大成は9月、NTT東日本とともにバーチャル受付システム「T-Concierge」を発表。ニューノーマルな接客サービスの提供を開始した。一般的な遠隔受付システムとどのような点が異なるのか。そしてどのような可能性があるのか。大成とNTT東日本に話を聞いた。

  • 右から、大成 代表取締役専務 加藤憲博氏、同事業開発部 部長 加藤千加良氏、NTT東日本 村上秀明氏、古川美沙氏、千葉恵梨氏

受付業務の生産性向上を目指す大成

大成は、ビルの清掃や警備、設備管理などのビルメンテナンスを本業とする会社だ。今年で創業62年目を迎える同社は、旧来のビルメンテナンス業務に留まらない様々な取り組みを行っており、警備アバターロボット「ugo (ユーゴー)」なども注目を集めている。

  • 警備アバターロボット「ugo (ユーゴー)」

20年以上にわたり受付応対業務と向き合ってきた同社が、NTT東日本とともに9月に発表した新しい受付ソリューションが「T-Concierge (ティー・コンシェルジュ)」だ。

日本の労働人口は減少の一途をたどっており、少子高齢化が進む中で当面解決の兆しはない。受付業務においては、声が聞き取りやすくやさしい印象を持つ若い女性の求人が多いが、それにこたえるほどのヒューマンリソースは望めない。

この課題に長く向き合っていた大成は、2019年2月、ICTを利用した効率化を目指し、NTT東日本に打診。こうして生まれたのが、受付業務にアバターを用いる「T-Concierge」となる。

  • 「T-Concierge (ティー・コンシェルジュ)」の受付画面

営業本部 営業カンパニー 事業開発部 部長の加藤千加良(ちから)氏は「受付業務は時間的にも場所的にも拘束が大きい業務です。アバターを用いることで、受付を必要としない時間帯はバックオフィスで業務を行うことができ、業務の効率化が図れます」と、最大の特徴について話す。

人と人がICTで繋がるT-Concierge

「T-Concierge」は、約43インチのデジタルサイネージに映し出されたアバターを介して受付・応対を行うソリューションだ。

来訪者がサイネージに映し出されたボタンを押すと、遠隔通信でオペレーターに通知され、オペレーターが手元にあるタブレット端末から応答開始ボタンを押すと、アバターを通して顧客へ対応できるという仕組み。

  • オペレーター側のタブレット端末画面

当初はAIによる対応も考えていたそうだが、現状のAI技術ではまだまだイレギュラーな対応は不可能であり、人がAIに合わせる必要が生まれてしまう。円滑な受付業務、人の温かさが感じられる対応は、まだまだ人でなければ難しい。そこで、アバターという存在を中継するという現在の形が採用された。

「多くのシステムでは、アバターとしてキャラクターを利用されていると思うのですが、当社では1枚の写真から3D CGでアバターを起こすという試みを行っています。本当の“人”が対応しているように見せるというのが大きな違いです」(加藤氏)。

  • 一枚の写真から一週間ほどで精巧なアバターを作り出す

加えて、NTT東日本 千葉事業部 地域ICT化推進部 担当課長の村上秀明氏は、アバターを採用することで得られる利点を次のように語った。

「いくら精巧に見えても、アバターだということはすぐにわかるでしょう。すると、AIかと思って人が寄ってくるんです。でも実際は生身の人が対応しているので、AIでは不可能な丁寧で柔軟な応対が行えます。それが利用者にとってはサプライズとなるんです。AIかと思って要求レベルが低いところから入って、高度なおもてなしを受けるわけですから。さらに、アバターを介すことでクレームを受けづらくなるというメリットもあります。アバターを怒る姿というのは滑稽ですからね」(村上氏)。

T-Conciergeの強みとは?

