――ドラマトラックからアニメになり、アフレコで試行錯誤した場面などはありますか?

木島 一二三でいうと、ジャケットのあるなしがかなり大事なポイントなんですが、アニメのアフレコでは台本と白黒の線画から読み取れる情報しかないので、これどっちなんだろうってことが結構ありました。常々、確認作業をしていましたね。収録中も、テストではジャケットを着ていたのに、流れで本番は着るのを忘れて「すいません、もう一回お願いします」っていうのがありました。

――アニメのアフレコならではですね。キャラクターに関しては、やはりCDで培ってきたものをそのままアニメでも生かすアフレコだったのでしょうか?

斉藤 そうですね。キャラメイクのベースは、今まで培ってきたものを大事に、という感じでした。だけど幻太郎に関しては、ドラマトラックよりも少しトリッキーさがマイルドになっていると思います。1話の段階で「ドラマトラックほどオーバーにせず、抑えて欲しい」と言われていたんです。

――幻太郎は、ドラマトラックでは突然「まろは…」と人称が変わるなど、人を撹乱させる言動をとるキャラクターでしたが、確かにアニメでは、騒がしい乱数と帝統を落ち着いて見守る姿が印象的でした。

斉藤 バランサー的な立ち位置になっていると思います。もともと、常識のある人がトリッキーな振る舞いをしているという解釈もできるキャラクターですし。シブヤ・ディビジョンは、アニメだとキュートな乱数と、構ってあげたくなる帝統、それを一歩引いてみている幻太郎っていう立ち位置になっていて、より”キュートでポップなディビジョン”というのが強調されているのかなって思いました。

石谷 そういう意味でいうと、二郎もドラマトラックから意識的に変化させたところがあって。兄ちゃんに対する声と、三郎や友達に対する声のギャップを大きくしたくて、アニメでは完璧にスイッチを切り替えました。

――それはどんな理由で?

石谷 アニメだと、二郎のガタイの良さが可視化されるじゃないですか。180cmもあるその体から、ドラマトラックで出しているような、兄ちゃんに対する声って普通は出ないと思っているんです。二郎は精神が体に追いついてないから、あの声になっていて、それが二郎の伸び代の部分。アニメでは姿が見えるからこそ、そうした声の違和感、つまり二郎ののびしろを感じて欲しいなと思って。

僕自身も、一郎に対する声は結構無理をしながらやっているんです。ギャップを大きくしたくて、がんばって喉の調子を調整して、あそこの音域が出るように調節していきましたね。

駒田 銃兎で、アニメで意識したことと言えば、いかに違和感なくラップを聞いてもらうかでした。

――違和感とは?

駒田 銃兎は、ストーリーパートだと基本的に落ち着いていてクールなキャラクターですが、ラップでは圧倒的にハイトーンでアタックが強い。ヨコハマ・ディビジョンは、圧倒的な低音の理鶯に、畳み掛けるような中音域の左馬刻に、鼓膜を刺激してガチガチに攻めるハイトーンの銃兎がいるから楽曲が面白いんです。だから下げられない。でも、初めて銃兎を見る人は、ストーリーパートからラップのあまりのギャップに「銃兎さんがこのラップしているの?」ってなると思うんです。

――確かに、落ち着いているイメージが先にあると、ラップの声のアタックの強さは元気すぎるように聞こえてしまいそうです。

駒田 だから、アニメではドラマトラックより声のキーレンジを気持ち大きく使って表現しておこうと思いました。ラップで出てきた銃兎の声が違和感になったら嫌なので、銃兎さんはこういう声も出るんだというのを、ストーリーパートから馴染ませなきゃと意識していました。

●言葉の意味を超えて、胸にくるラップ

――なるほど。アニメで初めて『ヒプノシスマイク』と出会う人も多いですからね。今回、オープニング、エンディング、さらに各話ごとに新曲のラップがありますが、その中で印象的だったものはありますか?

