「お手を煩わせて」というフレーズは、ビジネスメールでもよく見かけるのではないでしょうか。何となく意味は分かっているつもりでも、具体的に問われると答えにくい、と感じる言葉かもしれません。

本稿では、「お手を煩わせて」とはどういう読み方・意味なのかについて解説します。基本的な使い方やフレーズ、類語や英語表現についてもまとめました。さまざまな場面における例文も用意しましたので、ぜひ参考にしてください。

  • 「お手を煩わせて」とは

    「お手を煩わせて」はビジネスでもよく用いられるので使い方をマスターしよう

「お手を煩わせて」とは

「お手を煩わせて」とは、「おてをわずらわせて」と読み、第三者に苦労や手間をかけさせるという意味を持つ敬語表現です。実際に相手のお世話になった場合や、何か苦労をかけてしまった場合に、謝罪や感謝の言葉とセットで使われ、ビジネスシーンでもよく見かけます。

以降で、「お手を煩わせて」の「煩わせて」や、どのような敬語表現になるかなど、もう少し意味について深掘りして見ていきましょう。

「煩わせる」「煩う」「煩わしい」の違い

「煩わせる」は、「煩わす」の未然形+使役の助動詞「せる」から構成される言葉です。この場合の「せる」は、迷惑な状態を引き起こす意味で使われるので、「不本意ながら相手に手間を取らせてしまった」という意味になります。

「煩う」の場合は、「あれこれと思い悩む」という意味の動詞となり、意味が変わります。「煩わしい」は形容詞となり「面倒に感じる、億劫」という意味です。どちらも「煩わせる」とは意味も用法も異なるので注意しましょう。

目上の人にも使える敬語表現

「お手を煩わせて」を自分に使う場合は、相手に対してへりくだった気持ちを表す謙譲表現も含まれます。そのため、お世話になった相手が目上の人であっても「お手を煩わせてしまい申し訳ありません」という使い方も可能です。

また、第三者に対して、「部長の手を煩わせる」という使い方もできます。この場合は、「部長に手間をかけさせる」という意味になります。

「心を煩わせて」は心配をかけるという表現になる

「お手」を「心」に変えた表現で「心を煩わせて」という表現もあります。こちらの場合は、心配をかけるという意味になり、敬語表現は含まれません。似た表現ですが、意味は変わってくるため注意して使い分けましょう。

  • 「お手を煩わせて」とは

    「お手を煩わせて」には似た表現も多いので間違って使わないよう注意

「お手を煩わせて」の基本的な使い方とフレーズ

「お手を煩わせて」の基本的な使い方は以下の通りです。

  • 謝罪や感謝を表す
  • 依頼する場合の前置き
  • 支援を断る

それぞれの場合に使われる典型的なフレーズも含めて解説します。

謝罪や感謝の場合は「お手を煩わせて申し訳ありません」

「お手を煩わせて申し訳ありません」というフレーズは、謝罪と感謝どちらの場合でも使える表現です。この場合、前後の文脈で、謝罪か感謝かが決まります。

  • 謝罪のケース : 私の失敗でお手を煩わせて申し訳ありません。
  • 感謝のケース : 私の無理なお願いでお手を煩わせてしまい申し訳ございません。ご尽力によって契約が成立し、誠に感謝しております。

相手によっては、最後の「申し訳ありません」を「申し訳ございません」「大変申し訳ございません」と変えることで、さらに丁寧な言い回しとなります。

依頼の場合は「お手を煩わせることとなり恐縮ですが」

「お手を煩わせる」と助詞の「が」を併用すると、相手に何か依頼をする場合の前置きとして使う表現となります。「お手を煩わせることとなり恐縮ですが」「お手を煩わせることになるかもしれませんが」といった表現の後には、相手への依頼内容が続くのが一般的です。

支援を断る場合は「お手を煩わせるには及びません」

支援を断る場合の婉曲表現として「お手を煩わせる」を使う場合もあります。「お手を煩わせるには及びません」や「お手を煩わせるわけにはいきません」などといったフレーズは、支援を断るという意味です。

  • 「お手を煩わせて」の基本的な使い方とフレーズ

    「お手を煩わせて申し訳ありません」は謝罪と感謝両方で使える表現

「お手を煩わせて」の例文集

ここからは、「お手を煩わせて」を使った例文を、意味の違いごとに5パターン紹介します。文章全体のニュアンスで意味が決まることに注目しつつ目を通してみてください。

パターン1. お客様に謝罪の気持ちを伝える場合

謝罪の気持ちを伝える場合は「お手を煩わせて申し訳ありません」を利用します。

・なかなか完了しないトラブル調査に協力してもらった人への謝罪と継続支援を依頼する例文

この度は、トラブル調査にお手を煩わせてしまい申し訳ありません。
現在のところ、原因の一部は判明しましたが、まだ全容解明には至らず、調査が続いている状況です。
なかなか原因が特定できずご心配をおかけします。
恐縮ですがもう少しご支援賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

