22日にNHK総合で放送される『NHKスペシャル ドラマ「こもりびと」』(21:00~22:13)で主演を務める俳優の松山ケンイチが20日、東京・渋谷の同局で取材に応じた。
NHKスペシャル班の膨大な取材の蓄積をもとに、ひきこもり当事者の声をドラマで描く本作。重いストレスを抱え働けなくなったことがきっかけで、10年以上に渡ってひきこもり生活を送る主人公・倉田雅夫を松山が演じた。
厳格な父・一夫(武田鉄矢)は元教師。地元でも尊敬を集める存在だが、雅夫の存在を世間から隠し、立ち直らせることも諦めていた。しかし、自らの余命宣告を機に、最後にもう一度息子と向き合うことに。一方の雅夫は、閉ざされた部屋の中で人知れず、ひきこもりから抜け出す道を必死で探っていた――。
松山は「傷ついて、ほぼ再起不能になって部屋から出られなくなるような心理状態を、部屋の中でどうやって表現するのかというのは、俳優としてはすごく難しいところではありました」と振り返り、「ほぼ武田さんとのシーン。親子のつながりはあるんですけど、会話が全然成り立っていない状況だったので、それはなかなかない機会だったので面白いなと思いました」と語った。
演じるにあたってNHKスペシャル班のドキュメンタリーを参考にしたそうで、「たくさんの人を取材されていてすごいなと思いました」と率直な感想。また、「克服はしてないけど外に出られるようになった人とは話ができましたし、『ひきPOS』(ひきこもり当事者や経験者の生の声を発信する情報発信メディア)も読ませていただき、まったく共感できない話が書かれているのかなと思ったら、共感しかなかった」と、当事者の声に共感したという。
そして、「たぶん僕は自分の中にそういう要素を持っているし、そうなる可能性を秘めていると思ったんですけど、それは僕だけじゃないんじゃないかなと思った」と言い、「大事なことを引きこもるという形で社会に訴えかけているようなところも感じた。だからきっとドキュメンタリーにもなるしドラマにもなる。すごく社会に影響を与える力を持った存在でもあるなと感じました」と述べた。
共感した点に関しては、「自分が過去に傷ついたこととか傷つけてしまった思い出が消えない。フラッシュバックみたいによみがえってくる。誰よりも人の目を気にしている。そういう繊細さは持ち続けると、自分の生き方に不都合になってくるところでもある気がする。どこかでふたをするとか見ないようにするとか、それをしたくなかった人、できない人という印象があって、最近自分もそれやると逆に疲れるなと思っているので、共感します」と明かした。
髪もひげも長く伸ばして雅夫を演じた松山。「一生懸命、生やしていました。実は仕事をしていないときは僕もこういう感じなんですよね。すべてをシャットアウトしたいと思っている」と笑った。
また、当事者と話していたときに家でパーカーを着るのか着ないのかという話題になり、「パーカーはすぐ寝転ぶには(フードが)邪魔でしかない。パーカーは絶対にない」と言われたエピソードを紹介。「衣装の案としてパーカーがありましたが、パーカーは外しました。外出する準備も整っているけど、すぐ寝られる準備も整っているというのは、すごく面白いと感じました」
そして、「本当に同じ人間なんですけど、一方でひきこもらざるを得なかった人がいて、一方でがんがん仕事をしている人がいて、その違いを考えるだけでもこの作品は意味があるのかなと思います」と言い、「同じ人間として優しさと思いやりを持って歩いていけたらいいんじゃないかなと思います」とメッセージ。「自分の考え以外の人たちを排除するようなところがどっかでありますが、そうじゃないんだなと。いろんな人がいていいんだということも考えさせられました」と語った。