社会の様々なシーンに大きな影響を及ぼす新型コロナウイルス。新卒者の採用・就職戦線も例外ではなかった。果たして、今年度はどんな影響が出て、来年度はどうなるのか。
先ごろ、マイナビが「2020年度新卒採用・就職戦線」を発表したので紹介したい。
学生が懸念した企業の採用意欲は「前年並み」が多数
「今年度の新卒者の採用・就職戦線は、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための政府・自治体指針に大きく左右される形になりました」と切り出したのは、同社の社長室HRリサーチ部の東郷こずえ氏だ。同氏のコメントと共に、時系列でさかのぼってみよう。
振り返っても、新卒採用・就職シーズンの幕開けとなる3月の合同会社説明会が中止になったのをはじめ、4月に発令した「緊急事態宣言による外出自粛要請」で、各企業の対面による会社説明会も開催できなくなった。こうした状況下、新卒者の採用・就職戦線では何が起きていたのだろうか。
「3月時点の調査では、企業の採用意欲の減退を学生は懸念していたようですが、実際は採用予定数を「減らした」と回答した企業は2割にとどまりました。約8割の企業は「前年並み」または「増やす」と回答しています。変化としては、企業のインターンシップ実施率と学生の参加が増加したこと、学生の就職活動が二極化したこと、WEB化への対応の3つが挙げられます」。
インターンシップ実施の有無で採用充足率に大きな差
採用・就職活動におけるインターンシップの重要性は、以前から指摘されていたことだ。今回のコロナ禍が、それにどう影響したのだろうか。
「インターンシップを実施した企業と、しなかった企業で、6月時点の採用充足率に大きな差がでました。実施企業のうち、内定者がゼロだった割合は23.7%でしたが、実施しなかった企業では半数超えの55.4%になりました」。
この結果は、学生の就職活動が二極化したことと大きな関係性があるようだ。インターンシップの実施時点では、新型コロナウイルスの影響が軽微で、学生は積極的に動くことができたが、3月以降は活動が大きく制限されることになった。出会いの場が少なくなれば、採用充足率が大きく下がるのも道理だろう。
WEB対応におけるコミュニケーション不足を懸念
もうひとつのWEB化への対応は、直接会う必要がないことから進むのは当然予想されたことだ。ところが、6月に実施した同社の調査では、WEB面接を取り入れた企業は増加したものの、全てWEB対応にできた企業が1割未満で、半数以上が「面接は全て対面形式で」と回答。WEB化について、企業や学生はどう思っているのだろうか。
「企業、学生とも、移動の時間や交通費などでWEB化のメリットを感じているようです。しかし、一方で双方ともコミュニケーション不足と、そこから生じるミスマッチを不安視もしています」。
オンラインの会社説明会や面接を支援する新たなツールは登場しているが、対面形式と比較すると、企業、学生とも得られる情報量は少なくなる。特に、課題になるのが職場の空気感や雰囲気といったインフォーマルな情報だ。ミスマッチを懸念するのも当然だろう。
「学生のアンケートから分かるのは、個別の企業セミナーや一次面接といった初期フェーズではWEBで対応し、最終面接等のフェーズでは対面で行うといった使い分けが求められていることです」。
今期のこうした状況を踏まえ、来期の採用・就職活動はどういった動きが予測されるのだろうか。
「来期の採用計画については、6月の時点で8割の企業が継続すると回答しています。新卒採用は、長期的なバランスの良い組織体制づくりに不可欠なこと、そして日本が人口減少社会になったこと等から、こうした結果になったと思われます」。
では、コロナ禍によるニューノーマル時代、来期の新卒採用・就職活動では、どういった施策を展開していく必要があるのだろうか。
「WEB化で不足するインフォーマルな情報をどう提供するかが問われます。そのため、ひとつには、企業が多面的な情報を提供していく複合的な施策が必要になります。具体的には、ノンバーバルコミュニケーションの見直しや動画の活用が挙げられます」。
ノンバーバルコミュニケーションとは、言葉によらないコミュニケーションのこと。例えば、エントリーシートに自分らしさを出せる写真と、そこに紐づくエピソードを紹介する項目を設ければ、その人らしさをくみ取るヒントになる。
「もうひとつは、自社が求めるスキルや人物像などの具体的な言語化です。これまでの対面形式なら、場を共有することで感覚的に伝えられていました。それができないので、すべて言語化する必要があります」。
日本社会は、物事をはっきり言わない曖昧文化が根付いているが、これからのニューノーマル時代、以心伝心は通用しないということだろう。
コロナ禍による意識変化の可能性
ブリーフィングの最後に、東郷氏から興味深いサジェスチョンがあった。今回のコロナ禍によって、学生の意識変化が生まれている可能性があるという。
「リモートワークがもたらす働く場所への意識変化です。働く場所が自由になるという条件のもと、学生の半数が地方での勤務や居住を希望する、という調査結果を得ています」。
かねて東京への一極集中を是正することは、日本社会の大きなテーマのひとつだった。「災い転じて福となす」。確かに、コロナ禍は不幸な出来事ではあるが、一極集中の是正が進む可能性があることに一縷の希望を見出すことができた。