アバターは、通常の遠隔会話システムと比べた際のT-Conciergeの特徴といえる。アバターを利用するメリットは、受付業務が特定の人物に限定されないという点にあるという。

T-Conciergeでは1つのアバターに対して複数のオペレーターを登録することができ、だれが応答しても顧客は同じアバターを介して受付が行える。これには場所に縛られない以外にも様々なメリットがある。

1つ目は、受付の負担が分散されること。オペレーターの業務を受付だけに限定させることなく、柔軟な対応が行える。2つ目は、年齢、人種、身体、服装に関係なく使えること。アバターにマッチする声質は必要だが、それさえクリアしていれば外見に左右されることなく業務が行える。

3つ目は、外国語への対応。T-Conciergeはサイネージ画面に対応できる外国語を表示させることが可能で、外国語を選んだ際は、対応できるオペレーターの画面にのみ通知が行われる。つまり、外国人が来訪する環境であっても多国語を話せる受付を雇用する必要はなく、その外国語を話せる従業員がいれば応対をシェアできるということだ。

  • サイネージ画面の外国語アナウンス

  • オペレータは対応する言語を選択してから受付を開始する

  • 対応中のオペレータを表示する画面

T-Conciergeが備えるこれらの特徴によって、企業は生産性向上とコストの削減、労働者によっては雇用機会の増加が期待できるだろう。また、コロナ禍の現状では対面を避けられるという利点もある。

「例えばアクティブシニアの方、事業所から遠い場所にいる方、体が不自由で通勤できない方などが遠隔で受付として働けるようになります。人手不足といっても、働きたい人はたくさんいると思うんです。ICTで働ける環境の敷居を下げてあげれば、そういった方たちの雇用も促進できると考えました」(村上氏)。

観光地での活用も視野に

T-Conciergeの特徴が活きるのは、オフィス業務の受付だけではないだろう。その可能性は、地方になればなるほど広がる。

例えば、地方では外国語対応が行える人材が枯渇している。地方の観光エリアでは高給で求人を出してもなかなか見つけられず、見つけたとしても雇い入れるのは難しい。そんな時は観光協会で人材を雇い入れ、観光案内所などにサイネージをおいて、外国語対応を集約すればよい。

また観光案内所のアクセスが悪いといった状況においては、サイネージをアクセスのよい駅などに置いて遠隔対応を行うといった運用も考えられる。さらに、パンフレットに載っていないような地元に密着した情報を得る手段として、各旅館にオペーレーション用のタブレットを置いて情報を提供するといった使い方も可能だ。

  • 案内用に地図を表示するといった機能も搭載する

「イベント会社さまからも引き合いもいただいています。コロナ禍でファンイベントの機会が減っていますので、会場にサイネージを置いてアバターを通じてファンとの交流を行おうというものです。動画だとリアルタイム性がありませんし、ZOOMなどでは出演者の準備が大変です。しかしT-Conciergeなら、声だけでリアルな体験を提供できるのです」(加藤氏)。

ICTによって新たな雇用、新たな職を生み出す

T-Conciergeは、完全なオープンイノベーションの形で開発が進められたソリューションだ。大成、NTT東日本のほか、さまざまな会社が各々の判断のもとでビジネスモデルを考え、T-Conciergeは完成した。市場に対して夢を持ちながら新しい世界観を作っていく、そういった考えを持った会社が集まった結果がこのソリューションといえる。

加藤氏、村上氏は今後の活用の一例として、介護施設を挙げる。痴呆症の患者さんは、いつもと同じ介護福祉士を求める傾向があるが、業務が重なったり、場合によっては退職したりで、その希望は必ずしもかなわない。そのようなシーンにおいて、T-Conciergeのアバターを利用すれば、安心してもらえるのではないかという案だ。可能性はまだまだ無限に広がっており、思いもしない場所でT-Conciergeを見かけることになるのかもしれない。

「当社は最近、コーポーレートメッセージを『ビル、元気。』から『カタい社名で、じゆうな発想。』と改めました。我々はICTを活用して、新たな雇用、新たな職を社会に生み出したいと考え、このT-Conciergeを作りました。シニアの方や障害をお持ちの方、働く時間の限られる方や遠方に住んでいる方、そういったさまざまな人が仕事に復帰できる、そんな社会に寄与できればと考えています。」(加藤氏)。