斉藤 まず、オープニングテーマがいきなり難しい!と思いました(笑)。

木島 壮馬くんでも!?

斉藤 まず速いじゃないですか。速いけど、それに踊らされているとかっこよさが伝わりづらい。サビも、歌い上げるような感じだったので、キャラクターによってはらしさをどこまで出せるのか、という課題もあると思いました。

駒田 オープニングのリレーは今までの中でダントツ速くて、どのキャラクターも最速記録だったんじゃないかな。マジで10秒もないくらいなんですよ。

斉藤 オープニングテーマとしてはすごくかっこよかったですよね。ありがたいことに多くの方に応援していただいている中で、それに甘えることなく、今までやってないことをやっていこうっていう気概をすごく感じて、かっこいいなと思いました。

石谷 あとエンディングテーマはディビジョンごとに歌っているんですけど、ヨコハマ・ディビジョンは銃兎の声が一人だけ突き刺さるんだよね、「俺たちの絆」「キズナァ!!」って(笑)。

駒田 ミキサーさんが調整してくれているから音量はみんな同じはずなんだけど、単純に僕の声が突き刺さりすぎるんだよね。

石谷 突き刺さるんだよね、カーンって。トレンドにも「キズナァ!!」が入ってた。

――各話のバトルシーンのラップについてはいかがでしたか?

駒田 はるくんに、6話のラップについて聞きたいな。

石谷 あれ、かっこよかったでしょ! 好良瓶太郎さん(木村昴)が、圧倒的にエレキテルテル坊主に勝ちたくて、今までで一番韻を詰め込みましたって言ってた。俺もあまちゃんも歌っていて大満足の一曲ですね。

イケブクロ・ディビジョンは今まで、さわやかで疾走感のある楽曲が多かったんですけど、これはイントロのギターからゴリッゴリでかっこいいですよね。僕たちも『DEATH RESPECT』みたいな重たいサウンドの曲を歌いたかったので、一つやりたかったことが叶いました。

――レコーディングでの思い出はありますか?

石谷 僕はイケブクロ で2番目に録ったんですけど、1番目があまちゃんだったんですよ。聞いたら、あまちゃんが思いのほかゴリッゴリにラップしていてかっこよかったので、収録も気合が入った覚えがありますよね。だいたいいつも、想定よりもあまちゃんは怖くしてきます。あの子も狂犬なので(笑)。

駒田 ヨコハマ・ディビジョンだと、4話の左馬刻のリリックがなかなか刺激的 で「地上波でこんなの出すんだ! こんなどストレートなリリック!」って(笑)。これが言い切れるのが、ヒップホップの良さかなと思いました。

――ストレートすぎて文字に起こせないラップでしたね。

駒田 それから、銃兎さんの8話目の「味方につけた極道からゲリラ 先輩方ゴクロウサマでした」っていうところが、サウンドもいいし、めちゃめちゃ銃兎らしいですよね。目を細めて見下している絵が浮かぶ、腹立つ感じのリリック。あのラップは、銃兎と理鶯は自分で名乗るんですけど、左馬刻さまだけは二人に呼ばせていて、そんなところにも3人の関係性が出ていますよね。

木島 僕は、シンジュク・ディビジョンの7話のラップが好きです。かっこいいですよね。仕上がったものはもちろんなんですけど、仮歌をそのままみなさんにお届けしたいくらい、パワーがすごくて。シンジュクの情景が見えるというか、ここに生きている人たち、苦しんでいる人たちが目に見えて、耳に聞こえる曲だなと思います。

「絵具が混ざる 俺っちちょっと 最高なシチュエーションで最低な気分さ」って、わからないんだけど心に来る。それが何なのかっていうのを明確に伝える言葉がちょっとないんですけど。とにかく7話の曲は非常に好きです。

