日常的に使う機会も多い「相殺」ですが、一般的なビジネスシーン以外の会計・法律的なシーンでの使い方や、相殺を使った専門用語を完全に理解していないという人もいるのではないでしょうか。どのような場合でも基本的な相殺の意味は同じですが、シチュエーションによっては専門的な使い方をすることもあります。
相殺の意味やシーン別の使い方、覚えておきたい関連用語などについて、みていきましょう。
「相殺」の意味とは
相殺とは「差し引きをして帳消しにする」ことで、主に当事者同士の貸し借りや損得などの精算時に使われます。またメリット・デメリットや化学物質など「相反するものがお互いに作用し、効果が差し引かれること」を意味する場合もあります。相殺の「相」は「互いに」、殺には「そぐ・減らす」という意味があります。
相殺は「そうさい」と読み、「殺」を「さい」と読むのは中国語に由来しています。同じ漢字で「そうさつ」とも読めますが、その場合は「お互いに殺しあうこと」という全く違う意味になるので注意しましょう。
「相殺」の使い方と例文
相殺は金銭的な貸し借りや損得精算に行われる処理のひとつであり、ビジネスでは金銭処理や権利関係などが問われる場合によく使われます。ここでは、ビジネスや日常生活で「相殺」を使う場合の使い方と例文をみていきましょう。
ビジネスや日常生活で使う「相殺する」
ビジネスや日常生活で「相殺」を使うときは、「相殺する」「相殺される」という表現が一般的です。 いくつか例文をみていきましょう。
【今期は赤字を相殺するほどの利益を上げることは困難だ】
= 利益が赤字を帳消しにすることは困難である
【交通費の精算は、仮払金から相殺できる】
= 交通費の精算は、すでに支払われている仮払金から差し引いて帳消しにできる
【会議の準備を手伝ってくれたから、このランチで相殺させてほしい】
= 会議の準備を手伝ってくれた分は、ランチで帳消しにする
【料理の味付けが濃いため、ワインの風味を相殺してしまっている】
= 料理の味付けが濃く、ワインの風味が消されてしまい楽しめない
【クライアントへの臨機応変な対応で、前回のクレームが相殺された】
= クライアントへ臨機応変な対応をしたことで、前回受けたクレームを帳消しにして、名誉挽回できた
上記の例にある「会議の準備とランチ」などのように、相殺する・されるものは必ずしも同じ性質のものでなくても大丈夫です。当事者同士が相殺する・される対象を「対等の価値がある」と認めていれば、相殺することが可能です。
各分野における「相殺」をわかりやすく解説
相殺という言葉は、上記のような一般的な使い方のほかに、会計的用語・法律用語としても使われることがあります。ここでは、それぞれの分野における意味をわかりやすく解説します。
会計的用語としての「相殺」
ビジネス上、取引先企業のなかにはひとつの企業に「売上」「請求」の両方が存在することがあります。その場合同じ取引先に対し「売掛金」「買掛金」が発生し、売掛金と仕入れ費用である買掛金の「相殺」処理が必要です。
例えば、100万円の売上(売掛金)と100万円の仕入れ分の請求(買掛金)が同一の取引先にある場合、売掛金の100万円と買掛金の100万円の両方を減らします。
また、もし売掛金が100万円、買掛金の150万円の場合、売掛金の100万円は消滅し、買掛金の50万円が残ります。このように相殺処理をすることで資金移動の量を減らし、資金を確保することができます。
売掛金は回収が遅延したり回収そのものが困難になったりする場合もありますが、売掛金と買掛金が同一企業にある場合、相殺処理をすることによって回収の手間を省くことが可能です。
相殺処理をする場合、取引先企業に承認を得る必要はありませんが、取引先企業に相殺処理をする旨を伝える必要があります。伝達する場合は、内容証明郵便やメールなど文書で記録に残しましょう。
法律用語としての「相殺」
法律では民法第505条で相殺について規定されており、法律上の相殺は「主に相手方に対して同種の債権を持っている場合、当事者双方の債権を対等額分消滅させる」ことを指します。
民法 第505条
第1項
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
第2項
前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
また法律上相殺を実行するためには、以下の要件を満たしている必要があります。
- 相殺適状にあること(民法505条1項)
- 相殺禁止に当たらないこと(民法505条2項、509条、510条、511条)
