日本オラクルは11月4日、コロナ禍の日本における働き方とAI(人工知能)の利用実態に関する調査結果を公表した。同調査は、オラクルと米Workplace Intelligenceが共同で実施し、日本の1,000人を含む11カ国(米国、英国、UAE、フランス、イタリア、ドイツ、インド、日本、中国、ブラジル、韓国)、計1万2,000人以上の従業員、マネージャー、人事部門リーダー、経営幹部を対象としたもの。調査期間は2020年7月~8月で、回答者年齢は22歳~74歳。

同日に開催されたオンライン記者説明会に登壇した、慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏は、「2019年度に引き続き、日本の職場でAIが活用されている比率は、調査対象の11カ国中最下位でした。一方で、メンタルヘルスケアや職場でのAI・ロボットなどのテクノロジーの導入・活用に対して、日本の従業員は抵抗がなく、かつ、コロナ禍によってテクノロジーへの投資を加速すべきという意識が高まっています。コロナ禍は、日本企業の職場でのデジタル・トランスフォーメーションを加速するチャンスであるとも考えられます」と見解を示した。

  • 慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏

コロナ禍はメンタルヘルスに悪影響を与えている

同調査によると、日本の回答者の61%が「これまでのどの年よりも2020年は職場でストレスと不安を感じている」という。このストレスと不安の増加は、日本の従業員70%のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしており、ストレスの増加(37%)、ワークライフバランスの喪失(30%)、社交がないことによる気力減退(20%)、極度の疲労(燃え尽き症候群)(16%)を生じさせているという結果が得られた。

  • 日本の従業員が抱えているストレスと不安の内容

また、コロナ禍によって新たに生じたプレッシャーは、上から業績基準の達成(48%)、不公平な報酬(39%)、薄いチーム関係(39%)、職場での偏見(38%)、退屈なルーティーン作業の処理(38%)となっており、職場での日常的なストレスに積み重なっていることが分かった。

  • 日本の従業員がストレスと不安を感じる理由

人よりもテクノロジーからのメンタルヘルスサポートに期待

同調査によると、全回答者の74%が「自分の会社がこれまで以上に従業員のメンタルヘルスを守る必要がある」と回答しており、33%の企業は、コロナ禍の結果として自身の会社がメンタルヘルスのサービスまたはサポートを追加したと回答している。

また、メンタルヘルスのサポートをロボット・AIよりも、カウンセラーやセラピストといった人に頼りたいという回答はわずか13%という結果も得られた。その理由として、ロボット・AIはジャッジメント・フリー・ゾーン(無批判区域、決めつけのない環境)を与えてくれる(42%)、問題を共有する上での先入観のない感情のはけ口を提供してくれる(27%)、医療に関する質問に迅速に回答してくれる(26%)などがあげられた。

  • メンタルヘルスのサポートをロボット・AIに頼りたい理由

リモートワークで生産性が下がる日本の現状

一方で、同調査は、日本の従業員の46%がリモートワークで生産性が下がったと回答しているのに対し、生産性が上がったと回答した従業員は15%で11カ国中最下位という結果を示している。11カ国平均では、41%が生産性が上がったと回答しているのに対し、36%が生産性が下がったと回答しており、11カ国中8カ国はリモートワークで生産性が上がっているとしている。

  • コロナ禍による生産性の変化(他国との比較)

また、労働時間についての調査では、リモートワークで労働時間が減った日本の回答者は34%であるのに対し、増えたという回答は21%で11カ国中最下位となった。11カ国平均では、25%が労働時間が減ったと回答し、52%が増えたと回答している。

「企業の生産性は労働時間と個人の生産性のかけ算であることから、日本以外の多くの国では、労働時間が増えて企業の生産性が上がっているのに対し、日本では、個人の労働時間が減ったことにより企業全体の生産性が大きく下がる傾向を示しています」(岩本氏)

コロナ禍がAIツールの投資を加速

現在職場でAIを活用しているかどうかの調査では、日本では26%がしていると回答し、昨年の調査に引き続き、11カ国の中で最下位となった。11カ国平均は50%で、インド79%、中国76%、UAE58%、ブラジル54%、米国53%、韓国46%、フランス41%、イタリア40%、ドイツ37%、英国36%となっている。

  • 職場でのAI活用率(他国との比較)

一方で、コロナ禍によりAIツールへの投資を加速すると回答した人は日本では44%で、特に経営者層は63%、部長クラスは58%が投資を加速すると回答しており、事業をけん引する経営層のAIツールへの投資意欲が高まっていると同社は見ている。

さらに、日本では職場でのロボット・AIなどのテクノロジーへのオープンさ(受容)はグローバル平均とほぼ同等という結果が得られた。ロボット・AIが誰の代替になることを受け入れるかという質問に対し、日本では、アシスタントが85%、セラピスト/カウンセラーが82%、同僚が80%、部門長が75%、最高財務責任者(CFO)が70%、マネージャーが69%が、最高経営責任者(CEO)が66%、許容できると回答した。

  • 人の代替としてロボット・AIを許容すると回答した人の比率