――一二三のラップの雰囲気も、いつもと少し違った印象を受けました。

木島 明確に怒っている対象がいるから、そのあたりの感情の表現が違うのかな? ストーリーの気持ちの高ぶりの先にラップがあるので、セリフと似た感じがありましたね。アニメの中で使われなかった部分もあるので、フル尺で早くみなさんに聴いてもらいたいです。後半にいくにしたがって情景描写が鮮明になって感情も強く出てくるので、ぜひ。

――先日発表されましたが、新曲のラップはすべてまとまって今後リリースされるんですよね。

斉藤 自分が録ったものはデータでいただいているけど、全体がまとまったのを聴けるのは楽しみ。僕らも欲しいですよね。

――シブヤ・ディビジョンのラップだと印象に残っているものは何ですか?

斉藤 5話の曲がすごい好きですね。幻太郎が狂言回しというか語り部のような役を担っていて、おばけが怖い乱数と、いたら面白いという帝統と、3人で違う方向を向きながらサビはきれいにユニゾンする。曲としても80’Sっぽくて、ビート感があって、シブヤ・ディビジョンに今までなかったような曲調かなと思います。

――8話の『JACKPOT!』も、今までにない攻撃的な曲調でしたね。

斉藤 冒頭で「小生は嘘が大嫌いです!!」って幻太郎がすごく怒っているんですが、あれは、最初に普通の「小生は嘘が大嫌いです」で、OKが出たんです。でも「念のためすごく怒ってみてもいいですか?」って聞いてみて、あれを録りました。現場では結構笑いがとれて、スタッフさんからは「じゃあ良きほうを使います」と。前者が採用されるかなと思ったら、怒っているほうが使われていてびっくりしました。

――確かに、あの大嘘ぶりは幻太郎らしいです。

斉藤 さっきもお話ししたとおり、アニメの幻太郎は穏やかな人かなと思いきや、要所要所でユーモア精神が描かれていて、そこを使っていただけて嬉しかったです。

●シンジュクは”仕事人”、ヨコハマは”職人”

――収録現場で思い出に残っているエピソードはありますか?

木島 1話のアフレコはコロナ禍の前だったので、全員で収録ができたんですけど、自然とディビジョンごとに固まって座っていたのが印象的でしたね。

石谷 食レポ三人組も3人並んで座っていましたね。

駒田 一人が座っていると、なんとなく2人分空けて別のチームが座るようになっていたんですよ。ディビジョンごとの3人で掛け合うので、離れて座るよりはと、自然な流れなんですけど。

木島 ただシブヤだけバラバラだったんです。

斉藤 正確に言うと、白井さんだけが違うところにいる。

石谷 そうなんですよ。自由。本当に自由。

木島 そこも乱数ってキャラクターに沿ってるっていうか(笑)。

斉藤 ある意味ね。ノヅ(有栖川帝統役:野津山幸宏)は結構近くに来てくれるんですけど、白井くんは収録直前にすっと、ぜんぜん違うところに一人いて「お願いしまーす」って。

駒田 でも、みんながディビジョンごとにぎっちり座っていると、シブヤのところしか空いてなくて、白井さんが結局シブヤに収まっていたこともありました。面白かったですね。

石谷 第1話の最初は正面のところにThe Dirty Dawgの4人が座っていて。4人が座っている姿をみると「ああ、これは強いな」って思いました。

駒田 速水さんが真ん中にいるだけで現場が引き締まるよね。

石谷 あと、みんなで食べた差し入れのどら焼きが美味しかったなあ。

斉藤 『ヒプマイ』はキャスト同士がかなり仲良いと思いますよ。ライブもたくさんやってきましたし、それこそ絆を感じますね。

木島 こういう情勢になってからは、飲み会もできなくなったし、ディビジョンごとの収録になってしまってそのあたりは残念でしたね。

斉藤 シブヤはシンジュクの後に録らせてもらうことが多かったんですが、シンジュクのみなさんは余裕をもってきっちり収録を終えてくださるので、”仕事人”って感じがしました。さくっと終わらせて「お疲れ様でしたー」って帰っていく。