- 相殺の意思表示をすること(民法506条1項)
相殺適状とは「当事者の間で互いに有効かつ同種で、相殺を許す性質の債権が対立し、お互いの債権が弁済期にある状態」のことです。また、相殺禁止は「不法行為による損害賠償債権」「 差押禁止債権又は、 差し押さえられた債権」が該当し、これらに該当しないことが相殺実行の条件となります。
次の例でみてみましょう。
- Aさん: Bさんから300万円を借りている
- Bさん: Aさんから100万円借りていた
この場合、AさんにはBさんに対する100万円の債権と300万円の債務があり、BさんはAさんに対して300万円の債権と100万円の債務があることになります。お互いの債務100万円分を相殺することで、残るのはAさんがBさんに借りた200万円となり、Bさんの債務は相殺されて消滅します。
このように相殺を実行することで実際の金銭支払などの手間を省くことができるほか、債権回収を確実に実行できるメリットがあります。
ビジネス用語で使われる「相殺」
「差し引きをして帳消しにすること」を意味する相殺ですが、ビジネスでは相殺を使ったさまざまな用語が使われます。相殺を使った用語をいくつかご紹介しましょう。
相殺領収証
相殺領収証は「売掛金と買掛金を相殺した場合に発行する領収証」のことです。本来領収証は金銭の受領を証明するための書類ですが、相殺領収証は「売掛金と買掛金を相殺することを当事者同士が了承済みである」ことを証明するためのものです。相殺領収証では金銭の受領がないため、基本的に印紙の添付は必要ありません。
相殺関税
相殺関税は「輸出国の補助金を受けた輸入貨物に対し、国内産業保護のために補助金額の範囲内で割増関税を課す制度」であり、WTO協定の規定に基づき関税定率法(第7条)に定められています。国内においては「国内産業を保護する必要性がある」「補助金を受けた貨物の輸入の事実がある」などが相殺関税の課税条件として定められています。
相殺契約
相殺契約は「当事者がお互い債権を保有する場合、相互債権を対等額で消滅させるという契約」のことです。相殺契約を実行する場合、相殺する債務・債権内容を明確にした契約書を締結する必要があります。
相殺禁止事由
相殺禁止事由は相殺の消極的要件とも呼ばれ、「相殺が許されない事由」のことです。相殺禁止事由には次の内容が該当します。
- 当事者間に相殺を禁ずる合意(相殺禁止特約) があること(民法第505条2項)
※特約を知らずに債権を譲り受けたものについては、相殺が可能 - 法律上、受働債権とすることができない債権であること
- 不法行為による損害賠償債権(民法第509条)
- 差押えが禁止された債権(同第510条)
- 差し押えを受けた債権(同第511条)
- 解釈上、自働債権とすることができない債権
- 相手方が抗弁権をもっている債権
- 破産法・民事再生法・会社更生法などで相殺を禁止される場合
※各法律により異なるので注意が必要です
「相殺」の類語と英語表現
「相殺」の類語や英語表記は、どのようなものがあるのでしょうか。
「相殺」の類語は「帳消し・償う・補填」
「相殺」の類語には、「帳消し・償う・補填(ほてん)」があります。 「帳消し」は互いに差し引きして損得がなくなることで、相殺と同じ意味で使うことができます。「償う」は弁償するというニュアンスが強く、「負債や損失を補う、埋め合わせをする」という意味です。
「補填」は「不足部分を補って埋めること」を意味し、発生した損失を他の手段で穴埋めをすることで、相殺のように 「損得を打ち消し合う」というニュアンスはありません。
「相殺」の英語は「offset」
相殺の英語表現は「offset」が一般的です。相殺したい内容によっては「cancel out」や「合わせる」を意味する「set off」などを使うこともあります。
This income will offset the loss.
この収入で損失を相殺しよう。
He tries to set off money against his mistake.
彼は自分の失敗をお金で相殺しようとしている。
Her faults cancel out her strong point.
欠点が彼女の長所を相殺している。
ビジネスに頻出する「相殺」は関連用語と一緒に使いこなそう
「差し引きをして帳消しにする」ことを意味する「相殺」は、ビジネス全般のほかに会計や法律用語としてもよく使われる語句です。 相殺は一般的な意味のほかに、シーンごとの特徴的な意味や用語などに幅広く使われています。幅広い相殺の使い方をマスターすれば、ビジネスでもさまざまな場面で活用できるでしょう。