冬は乾燥のせいで、ウイルスがたくさん空気中に浮遊します。毎年流行する「インフルエンザ」だけではなく、今年は「新型コロナウイルス」にも注意したいです。
「インフルエンザ」は、ノドや呼吸器から、「新型コロナウイルス」は、口、特に舌から感染します。これらの感染症は口呼吸をすると、感染リスクが激増することをご存知でしょうか。 今回は、感染制御学で研究歴を持つ歯科医が「冬場の口呼吸」のデメリットについて説明します。
鼻にはフィルターとしての機能がある
皆さんご存知の通り、日本人の鼻は欧米人より低いです。医学的にも有意差があり、日本人は欧米人より5mmほど幅が広く、鼻の穴(鼻腔)も欧米人は4mmほど縦長、日本人は円形に近い横広となっています。こうした鼻の形の違いは、住んでいる経度によって変化します。つまり、鼻は自然環境の影響を受けるのです。
鼻の穴(鼻腔)には、温度や湿度に適応する、重要な役割があります。
経度が高い寒冷地に住んでいた欧米人は、低温で乾燥した空気の中で生活していました。冷たい空気が直接、肺に入ると、肺を痛めるため、加熱・加湿する必要があります。欧米人は鼻腔を狭く高くすることで、鼻粘膜によって湿気が加えられ、粘膜に流れる血液で空気を温めます。
一方、赤道に近い地域は高温・多湿です。すでに空気は加温され、十分に湿気を含んでいます。暖かく湿った空気は、直接、ノド・肺に届いても悪い影響を与えません。よって、空気が通りやすい幅広の形をしているのです。
また鼻腔の入り口には、鼻毛が密集しています。鼻毛は、外から入ってくる空気に含まれた異物を取り除く働きをします。つまり「フィルター」というわけです。
空気中には、細菌・ウイルスなどの病原菌や、ホコリやPM2.5などの大気汚染物質が含まれています。フィルターを通って清浄された空気だけが、ノド・肺へ届けられます。ここで取り除かれた悪い物質は、鼻水・鼻くそ・痰として、体の外へ出されるのです。
言い換えれば、鼻腔を通過しなければ病原菌も大気汚染物質も、すべて体の中に侵入させることになります。つまり口呼吸は、細菌感染やウイルス感染など気管・肺への悪影響のリスクが高くなるというわけです。
乾いた口は細菌の温床に⁉
食事をすると、口から胃、十二指腸、直腸を通って、外へ排泄されます。こうした食べものが通る器官を消化器と言います。入口である「口」と出口である「直腸」が外界と通じているわけですが、そのため無数の細菌のすみかになっています。実は「口」と「直腸」には同じ量の細菌がいます。つまり感染制御学の立場からすると『口はお尻と同じくらい汚い』のです。
口の中には、約700種類の細菌がいます。細菌量は、歯を磨くと1,000億個、歯磨きをサボると6,000億個に増えます。この細菌量は、大便1〜6gに相当するのです!
こうした細菌を退治し、口内環境を保つのに欠かせないのが「唾液」です。唾液は口の中の細菌を殺菌・消毒し、洗い流してくれます。この作用により、口の中の細菌が増えるのを防いでいるのです。しかし、唾液の量が減るとこれらの効果がなくなるので、細菌は増えます。
口呼吸になると口内が乾燥するので、ツバの量が減ります。そうなると当然、細菌は増加するわけですが、どのくらい増加するのでしょう?
