コロナ禍で非日常が続き、精神的に不安定になる若者が増えているという。人は自分と周りを比較したり、将来に不安を感じたりする中で常にストレスと向き合っている。一方で“今この瞬間”をまっすぐに生きる犬は、ストレス時代を生きる私たちにとって“生きるお手本”だ。

  • 【犬が教えてくれること。】過去は引きずらない! 後悔しない生き方とは /ドッグライフカウンセラー・三浦健太

犬の生き方にこそ、私たちがストレス時代を生きるためのヒントが隠されているはずだ。『犬が伝えたかったこと』著者でドッグライフカウンセラーの三浦健太さんは、我々の生き方のヒントは、「犬たちが教えてくれる」ことが多いと話します。

犬には過去も未来もない。「今」が一番大切。

「俺よりどうしてあいつのほうがモテるんだろう」「どうしてあいつはあんなに売れるんだろう」「どうしてあの人はあんなにスタイルがいいのかな」など人はいつも他人と比較して思い悩む動物です。一方、犬は「比較」をしない動物です。隣の犬の方が恵まれているとか、良いご飯を食べているとか、散歩の時間が長いとか、そんな比較をしない。比較をしないから、妬みややっかみもない。心の情緒が外的な要因に影響を受けづらいんです。

犬は時間の比較もしません。人のように「昔は良かったなあ」とか「今年までは良くなかったけど、来年からは良い年を暮らそう」という発想はありません。犬にあるのは“今”なんです。ただいまって飼い主さんが帰ってきて玄関で出会った時が1番大事であって明日の朝はどうでもいいんですよね。どうすれば「この瞬間に幸せになれるか?」それだけなんです。

そうは言っても、私たち人間に「比較をするのをやめなさい」と言っても無理なこと。人間は外から褒められたり、評価されたりしたらうれしい生き物です。他の人と比較することで喜びを感じてしまう。たとえば「今あなたは幸せですか?」と聞かれた時、「土地付きのマイホームがあったらな…」と思う人がいます。一方で庭がなくても朝出勤する時に花壇の花を見て綺麗だと幸せを感じる人もいます。

犬がそうであるように“内的な世界で価値を感じられる”ことを知ると、朝何気ない道端に咲いている花が美しいと思える自分がいるわけです。それは、美しいと思えるから幸せなんじゃなくて、小さな花を見て幸せと思える自分の“今”が幸せなんです。幸せっていうのはもらえるものとか奪い取るものではなくて、見つけられれば見つけられるもの。犬はそのきっかけになってくれるのです。

嘘をつく必要がないから、素直になれる。

私たち人間は「言葉」を生み、発達させて文明を築きました。メールも電話もテレビも、全部「言葉」。とても便利な道具ですが、最大の欠点は「嘘がつける」こと。例えば、小学生の女の子に「かわいいね」って言うと、大体「嘘っ! 」と返ってきます。その時点で嘘があることを知っているんですね。朝起きてテレビをつけた瞬間から、私たちは1日に1万以上の言葉を聞いて、それに対して全部嘘か本当かの判定をしていかなくちゃいけない。それは最大のストレスです。

ところが、犬は目や耳での情報は5割しか信用していなくて、5割は匂いで交信します。さらに、“おいしそう”とか“くさい”などの外的なものだけでなく、“やる気のある匂い”、“落ち込んだ匂い”、“悲しい匂い”、“悩みのある匂い”という内面的なものもかぎ分けてしまうんです。匂いでは嘘のがつきようがない。だから犬の感受性の中には嘘がないんです。

人は犬といる瞬間だけは嘘をつく必要がありません。ついても無駄だから。心の警戒を解いて裸のつきあいができ、素直になれるのです。その素直になれる時間が1日15分でも、20分でもあるとしたら、ストレス解消やリフレッシュになります。それが犬と過ごす最大の効果かもしれません。

犬との時間=相手の気持ちを読み取るトレーニング。

人ってどうしても自分のセンス、趣味が通じる人とだけ会話をしたがりますね。中高生を見ていても話が合う人とグループを作って、少し変わった感性の子は排除しがちです。世代を超えた会話もしません。家族間でも子供が「将来〇〇になりたい」と言うと、「そんな夢みたいなこと言ってないで勉強しなさい」となる。大事なのは「それで?それで?」と聞いてあげることだと思うんですが、なかなかできない。

ところが、犬は言葉を喋りませんから、「この子は何を考えているのか知りたい」とか、「この子と仲良くしたい」と思うと、話せない犬の気持ちを汲み取らなきゃいけなくなる。それがたぶん相手のことを知ろうとする、聞く耳を持とうとする良い練習になるのです。犬の育て方が上手なお母さんは、子供の育て方もうまいことが多い。相手の心を感じ取る習慣がついているからです。内容はともかく聞く耳が持てる。親が聞くから子供もより話すようになります。実際に、犬を大事にされているご家庭は離婚率や子どもの非行化が少ない。それは話せない相手の心を感じ取るという習慣が身についているからなのではないでしょうか。

他人と比較せず、今この瞬間、何気ない暮らしの中に幸せを見出す。素直な自分を取り戻し、自分をストレスから解放してあげる。相手の気持ちを感じ取るようになる。犬との暮らしからそんな習慣が身につけば、きっと毎日を最高の日に近づけることができるかもしれません。

  • 三浦さんが以前飼っていて17歳で亡くなったユキちゃん(雑種)。山梨県のキャンプ場に捨てられていた子犬6頭のうちの1頭。「感受性の豊かな子で、私と一緒に日本中を旅しました」