「二律背反」はとっつきにくい小難しい漢字が並ぶだけに、わかりにくい言葉であり、具体的にどのような状況のことを指すのか、知らない人も多いでしょう。

本記事では二律背反について、言葉としての意味や使い方・例文はもちろん、どういう状況を指すのか、ビジネスシーンでの具体例を紹介。由来である哲学用語「アンチノミー」についてや類語もまとめました。

  • 二律背反の意味を理解しましょう

    二律背反の意味や使い方、由来などを理解しましょう

二律背反の意味と読み方とは?

二律背反とは、「一つの事柄から生じた結果や判断が、ともに成り立つと同時に矛盾している状態」を表す言葉です。

ビジネスシーンで二律背反のようなことがよく起こるのは、「相反する条件をクリアして目的の達成を求められるケース」です。

例えば、上司から働き方改革にのっとって有給休暇を取得するように促されていると仮定します。しかし、その有給休暇を取るために、休日前後の出勤日に深夜まで残業をせざるをえないような状況は、二律背反と言えるでしょう。

読み方は「にりつはいはん」です。

二律背反の使い方と例文

ビジネスシーンで上司の指示とマニュアルの内容が違う場合などは、二律背反の状態です。

以下に二律背反を用いた例文を紹介しますので、使い方のイメージを捉えましょう。

・業務の効率化のために導入したシステムが使いにくく、社内講習会の開催準備やマニュアル作成の業務でかえって残業続きになってしまい、これでは二律背反です
・残業が減って定時に帰れるのはうれしいけれど、収入が減るのは二律背反で、どちらがよいのかわかりません

特にビジネスシーンでは、例文のような矛盾する状態が頻繁に起こります。

二律背反を表す具体例をわかりやすく解説

  • 二律背反を適切に使えるように理解を深めましょう

    二律背反を適切に使えるように理解を深めましょう

ここでは、二律背反とはどういう状態のことを指すのか、具体例を見ていきましょう。

「二律背反の関係」の具体例

「無駄話の禁止」と「コミュニケーションを通じた人間関係の構築」は、相反する「二律背反の関係」です。

この状況は、両立が難しい要求を同時に受ける場合に多発します。言われた人は、どちらが正しいかわからず萎縮してしまいます。

「判断に困ったら相談して」と言われたのに、いざ相談すると「それは自分で考えて決めて」と言われたり、「なぜミスをしてしまったか説明して」と言われて説明しようとすると、「言い訳しないで」などと言われたりするのも、二律背反と言えるでしょう。

「二律背反の感情」の具体例

頭ではわかっているつもりでも、気持ちが納得できない場面が「二律背反の感情」にあたります。

例えば、上司からのアドバイスを受けた際に「なるほど」と思いつつ、「自分ならこうやる」と逆に対抗心を燃やす状態もこれに当たります。

他にも、後輩の育成をしたいと思って仕事を任せたら、その仕事がはかどらなかった結果、指導のために逆に自分の作業量が増えてしまうような場面で感じる感情です。

「二律背反を両立させる」の具体例

「二律背反が両立させる」の具体例としては、従来と反対の営業戦略に転換することです。

例えば、A社は同一製品の大量生産から方針転換し、少量多品種や受注生産で人件費や在庫処分費用を抑えました。

販売価格の上乗せも成功し、トータルで売り上げアップできます。

これは、二律背反を両立させたビジネスモデルと言えます。

二律背反の語源・由来は哲学用語「アンチノミー」

二律背反の語源は、哲学用語、論理学用語のアンチノミー(Antinomie)というドイツ語の日本語訳です。

ドイツの哲学者が、対立する命題のどちらの証明も成り立つ状態「アンチノミー」を挙げて論証し、答えを出さずに「どちらとも言えない」と結論付けています。

論理学では、二律背反はどちらかを選択するものではなく、命題の間違いを指摘する証明に使います。

二律背反の類語

二律背反には類語も多いので、それぞれの意味の違いを理解してビジネスに活用しましょう。

語彙を増やす簡単な方法は類語を覚えることですが、類語は似ているようで微妙な意味の違いがあります。そのため、正しい意味を理解すると同時に、適切な場面での使用が求められます。

ここでは、普段何気なく使っている言葉や、少し年配の人が使う言葉などをいくつか紹介します。

「パラドックス」の意味と使い方

英語のparadoxは、矛盾した人や言葉、道理に合わないことやへりくつを意味する名詞です。

例えば、部長が「今週は抜き打ち監査があるが、当日にならないとわからない」と言ったとしましょう。この場合、「木曜日までに監査がなければ、金曜日であることが前日にわかる」ため、前提と結論が相反するパラドックスの例文と言えます。

「ジレンマ」の意味と使い方

相反する二つの事柄により、板挟みになる状況です。どちらを選んでも気持ちが苦しくなる状況がわかっているケースに使います。例えば「仕事と趣味のどちらを選ぶか」は多くの人が感じるジレンマです。

「C社との継続で経営は安定するが、C社と敵対するT社とは新規契約で営業拡大できないジレンマを抱える」のような使い方です。なお、ジレンマは「抱える」と一緒に使われます。

「矛盾」の意味と使い方

中国の故事成語で、物事が食い違う意味で使われます。論理学用語やヘーゲル弁証法でも使用される言葉で、四字熟語の「自家撞着(じかどうちゃく)」は自己矛盾の類語です。

英語では「一貫性がない」「相反する」「両立しない」など、それぞれの単語で矛盾を表現します。

「先輩から丁寧に早く作業するように指示され、矛盾を感じた」「今日の仕事は気が乗らないと言っていたSさんは、ウキウキとして矛盾した態度だ」などのように使います。

「痛し痒し」の意味と使い方

「痛し痒し(いたしかゆし)」は、「2つの選択肢のどちらを選んでも解決できない」という意味と「それぞれに良い面と悪い面があって決められない」という意味を持つ言葉です。

体の痒い所をかけば痛く、かかなければ痒い状態を表しています。

類語の「あちらを立てればこちらが立たず」なども、両立が難しい状態を指します。

「このプロジェクトは効果が絶大だが、経費が増えて痛し痒しだ」「仕事を優先すると家庭がおろそかになって、痛し痒しで困る」のような使い方ができます。

二律背反とは、矛盾する二つのものが同時に存在することを表す四字熟語

二律背反は、両立させるのが難しく成り立たない状態や条件を表す言葉です。ビジネスでは二律背反を求められる機会が多いので、言葉や態度、目標設定に対して使えます。

四字熟語のうえ、論理学用語なので使いにくいこともありますが、矛盾している説明に対して「二律背反ですね」と一言使えれば、効果的でもあります。ただし、相手の機嫌を損ねないよう使う場面には注意が必要です。