「20代半ばぐらいまでの若者は優秀だ。彼らが上の世代に感じている違和感は間違っていない」と、ベンチャーキャピタリスト・佐俣アンリさんは断言します。アンリさんは、これまでに「一番になりたいという熱を持っていること」を基準にして、100人以上の若手起業家を支援してきました。

その経験をもとに、「優秀なのに進む道が見つからず迷っているように見える」若いみなさんにエールを贈ります。

「親世代の生き方に乗っかるのは得策じゃない」という君の感覚は正しい

今の20代半ばぐらいまでの若者は非常に優秀です。それは彼らがITを難なく使いこなすデジタルネイティブだからというだけではありません。優秀だと感じる最大の理由は、彼らが親の世代が歩んできた生き方に乗っかることが得策じゃない、と直観的に気づいていることです。

加えて、コミュニケーション能力が高く、気候温暖化や、地球のサスティナビリティー、SDGsなど社会的な問題への感度が高い。話すことも論理的だし、人間的にも真面目な子が多いと感じます。

若者は「大企業に就職すると良い」というおじさん世代の常識を信じていません。僕の年代も含め、おじさんたちが作ってきた世界観をあんまり信じていないから、「おじさんたちの価値観を再生産するのは良くないってわかってるぜ」というメッセージを僕たちに突き付けてきます。

僕はいわゆる一つ上のミレニアル世代の36歳ですが、彼らは一歩先を走っていて、おいて行かれそうな感覚があります。僕はこの世代が新しい世界を創り出していく「熱」を持っていると期待しています。だから、この若者を心底、応援したいと思います。

迎合しなくていい。君たちの価値観や直観は正しい。

一方で若者は、経験値がないから「じゃあ、僕らはどこへ行けばいいんだ?」と自分が進むべき道が見つからずに、悩んでいます。僕らの世代は「名の通った会社に就職すりゃあいいんだろ」って思っていましたが、今の若者は違います。「良い会社に就職するのは本当に正しいのか?」と自分に問いかけています。就職先選びでは、大企業と、スタートアップを並列で考えています。

君たちは正解がない道を歩もとしているから、悩みながら進むしかないというのが正解です。でも、明確な答えはそう簡単には見つけられないから、おじさん世代からは君たちがウジウジと悩んでいるようにしか見えないのでしょう。「お前ら迷ってばかりだな。俺らが若い時は四の五の言わず、死ぬほど働いたよと」と諭すおじさんがいっぱいいるから、若者たちは「チゲえ、こいつら、話通じねえな」って思って、上司とは呑みに行かないんです。

僕は、これまで多くの若い起業家たちとつきあい、身近でその成長を見てきたからわかりますが、彼らが直観的に考えていることは間違っていません。いつか、自分たちにしっくりくる言い方とか、方法とか、今はまだ手に入れていなくても、いつか必ず手元に降りてくるから、それまで迎合する必要はないのです。「Don’t trust over 30.君たちの価値観や直観は正しいのだから、そのまま、まっすぐ進んで大丈夫だよ」って言ってあげたい。

  • ANRIコーポレートサイトの投資先企業一覧だ。アンリ支援を受け今や大手企業になったところもある。経営者の「熱」で満たされている。

これで生きていくという何かが見つかったら、迷わずやろう。

尖がった若者や、周りからは理解不能な若者がいつの間にか角が取れてしまうことって、僕らが若い頃もありました。彼らは旧世代と折り合いをつけるうちに、自分が本来持っていた「熱」を失っていきます。例えば将来設計についての親の価値観とのすり合わせの場面。親世代は必ずこんなふうに言うでしょう。「せめて大学だけは入ってくれ」「できれば良い会社に入ってくれ」と。

でも、そういう真っ当な道にはまって、尖っていた子がだんだん普通になっていくのを数多く見てきました。

この先の世の中はこれまでとは大きく変わっていきます。いま人気の会社に就職することが正解かどうかなんてわかりません。大企業もスタートアップも同列に考えられるマインドこそが正しいのです。僕ら以降の世代は年金ももらえる金額が減っていくかもしれないし、支給年齢も高くなるでしょう。大企業に勤めても得をするプランが見当たりません。

それなら早く自分がやりたいことに素直になって、頑張ったほうが得なんです。

僕が奨学金で応援している子には、学者っぽい子や、リサーチャーっぽい子、スポーツ選手などいろいろです。でもみんな高校生で「自分はこれで生きていきたい」っていう、自分の熱源に気づいています。自分がやりたいこと、登りたい山が見つかっていることは、幸せなことだし、それに従順に生きた方が、人生に後悔はないはずです。鉄は熱いうちに打てと言います。

たとえ今は若くても、人生は有限です。死に際に後悔しない人生を送ろうよ、それが僕からの最後のメッセージです。