「オンラインファシリテーター」という単語をご存知だろうか?

その意味は読んで字の如く、オンラインイベントやオンライン会議の"進行役"を指す。比較的新しい言葉ではあるが、注目度は日々高まっており、今後さらなる急上昇も見込まれる。

というのも、このオンラインファシリテーターという職種(またはスキル)は、新たな副業トレンドやビジネスチャンスとして期待できるうえに、私たちひとりひとりの必須スキルにもなる可能性もあるのだ。

そこで今回は、株式会社ニットの広報担当で、オンラインファシリテーターのパイオニアとして活躍する小澤美佳さんにその実情をうかがった。

そもそも「オンラインファシリテーター」って何?

  • オンラインファシリテーターの小澤美佳さん

    オンラインファシリテーターの小澤美佳さん

――あまり「オンラインファシリテーター」という言葉は聞き慣れないのですが……。

そもそもそんなワードはこれまで存在しませんでした、というのが正解です。私の造語で、今年3月から「オンラインファシリテーター小澤」を名乗って活動を始めました(笑)。今年、コロナ禍で会議もセミナーもイベントも、すべてがオンライン化しましたよね。でも、ニットはコロナ以前から忘年会や花見もすべてオンラインでやっていたんです。

――えっ、コロナ以前からですか?

  • 株式会社ニットの忘年会の様子

    株式会社ニットの忘年会の様子

ニットは、サービス開始当初からフルリモート体制を採用しています。現在は約400人のメンバーが、主に資料作成やリサーチ業務、データ入力など、いわゆる"ノンコア業務"をアウトソーシングで請け負っています。

完全オンライン体制ですが、「それでもメンバー同士で温かい関係を築きたいよね」という思いから、"ペットわんにゃんの会"、"キャンプの会"など、オンラインのサークル活動みたいなコミュニティーを立ち上げて、現在は26個のコミュニティーがあります。趣味で繋がることで、オンラインでも横の繋がりを作れるんです。そんな私たちの経験をコロナ禍の世の中に発信することが大事だと思って、活動の幅を広げています。

――オンラインファシリテーターの活動というのは、どういったものなのでしょう?

私は3月以降、オンラインファシリテーターとして50回超えるオンラインイベントを実施してきました。その仕事を分類すると、主に3つに分けられると思います。

1つは、イベント当日のファシリテーション。オフラインのイベントとは勝手がまるで違います。2つ目がコンテンツの設計。例えばオンライン忘年会の場合、「乾杯! それでは、あとは歓談してください。以上!」だと、全然楽しくありませんから(笑)。最後に、ITリテラシーに関する対応。オンラインに慣れていない人だと「ZOOMに入れない」「発言者の声が聞こえない」といったことが多々ありますので。

オンラインとオフラインでファシリテーターの役割は全然違う!

――「オフラインのイベントとは勝手が違う」というのはどういうことでしょう?

そうですね……まず、これまで参加したイベントや結婚式の司会の顔や話を覚えていますか?

――えっ……覚えていません……。

ですよね? オンラインとオフラインでは、ファシリテーターに求められる要素がまったく違ってくるんです。

オンラインイベントの場合、ファシリテーター(司会者や講師を含む)に求められる仕事はテレビのMCの役割に近い。『アメト――ク!』の面白さはMCがあってこそだと思いますし、それと同じように、オンラインイベントはファシリテーターによって盛り上がるか、盛り下がるかが決まります。

――なるほど。逆に、オフラインのファシリテーターは黒子役に近いかもしれませんね。

オフラインのイベントなら、高級感あるホテル会場の雰囲気を楽しんだり、久しぶりの再会を楽しんだりと、その場を楽しめる要素がたくさんあります。だからファシリテーターも目立つ必要がありません。

でも、オンラインイベントにはそれがない。だからこそファシリテーターが肝になります。例えば「皆さん、どうですか?」と話を振って、必ず一人一回は話すような仕掛けを作ったりして、参加者の満足度を高めなければいけません。私もいろんなオンラインイベントに参加しましたが、満足度が高いのは、やっぱりファシリテーターが楽しいイベントです。逆に、ファシリテーターがつまらないイベントは、やはり面白くありません。

――具体的には、どのようなスキルが求められるのでしょう?