パターン2. 取引先に感謝の念を伝える場合

感謝の気持ちを伝える場合の表現として、「お手を煩わせてしまい恐縮です」を利用した例文を紹介します。

・進捗会議の議事進行役の挨拶で、資料作成に感謝の意を表明する例文

皆様この度はご参集頂き誠にありがとうございます。
進捗資料につきましてはすべて拝受いたしました。
皆様のお手を煩わせてしまい恐縮です。

それでは、これより進捗会議を始めます。
まずは、お手元の資料より「共通基盤」の進捗資料をご確認ください。

パターン3. 上司に依頼したい仕事がある場合

上司に依頼したい仕事がある場合の表現として、「お手を煩わせることとなり恐縮ですが」を利用した例文を紹介します。

・急ぎの作業を課長に依頼する場合の例文

お疲れ様です。南です。
本日、マーケティング部の森部長より、企画資料を提出するようにフォローを受けました。
お手を煩わせることとなり恐縮ですが、先日林課長に提出した企画資料のチェック結果を至急共有頂けますでしょうか。
すでに期限を過ぎておりますので、可能な限り早く共有頂きたく、後ほど電話でも連絡いたしますのでご確認ください。

パターン4. 先輩の支援を断る場合

支援を断る場合の表現として、「お手を煩わせるには及びません」を利用した例文を紹介します。

・先輩からの支援依頼を断る例文

お疲れ様です。南です。
私の進捗が悪いせいでご心配をおかけして申し訳ありません。
一番難しい部分は、以前先輩に教えていただき問題なく済ませることができました。
後は単純作業をこなすだけの状態ですので、これ以上先輩のお手を煩わせるには及びません。
ただ、何か問題が発生した場合は別途相談させて頂くかもしれませんので、その節は何卒よろしくお願いいたします。

パターン5. 実際に心配をかけてしまった上司に感謝を伝える場合

実際に心配をかけてしまった上司に感謝を伝える場合の表現として、「心を煩わせて」を利用した例文を紹介します。

・体調を崩して入院していたときに助けてもらった上司に感謝を伝える例文

お疲れ様です。
大前です。
先日私が体調を崩したとき、何かとお心を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。
病院まで付き添って頂き、あのときはとても心強く安心していました。
ご迷惑をおかけした分今後はこれまで以上に努力して、仕事面でお役に立てるように頑張ります。

  • 「お手を煩わせて」の例文集

    例文を活用してスムーズに気持ちを伝えよう

「お手を煩わせて」の類語と英語表現

最後に「お手を煩わせて」の類語・言い換え表現と、英語表現を確認しましょう。

類語は「お手数をおかけする」「お手間を取らせる」

「お手を煩わせて」と置き換え可能な表現としては、「お手数をおかけする」と「お手間を取らせる」があります。どちらも、相手に労力をかけてもらったことへの敬語表現で、「お手を煩わせて」と同じ場面で利用できる表現です。意味も、謝罪と感謝どちらでも利用できます。

  • この度はお手数をおかけして申し訳ありません。
  • お手間を取らせることになり恐縮です。

同じ意味を持つ表現を3パターン知っておけば、文章表現がより豊かになりますので、ぜひご活用ください。

英語表現

「お手を煩わせて」の英語表現としては、bother(迷惑をかける、悩ませる)、 trouble(悩ませる、心配をかける、やっかいごと)、help(助ける)といった単語が利用できます。

  • botherの例文
    I'm sorry to bother you.(和訳 : お手を煩わせてしまい申し訳ありません。)

  • troubleの例文
    I'm sorry to trouble you, but thank you.(和訳 : お手を煩わせてしまいましたが、ありがとうございました。)

  • helpの例文
    I can't help you.(和訳 : お手を煩わせるには及びません。)

  • 「お手を煩わせて」の類語と英語表現

    「お手を煩わせて」の類語や英語表現も覚えておこう

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「お手を煩わせて」という表現は、ビジネスメールでも頻出する言い回しです。仕事は、1人だけで進めていくわけにはいきません。多くの人とかかわりを持ちながら仕事をしていけば、「お手を煩わせて」を使う場面は多くあります。「お手を煩わせて」をうまく使いこなして、仕事をスムーズに進めましょう。