実は、口呼吸している人の口内環境は、寝起きの時に近いのです。寝ている間は唾液の出る量が20〜50%ほど減り、乾燥しやすいためです。ここまで減ると、朝起きた時の細菌の数は、寝る前の30倍まで増加するといわれています。つまり、口呼吸の人の口は細菌にとって天国になっている可能性が高いというわけです。こうなると歯周病やムシ歯はおろか、それらに付随する多くの病気にかかるリスクが激増します。
口呼吸を卒業するための習慣
多くの場合、口呼吸は鼻腔に障害があって、鼻で息をすることが難しい人がなりやすいです。慢性の副鼻腔炎や鼻炎になっている場合は、耳鼻咽喉科で治療を受けましょう。また、ムシ歯が原因で副鼻腔炎になることも少なくなりません。もし上の奥歯にムシ歯があったり、耳鼻咽喉科で「片側」だけが副鼻腔炎と言われたら、歯科医院で悪い歯の治療をして副鼻腔炎を治しましょう。
口呼吸の人の特徴として、舌の位置が低いことが挙げられます。口を閉じると、舌は通常、上顎にくっつきます。しかし、口呼吸の人の舌は上顎にくっ付かず、口の底に沈むのです。口呼吸を止めたいなら、意識的に舌を上顎にくっつけるとよいでしょう。
他にも、舌を動かす筋肉が衰えて、舌を上顎につけられないケースがあります。その際は、弱くなった筋肉のエクササイズが効果的です。口を縦に大きく開いて「あ」、口を横に広く開いて「い」、唇を狭めて前に突き出し「う」と発音しましょう。舌を口の外に思いっきり突き出して「ベー」とするのもよいです。このエクササイズを、1日30回を目安に繰り返してください。
猫背のような前かがみの姿勢を続けるのも口呼吸の原因になります。PCやスマホを使っていると覗き込む姿勢になるので、口呼吸になるリスクが上がります。テレワークの生活になると、PCやスマフォを使用する時間が多くなるので、注意したいですね。
重度の口呼吸の人が気をつけるべき病気とは
新型コロナウィルスの危機が未だ続いている昨今、マスクは感染防止拡大の観点で、必要不可欠なアイテムとなりました。
しかし、マスクをしていれば新型コロナウイルスを吸い込まないわけではありません。東京大学医学研究所が2020年10月に、世界で初めて本物の新型コロナウイルスを実際に使ってマスクの効果を調査しました。厳格な企画で知られるN 95マスクでも21%のウイルスを吸い込みます。一般的なサージカルマスクでは53%、洗って何度も使える布マスクではなんと83%もウイルスを吸い込んでしまいます。
でも実際は、マスクをすることで予防対策になっていることは事実です。その理由の1つは、手指についたウイルスが、口から侵入することを妨げているからです。マスクをすることで、口を直接触らなくなり、感染対策になっているのです。
約30万人もの犠牲者を出しているアメリカでは、マスク論争が起きています。居住地の公共の場で「常に」マスクをしている人は全体の49%といわれています。この数字がもし95%になれば、犠牲者は3分の1になると試算されています。
さて、ここまで読んでいただければお判りの通り、口呼吸は新型コロナウィルス感染防止の観点から見て不安があります。マスクをすり抜けたウイルスが、口というむき出しの入口から入ってくるためです。口呼吸と新型コロナウイルスの感染は、まだ医学的に因果関係が明らかにされていません。しかし、ウィルスに感染しやすいというリスクがあることは事実なので、十分に用心するに越したことはありません。意識的に口を閉じ、手洗いとマスク、3密回避など、基本的感染対策を心がけてください。
例年、冬のウイルスとして騒がれているインフルエンザですが、昨シーズンは新型コロナウイルス発生の影響で例年以上に感染予防対策をとっても728万人の感染者が出ました。犠牲者も約3,800人に達しました。
インフルエンザウイルスはノドや呼吸器から体内に侵入します。口呼吸の人はノドや粘膜が乾燥しやすいため、抵抗力が落ちます。つまり、感染リスクが高くなるのです。しかし、対策は簡単です。ガラガラうがい(上を向き、口を開いてのどを鳴らすうがい)の回数を増やしましょう。また、定期的に歯科医院での口腔ケアを行うことで、インフルエンザにかかるリスクを90%抑えることがわかっています。
他にも、口呼吸の人が注意すべき感染症があります。それは「ムシ歯」です。
コロナ禍では、「コロナムシ歯」という言葉ができるほど、進行が早く、痛みに悩まされた人が出ました。外出自粛生活の中で、リズムがつかめずダラダラ喰いと歯みがき不足で、ムシ歯が大量発生したといわれています。口呼吸の人は、前述のようにムシ歯菌が増えやすいので特に注意が必要です。外出できる今だからこそ、歯科医院で診てもらうとよいでしょう。
最後に、注意喚起したいのが「口臭」です。口呼吸では、舌の上の垢(舌苔)の中にいる口臭菌が急増します。テレワークで人と会う機会が減ったり、マスクをしたりで、口臭に気を使わなくなる人が増えています。
口臭は自覚がない人も大勢います。もし自分の口臭が気にならなくても、口呼吸の人は口臭対策を怠らないでください。やり方は簡単です。歯磨きの時、舌ブラシで舌の表面を拭うだけでOKです。これで舌の垢とともに、口臭菌も取り除くことができます。