オンラインイベントは一方通行のコミュニケーションになりがちなので、ファシリテーターは人と人の間に入る潤滑油になることが大切です。また、ファシリテーターが誰かの意見を否定すると場が暗くなるので、「なるほど!」と明るく受け入れ、決して否定しないこと。そして、テンションは1.8倍でお願いします(笑)。司会者のテンションが低いイベントは盛り上がりません。また、ZOOMで画面共有をした場合などは、伝わりやすいよう重要部分にマーカーを引いて注目を集めるといった工夫も大切ですね。

「コンテンツ力」がオフライン以上の楽しさを生み出す

――「コンテンツの設計」もオンラインファシリテーターに必要なスキルだとおっしゃっていましたが、どういったことでしょう。

まず、先ほども簡単に触れたように、私たちは花見もオンラインで行っています。

――さっきはさらっと聞き流しましたが、オンライン花見って何なんですか?

全員が背景を桜にしてオンライン飲み会をするんです。こんな感じですね(笑)

  • 花見までオンラインで楽しむニットのメンバーたち

    花見までオンラインで楽しむニットのメンバーたち

――すごい……これは雰囲気抜群ですね。

今年のハロウィンウィークは、ニットのメンバーみんなで仮装しながら仕事しました。

  • 背景効果でハロウィン雰囲気も満点

    背景効果でハロウィン雰囲気も満点

コロナ禍で旅行もままなりませんが、今年の忘年会では、世界12カ国、計15拠点のメンバーがスマホで動画撮影しながら各都市を歩き、その様子をオンラインで次々に繋いで配信する「バーチャル世界一周旅行」も行いました。

  • コロナ禍でも旅行気分が味わえる「バーチャル世界一周旅行」

    コロナ禍でも旅行気分が味わえる「バーチャル世界一周旅行」

みんなで同じ種類のお酒を事前に買って、一緒に飲む「オンライン利き酒」も楽しかったです。ちなみに、ここに映っているはニットの代表取締役、秋沢崇夫です。

  • 同じお酒を飲むことで感想をリアルタイムで共有できる

    同じお酒を飲むことで感想をリアルタイムで共有できる

ほかにもZOOMでは、ホワイトボード機能を使って「絵しりとり」なんかもできます。言葉でしりとりするのではなく、絵を描き、頭文字と語尾を繋げながら順番に回していくゲームです。

  • こちらは「絵しりとり」。パソコンだと絵を描くのも難しそうだ

    こちらは「絵しりとり」。パソコンだと絵を描くのも難しそうだ

――はな、なす、すいか……からす? …………するめ、めだま…ですか? なかなか難しくて面白そうですね!

イベントの模様はYouTubeでも配信しているので見逃しても大丈夫ですし、最後にはイベントの様子を写したスクリーンショットがハイライト動画で流せるので、しっかり思い出にも残ります。オフラインではできないことが、オンラインでは工夫次第でいくらでもできるので、そのためにコンテンツを充実させることもオンラインファシリテーターの仕事ですね。

オンラインファシリテーターにビジネスチャンスはあるか

――まったくの素人でも、オンラインファシリテーターを副業にすることも可能ですか?

もしかしたら、今は簡単ではないかもしれません。というのも、プロの司会者や講師であれば、オフラインで磨いたスキルをオンライン化すればいいわけですが、まったく未経験だとすぐに真似はできません。ただし、オンラインファシリテーターの需要は、今後、オンライン化が進むにつれて増えてきます。これから先はオンラインファシリテーターを副業にできる社会にしたいし、必要だとも考えています。

――これだけオンラインとオフラインで役割が違うなら、オンラインファシリテーターに特化したスキルさえ磨けば、未経験者でも活躍できる舞台は増えてくるかもしれませんね。

まさに、おっしゃるとおりです。私も、もともと司会のプロではありません。でも、「小澤が司会をやると元気になるわ」「小澤が司会で楽しかったわ」と言ってもらえることが多かったので、頑張って仕事にしただけですから。

――もしかすると、今後のリモートワーク時代のビジネスパーソンにとっても、大事なスキルになるかもしれません。

司会業やセミナー講師だけじゃなく、企業のマネージャー層にも必要なスキルだと思います。社内ミーティングの場合、オフラインだと参加者みんながいかにも「私は参加しています」みたいな顔で臨んでいるかもしれませんが、オンラインだと「かったるいな〜」という感じが滲み出ます(笑)。ミーティングを充実させるためにも、参加者に発言の機会を与え、意見を集約する。そんなファシリテーションスキルが今後は問われてくると思います。

――いろんな意味で、このスキルは新時代のビジネスに結び付けられそうですね。

年が明ければ新年会、春になれば入社式、または期末のキックオフイベントなんかも行われますよね。いずれも今年はコロナ禍で開催が危ぶまれていますが、コンテンツとファシリテーションができれば、そういったイベントもオンラインで実施できます。決して諦めないでほしいと思いますし、何なら私がファシリテーションしますよ!(笑)