木島 速水さんが一番入りが早いんです。だから遅く行くわけにはいかないんですよ。

斉藤 入りの順番で、だいたいこうなっちゃうっていうのありますか? シブヤは絶対にノヅが一番にいて、次に僕で、白井君が絶対に最後。マイペースな人だから(笑)。

木島 シンジュクは、だいたい速水さんが一番になっちゃうから、俺ができるだけ早く行く。伊東くんは超マイペース(笑)。

駒田 ヨコハマは、高確率で神尾さん、僕、浅沼さんの順ですね。

石谷 イケブクロは俺か昴さん(木村昴)が一番で、あまちゃんが最後でしたね。昴さんはいるときはいるけど、いないときはとことんいない。シンジュクが仕事人なら、ヨコハマは職人のイメージがあったな。ひとつひとつのセリフにこだわっているイメージ。

駒田 ヨコハマは口調が対する人によって変わることが多いし、左馬刻の乱暴な口調はオリジナリティが強いので、ブラッシュアップする時間が必要でした。アドリブも、作戦会議が多いチームですね。

石谷 イケブクロは昴さんの録りもの(CMや次回予告)が多かったから、その終わりを待って、他のディビジョンの人と少し話して帰ることが多かったかな。

駒田 次回予告の英語は、たまたま前後にいたあまちゃんや野津山くんから「どうやって言うんだろう」って相談されましたね。それぞれのキャラクター性があるから、それを踏まえたうえでアクセントを話し合った記憶がある。

石谷 二郎はそもそも英語が言えなかったから相談しなかったな(笑)。中学校の最初に英語をやったときに、僕も読み方がわからなくてWHOをフォーって言っていて、それを思い出して「フォー」って言いました。

――9話以降、いよいよ中王区でのトーナメント戦が始まりますが、楽しみにしているファンのみなさんへ一言お願いします。

石谷 これからバトルシーズンが、アニメならではの描かれ方で再現されています。銃兎に煽られる二郎とか、三郎に怒る大人気ない理鶯とか、他のディビジョンと交わることでさらにキャラクターの人間性が深く見えていって、世界観が深掘りされていくんですよね。

最後まで駆け抜けていきますので、置いて行かれないように、駆け抜けていく風を感じるだけでもいいので(笑)、見届けていただきたいです。チームやキャラクターに感情移入しながら応援していただければと思います。それと、続きがやりたいです! よろしくお願いします!

駒田 『ヒプマイ』って長くてとっつきづらいなと思っている方にこそ、途中からでも見ていただきたいですね。1話完結で割と見やすく構成されていて、アニメさえ見ればこれが『ヒプマイ』だよって言い切れる感じになっていますので。それこそラップパートだけでもいいので、気楽に見ていただきたいです。9話から入っても大丈夫だと思います。今後は中王区などがよりどう絡んでくるかも見所です。

木島 まず、ドラマトラックのバトルシーズンを一緒に戦った人たちというのは、相当な興奮、感動した瞬間が心に刻み込まれていると思うんですよ。あの壮絶だった戦いがアニメになるとどう描かれるのか。もう一回、一緒に興奮しましょう。思いっきりテレビの前で縦に手を振っていただきながら、一緒に白熱できるのは『ヒプノシスマイク』ならではなんじゃないかと思います。これから我々は戦いの中に行きますけど、ずっとついてきてくださいね。

斉藤 9話以降でこれまでと大きく違うのは、ディビジョン同士がぶつかること。バトルとしての魅力がより9話以降はあると思うので、そちらを楽しみにしていただきたいです。各ディビジョンでかっこいい見せ場があるのでじっくり見ていただきたいなと思います。シブヤはポップでユーモアがある話が多かったですが、9話以降でシリアスな部分も見られるようになるので、ぜひそのギャップも期待して楽しんでいただきたいと思います。