコントロールがうまくいかなくなることから引き起こされる低血糖や、腸内環境の悪化、ストレスの影響が過食欲求の原因になっているケースもあります。

■食べ過ぎの原因、血糖値の乱高下を止めるためにできること

さて、低い血糖値に反応して「食べろ!」という信号を脳が発する仕組みを止める方法は、残念ながらありません。私たちができるのは、血糖値が急激に、必要以上に上がったり下がったりしない食事のとり方を身につけることです。

まず心がけたいのが、糖質を多く含む食品を単品で食べないこと。「そば」や「うどん」、「ごはん+ごはんのお供(漬け物や佃煮など)」や「お茶漬け」ですませる食事は、特別、不健康には感じないかもしれませんが、血糖値のコントロールという意味では避けたいメニューです。

それでは、麺類やご飯と一緒に摂るべきおかずはどんなものなのでしょうか? 参考にしたいのは、和食のメニューを考えるときの心がけとして有名な「ま・ご・わ・や・さ・し・い」という語呂合わせです。

糖質単品を避け、これらのミネラルや食物繊維が豊富な食材を積極的に摂ることは、血糖値の急激な上昇を抑えることが期待できます。とても基本的なことですが、効果は必ずあるので意識してみてください。

また、その日の最初の食事(ファーストミール)で、しっかりタンパク質を摂ると、二度目の食事(セカンドミール)で糖質を一定量含んだ食品を摂取しても、血糖値の急上昇が抑えられるという研究結果もあります。この「セカンドミール効果」と呼ばれる食べ方を意識するといいでしょう。

そして、食事と食事のあいだについ口にしてしまう菓子類などの間食を、タンパク質が主体となっている食品に置き換えることもおすすめします。焼き鳥やサラダチキン、枝豆やナッツ類のようなもので代替してはどうでしょうか? 午後のおやつの時間に血糖値上昇からの低下を起こさずに済めば、夕食の食べ過ぎが避けられるかもしれません。

◆食生活の見直しで、「食べ過ぎ」を防ぐためのフロー

[1]「食べ過ぎ」は身体の正常な反応がもたらすことを理解する
[2]食後、眠気に襲われることはないかを確認
[3]「糖質単品」は避ける。おかずは、「まごわやさしい」を参考に
[4]朝、最初の食事は炭水化物だけでなく野菜、タンパク質をしっかりと
[5]間食はお菓子をやめて、焼き鳥やナッツ類に

食べ過ぎのメカニズムがわかると、ダイエットに対するイメージも変わってくるかもしれません。食欲をただただ我慢し続けるのではなく、食欲を過度に高めないための注意を払いうまくコントロールしようという考え方に転換すれば、リバウンドを繰り返すようなこともなくなるかもしれません。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/秋山健一郎 写真/櫻井健司